24話「エリクさんのお願い2」
「あのー、すみません」
俺は、エリクさんがご指名なさった女の子に声を掛けた。
この女の子には悪いんだけど、ルミリナさんって滅茶苦茶可愛いんだなぁ、料理が凄まじい事になっちゃうのが玉に瑕だけど。
うーん、ルッカさんもあんなツンケンしてるけど結構可愛いのか……。
改めて、アリアさんって物凄い美人なんだなぁ……。
いやー、比較対象って大事なんだなって改めて思うね。
「は、はい?」
突然俺に話掛けられた女性が驚いた顔をして俺の方を見た。
「あ、あの、ひょっとしてカイル先輩ですか?」
「そうだけど?」
うん? よくよく見たらセザール学園の制服を着てるじゃないか?
つー事は1つか2つ学年が下の誰かだ。
さて、1学年3桁は居る学生の中から目の前の女学生が一体誰なのか……。
ごめん、俺には分からない。
何故か目の前の女の子は俺の事を分かっているみたいなんだけど。
「私、全科目トップの成績で卒業したカイルさんにずっと憧れてたんですよ!」
胸の前で手を組んで、輝いた瞳を上目遣いさせて俺を見つめる後輩サン。
ふむ、ちまたでよく聞く上目遣いとやらは噂通り女の子が可愛く見えるみたいだ。
「そうなんだ、有り難う」
「あ、あの、突然声を掛けてくれたって事は、もしかしてデートのお誘いだったりしますか?」
「あ、いや、その、別にそういう訳じゃ無いんだけど、ほら、そこにいる緑色のとんがり帽子を被ったウィザードの人に女の子を見繕ってくれって頼まれて……」
俺がそう言うと、後輩の女の子は遠くに居るエリクさんをじーっと眺めだして……徐々に表情が曇って行って……。
「ごめんなさい、急用を思い出しました、その、また別の日にカイルさんと二人きりで勉強を教えて下さいね」
後輩の女の子はカバンの中から紙を取り出し、自分の連絡先を書くとエリクさんに見えない様、こっそりと俺に手渡した。
「分かった、それじゃまたね」
俺は一瞬チラ見をし、エリクさんがにこやかに待っている事を確認するとがっかりとした仕草を見せながら彼の元へ戻って行った。
「ど、どうでしたか!?」
「男の人は苦手だったみたいです」
「それは仕方ありませんね、挫けてる暇は有りません! 次に行きましょう!」
ポジティブって考えれば良いのか悪いのか、女の子に声掛けるのは俺だからただのお気楽な人なんだろーけど。
「分かりました」
「次はあの人でお願いします!」
エリクさんが次にターゲットとして定めたのは女性のナイトだ。
シルバーフォルムの防具がその美しさを引き立てており、恐らく俺よりも冒険者ランクは上だろう。
格下冒険者の相手なんか一々しないと思うけど、話掛けるだけならタダだしね。
「ごめんなさい! 今依頼の途中って事忘れてました!」
あーあ、この人もエリクさんを見た瞬間顔を曇らせましたよ。
この女性からも連絡先を書いた紙を貰えたんですけどね、さて、エリクさんの何が悪いんでしょう?
「じゃあ、次は……」
真実を知らないエリクさんは落胆する素振りすら見せる事無くウィザードの女性を指名し、俺が声を掛ける。
やっぱりエリクさんを見た瞬間顔を曇らせて連絡先だけを俺に渡してサヨウナラ。
次はファイターの女性を指名して……連絡先を書いた紙が4枚に増えて……。
エリクさん? 脳筋な女性からもNG出されるって一体何をどうなされたんですか!?
と俺は心配そうにするんだけど、等のエリクさんはやっぱり意気揚々としたままで今度はプリーストをご指名して。
最後の指名がプリーストだったから何となくエリクさんの本命なんだろうなーって思いながらその女性に近付く。
うーん、ルミリナさんは滅茶苦茶可愛いしアリアさんも滅茶苦茶美人だなーなんて思いながら、やっぱりエリクさんを見た途端急用を思い出して、俺の手元には5枚の連絡先が書かれた紙があって、と。
しっかし、どーすんだ、これ? ルッカさんに見つかったら何言われるか分かんないし、セフィアさんに見つかってもどーやってからかわれるか分かんないし……。
ま、いっか、細かい事は後で考えよう。
「皆忙しそうでダメでした」
「それは仕方ありませんね、でもまだ5人ダメだっただけですから、さっ気持ちを切り替えて次に行きましょう!」
うーん、他力本願な人からここまでお気楽に言われると、俺は全員から連絡先が書かれた紙を貰えたけど、なんて口を滑らせてしまいたくなるなぁ。
「あの……」
「はい?」
なーんて思っていたら今度はウィザードの女性から声が掛けられた。
ふむ、帽子、眼鏡、衣服からほぼ全てが黒色で統一されてる、この人は黒魔術の研究でもしてるのかな? ここに黒猫も居たら完璧なんだけど。
でも、どうしようかな? 今までの女性みたいにエリクさんには全く持って興味ありませんって状況になっちゃったら何かエリクさんに悪い気がするんだよな。
「はぁ……カイルさんは羨ましいですよね、こんな可愛い娘の方から声掛けて貰えるんですから……」
がっくりと肩を落とし、地面にへのへのもへじでも書いてしまいそうな雰囲気をしているエリクさんだ。
「その……エリク、さんですよね?」
おや? この女性、俺じゃなくってエリクさんに興味があったんだ、あーよかった、これで余計な事を考える必要が無くなった。
「え? 僕ですか? そそそ、そうですよ!」
「えっと、私……セリカって言います、実は昔からエリクさんのファンだったんです……」
へぇ、エリクさんのファンかぁ、確かにエリクさん位腕の立つウィザードなら沢山のファンが居ても可笑しくないし、毟ろ今までの5人の女の子達が世間を知らなかったまであるかもしれない。
「にゃーお」
おや? セリカさんが着ているローブの中から黒猫が顔を出したぞ? もしかして本当に黒魔術師だったりしてね。
「あっ、その、ごめんなさい!」
セリカさんは慌てて黒猫を隠そうとする。
「ね、ねこですか!? だ、だいじょうぶ、可愛いじゃないですか!?」
「ほんとうですか……?」
「みゃーお!」
再び黒猫が顔を出した。
「はい、ほ、ほんとうです、よ?」
慌てふためきながら返事をするエリクさん。
一方のセリカさんは無表情で声も暗いし声も細々としている。
うーん、エリクさんはそんなセリカさんにも興味がありそうだし俺が気にしても仕方なさそうだね。
「ありがとう、ございます……その、お礼と言っては何ですけど宜しければご一緒しませんか?」
「え? い、いいんですか?」
お礼? 一体何のお礼? 脈絡も無くセリカさんの方から誘いが出たぞ?
こんな暗くてポーカーフェースな女性から? 何かおかしくね? こんな暗い感じの女性が積極的に男性に話しかけるっけ?
「エリクさ……」
「ふぎゃああああ!!!!」
何か違和感を感じた俺が、エリクさんを止めようとしたところ彼女の腕の中に居た猫が突然俺に飛び掛って来た。
「わっ! 何するんだ!」
俺は反射的に横へ飛ぶ事でその襲撃を回避した。
「みー太君、いたずらはダメ……?」
「ふしゃーーーーー」
みー太君と呼ばれた黒猫は、飼い主の声を聞くと渋々元の場所に戻った。
しっかし今の襲撃、たかが猫のはずなんだけど何か違和感があった様な?
うーん、それともとっさの出来事だったから身体が反応しただけでただの気のせいか?
「カイルさん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
うーん、変な魔力がある訳じゃなさそうだなぁ。
しかし、妙な違和感を感じる以上出来ればエリクさんは誘いを断って欲しいと思う所だけど……。
でもなぁ、連戦連敗でやっと光が差し込んだ所を俺の根拠の無い直感で台無しにしてしまうのも何か違う気がするし……。
かと言って、このままエリクさんが怪しいウィザードと同行する事がいいかと言われたら悪い事だ。
エリクさんにとっては不本意かもしれないけど俺も一緒に付いて行こう。
「では、此方に……」
「俺も付いていきます!」
「え? カイルさん? いえ、当然ですよね、ハハハ」
「そう……ですか」
セリカさんは残念そうな顔を浮かべると口をもごもごとさせた。
「魔法!?」
俺は叫ぶが、種類? 分からない! 属性、分からない! 避けれる? 弾筋も分からないし距離も近い、無理!
避けられないから魔法を受けるしかないと判断した俺はとっさに『レジスト』を自分に掛けた。
「残念です」
「ぐっ……何を……した?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます