3章.ダストの野望

23話「エリクさんのお願い1」

-???-


 暗い一室にて。


「ああっ! 何も戦果をあげれねぇ癖しておめおめと帰って来ただぁ?」


 失敗の報告を受けた上位ウィザードが報告に来た女ウィザードに対して怒鳴り声をあげている。


「申し訳ありません」


 女ウィザードは深々と頭を下げ怒鳴り声に耐えている。


「チッ、だがよぉ、ヴァイス・リッター高ランク野郎が邪魔して来やがったのも事実じゃねぇか? 悪魔から貰った杖の性能が把握出来ただけでも許してやんよ」

「有難う御座います」


 許容の声を聞いた女ウィザードはゆっくりと頭を上げた。


「デケェ奴は呼べるのか?」

「いえ、恐らく魔力が足りません」


 恐らく、数で攻めてもダメなら質で攻めると言う発想だろう。

 それに対して、女ウィザードは恐る恐る事実を告げる。

 

「フン、だったら魔力増幅方法でも考えとけ」

「畏まりました」

「俺は賢者の石で忙しいからよぉ、じゃあな」


 上位ウィザードは調べ物を再開し、報告を終えた女ウィザードは転移魔法を使いその場を去った。


-ヴァイスリッター-


 セフィアさんから意味深な事を言われ、頭の中であれこれと考えながらギルドハウス内をうろついていたら……。


「はうぅぅぅ! カイルさん! どーーーーやったら僕もカイルさんみたいに女の子にモテるんですか! この際ルミリナさんみたいに可愛い子じゃなくても良いですから、もっと普通の女の子で良いからモテたいんです!」


 なんか物凄く回答に困る表情をしながらドタドタドターと派手な音を立てながらエリクさんが駆けつけて来た。

 まさか? ルミリナさんのクッキーを食べたからおかしな事になった? いや、それなら俺も何か変な事をしててもおかしくないから違うよな?


「エリクさん? 一体どうしたんですか?」

「あうぅーー!? 聞いて下さいよカイルさん! またアリアさんにフラれちゃったんですよ! 僕! 一緒に死霊軍団を討伐した後の流れなら行けると思うじゃないですか! ああっでも蔑んだ瞳で解き放たれたあの言葉も捨てがたいッ」


 この様子だと、おやつを食べた後アリアさんに何か言ったみたいって、何でこの人急に、にへらと気味の悪い笑みを浮かべるんだろう?

 

「そ、そうっすか……」

「それでですよ!? ルミリナさんが優しくしてくれたから、ついついルミリナさんにも言っちゃったらルミリナさんにもフラれちゃったんですよ! ああっでも振っても尚ルミリナさんのあの優しい言葉も忘れられません」


 いやーそりゃ、目の前でアプローチしてそれがダメだったからって自分に来られましてもとーぜん振りますよ。

 それ以前に出会って初日の人とすぐに恋仲になろうって事自体不可能に近いって俺でも思うし。


「そりゃーねぇ? 行き成りあんな事言われたら誰だってそうするわよ」


 と、セフィアさんが少し離れた場所から此方に歩きながら言った。


「ぎ、ぎゃああああ!? せ、せふぃあさん!? い、今の話聞いてたんですか!?」


 突然の出来事に対して目を丸くし、驚き叫ぶエリクさん。


「はぁ、人を魔物みたいに見ないでちょうだいな」

「す、すみません……」

「それより、あんな大声でしゃべってたら沢山の人に聞こえたわよ?」

「あわわわ……僕はカイルさんだけに言ったつもりだったんですけど……」


 エリクさんがこの世の終末を迎えたかの様な顔をしながらあたふたとしている。

 これ、本当に俺だけに言ったつもりみたいだ。

 うーむ、エリクさんが入れそうな穴とかどっかに無いかな?


「そうだったんだ……そうですねぇ、モテたいと言われても、俺の場合は周りが勝手に騒いでるだけだから何も言えないですよ」

「うぅ……カイルさんはイケメンだからそうなんですよね、きっとそうなんですよね」

「あら? エリク君の器量も悪いとは思わないわよ?」


 確かにセフィアさんが言う通り、エリクさんの器量に関しては俺も悪いとは思わない。

 ただ、しょーじきドン引きしたくなるよーなキャラしてますし、なにより手早すぎません? って思いはするんだけど。


「ホントですか!? じ、じゃあ、イケメンのカイル君と組めば向かうところ敵無しですね! さ、早速街に居る女の子を捕まえに行きましょう!」


 エリクさん? 手の平返すの早くありませんか?

 セフィアさんが器量についてちょっと触れただけで一瞬前までウジウジしていた表情がパッと輝いてますやん。

 手の平くるくる選手権でもあった日にはぶっちぎりで優勝しちゃうんじゃありませんか?


「クスクス、頑張ってちょーだい?」

「さっ、善は急げですよ!」


 そう言うとエリクさんが俺の袖を引っ張りギルドハウスの外へ出た。


「いや、ちょ、ま……」

「カイル? まさかそっちの趣味が……?」


 で、何故かギルドハウスの奥からトコトコ歩いて来たルッカさんに見つかった訳だ。

 って、そっちの趣味ってなんだよ、そんなん無いから! 勘違いしないでルッカさんって、ああああ、エリクさん、引っ張る力強いってぎゃああああ!!

 

「そんな訳無い!」

「あら、そう? 私、君があまりにも女性に興味が無いからもしかしたらそうなんじゃないかって、でも、もしそうならまだ諦めが付くって思ったの」

「何の心配してるんだよ!」


 諦めって何ですか!

 いや、待って、なんで貴女残念そうな顔してるんですか? もしかしてそういうシチュエーションになる事期待してませんか!?

 

「あら? ルッカちゃんじゃない? これから面白い事があるけど私と一緒に来ない?」

「面白い事ですか? 私暇ですからご一緒します」


 うん? セフィアさんとルッカさんが一緒に行動? 一体何処に? まー気にしてもしゃーない。

 こうして俺はエリクさんに連れられて女の子漁りの協力をする事になりました。

 で、第一戦場に辿り着くと……。

 

「さぁさぁ戦場にやってきましたよ! カイルさん!」

「へいへい」


 エリクさんは気分上々に叫びました。

 いや、エリクさんってこんなキャラだっけ?

 うーん、女の子に近付けるって思ったらこうなるのだろうか?

 それは兎も角、降り立った第一戦場はセザールタウンの商業区画だ。

 こには学生も入れば労働者、冒険者に主婦に年齢層も幅広く実に色々な人が居る。

 って主婦に仕掛けたら駄目ですって!

 失礼、ただ、問題点があって大体の人は歩いてるから中々仕掛け辛いんだよね。

 でも、仔羊先生はそんな歩いてる女性に対して堂々と声を掛けてたっけなぁ。

 やってやれなくはないんじゃないかな?

 ……仔羊様が受けたローキック、エリクさんだったらどんな反応するんだろうか?

 ……ちょっと興味あるかも。

 そうじゃない、エリクさんは今回の作戦でどんな手段を取るんだろう? 実力? 魔法使っちゃったりしちゃう? うむ、あれこれ考えてみるとなんか面白くなってきたんじゃない?


「さぁ、カイルさん!」


 エリクさんは目を輝かせながら、遠くでベンチに座っている水色ショートヘアーの女性を指差した。


「うん?」


 今なんつってった?「さぁ、カイルさん」って聞こえたが?

 はい? それってつまり、俺が声掛けろって事ですかい?


「あの学生、中々可愛いじゃないですか!」

「あーまぁ、確かにそうかもしれないね」

「頑張って下さい!」


 と満面な笑みを浮かべるエリクさん。

 あーあ、やっぱり俺が声掛ける事になるんですかい、そうですかい。

 とは言え、ヴァイスリッターに入ったばっかりだし、先行投資として先輩の頼み事を聞くのも悪い話ではなかろう。

 

「仕方無いですね」

「有難う御座います!」


 さ、テキトーに声掛けてテキトーに失敗して来ましょっか。

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