22話「同じ白でも間違えたら大変なのです」
「はわわわ!!!! お砂糖とお塩を間違えて入れちゃったーーーー助けてお姉ちゃーーーん」
何やらギルドハウスの奥からルミリナさんの叫び声が聞えて来た。
「全くルミったら……」
アリアさんが呆れながらもルミリナさんが居ると思われる厨房へと向かった。
「あら? 面白そうな事になってるじゃない?」
セフィアさんがエリクさんに向かって何かを企んでるかの様な笑みを浮かべている。
「ルミリナさんの声聞く限り大変な事になってると思うんですけど」
「そうねぇ? けれどそれを乗り越える漢気を見せるのも悪くないんじゃない?」
と言うセフィアさんからは悪意しか感じられない。
「ルミリナさんの料理……羨ましい」
で、エリクさんは何か物凄い惨事が目の前にあるにも関わらずそれを食べれる人が羨ましいとおっしゃっている。
「あーあ、塩と砂糖間違えて入れちゃったなー、別にいっかーカイルは気にしないって言ってたしー今日の朝だって間違えたおかず食べさせて何の文句も言って無かったし―」
おや? ルッカさん? いつの間にギルドハウスに来たんだ? ルッカさんはルッカさんで物凄い事言ってるんですけど。
それに加えて今の声、すっげー棒読みだったんだけど! それってどういう意味なんだ!?
「ところでセフィアさん? ルッカさんとルミリナさんに何言ったんですか?」
「ウフフ? 気になる? そうねぇ、ルッカちゃんがねー、ボウヤにご飯作るって話してたから、ルミリナちゃんが私も作りますって言い出したのよ、それに対して私がちょっと一声掛けただけよ」
すっげー楽しそうに言うセフィアさん、本当にちょっとなのかも怪しい位だ。
「カイル? 帰ってたんだ、丁度良かった」
先の独り言を俺が聞いてる事を知ってるのか知らないのかルッカさんがニコニコ笑顔で俺のところにやって来た。
「あのね~本当はお好み焼き作りたかったんだけどね、私とした事が塩と砂糖入れ間違えちゃってねー、急遽パンケーキを作る事にしたの」
ルッカさんは、右手に持っている皿を得意気に見せて来た。
うん……? パンケーキの上に生クリームが乗ってて……ラズベリーとストロベリーとクランベリーが乗っててカスタードソースが掛けられて滅茶苦茶美味しそうじゃん!
「うぅ……いいなぁ、カイルさん……」
そう思ったのも束の間、エリクさんから物凄く痛い視線を突き付けられる。
「大丈夫、みんなの分もありますから!」
ルッカさんが(珍しく!)可愛く笑顔を見せると、奥のテーブルに数人分のパンケーキを配膳した。
「ごめんルミ、私料理分からないから力になれなかったけど大丈夫?」
「う……うん、多分大丈夫だよ」
ルミリナさんがか細い声を振り絞り、自分が作ったお菓子を皿の上に乗せた。
「あの……カイルさん? これ、作ったんです」
「え? あ、えっと、有難う?」
ルミリナさんはクッキーが乗せられた皿をテーブルの俺に近い場所に置いた。
……円形、四角形のクッキーは綺麗な形をしており、焼き色も良い。
これだけ見れば非常に美味しそうなクッキーに思える。
ついさっき聞こえたルミリナさんの悲鳴さえなければ、だ。
さーて、どうする? 一口かじれば口の中に塩の味が広がるクッキーだ。
正直なところ、ダメと分かってる物を食べるのは気が進まない。
だからと言って、自分の料理に対して周りの高評価を得意気にしているルッカさんの目の前で今にも泣きそうな顔で不安気にしているルミリナさんを目の前に、マズイだの食べないだのという選択肢を選ぶには抵抗がある。
「ええ!? カイルさんだけですか!?」
「いや、エリクさんも食べて良いと思うけど……」
エリクさん? ルミリナさんの悲鳴聞いててもその発言が出来るのですか? ウィザード止めてブレイバーになった方が良いんじゃないっすか?
「ウフフフ、じゃ、遠慮無く頂きます!」
エリクさんは、ニコニコ笑顔で塩味のするクッキーを頬張った。
「ルッカさん、食パン無い?」
「は? あるけど、どうして?」
「いやー、はっはっは……普通のパンも食べたくなってだな」
「ルミリナさん! このクッキー美味しいですね!」
自ら人柱になってくれたかと思えば、何故か目をきらきらと輝かせて美味しいというエリクさんだ。
どーゆうこっちゃ? この人の味覚が可笑しいのか? それとも、実は叫び声をあげただけで、とか?
って思ってるけど、ルッカさんもアリアさんセフィアさんも、ルミリナさんとエリクさんと目を合わせようともしない。
つまりはそういう事なんだろうけど。
「え? え? 本当ですか!?」
で、ルミリナさんはルミリナさんであんなものを作っておきながらもエリクさんの言葉を真に受けてさっきまで泣きそうだった目を輝かせてると来たもんだ。
……本当に砂糖と塩を入れ間違えたのか?
「仕方ないわね、はい」
「有難う」
真実が分からない俺は、塩味クッキーを食パンのおかずにする安全策をとる事にした。
これで最悪はない筈だ。
「カイル?」
食パンにクッキーを挟みこむなんて異常な事をやっている俺に対してルッカさんが怪訝な表情で見て来た。
「ん……そこそこいけるよ、これ」
「え? え? 本当ですか? カイルさん!」
結果はやっぱり塩味クッキーだ。
けど、思った通り食パンに対して塩味の何かを乗せて食べてるのと似た感覚で主食として食べる事は可能な様だ。
しっかし、ルミリナさん、クッキーをこんな食べられ方しても喜ぶんですか。
ってあれ? 何かルッカさんがすっげー不機嫌になり始めたんだけど?
「ねぇ? カイル君? 私達って学校に居る時から知ってるよね? 君はいつになったら私の事分かってくれるのかな?」
ニコニコ笑っているルッカさんだけど、目が笑っていない。
いや、俺はルミリナさんが作ったクッキーを食パンに挟んで食べただけで何も悪い事してないけど?
あーそう言えば、ルッカさんのパンケーキにコメントしてなかったっけ。
「あ、ごめん、ルッカさんが作ったパンケーキ美味しかったよ」
「……フン、周りのみんなに免じて許してあげる、感謝しなさい」
この言い分だとまだ機嫌は良くなさそうだけど……。
なんだか頭にモヤモヤを抱えたまま、ルッカさんとルミリナさんによるデザートタイムは終わりその場に居た人達は解散した。
で、皆が居なくなった所でセフィアさんが俺の耳元で囁いてきた。
「ボウヤ? ルッカちゃんはね、ライバルのルミリナちゃんがやらかした事をした上で美味しい料理が作れるアピールをした上でライバルを粉々にしたかったのよ」
「は?」
どーゆー事? なんかすごくえげつない事を言われた気がしたんだけど。
「フフ、女の世界では良くある事よ、冷静に考えて見て? 先にボウヤと知り合ったのはルッカちゃんでしょ? で、後からルミリナちゃんが現れたのよ、可愛い清楚なプリーストがね」
「いやまー、確かにそうですけど」
「ルッカちゃんは勝気で不器用なのよ」
「は、はぁ?」
「ウフフ、これ以上は内緒よ、本人の名誉に関わるから」
一体全体セフィアさんは何が言いたいのだろうか? これじゃ、更に脳のもやもやが増える、って思った所でセフィアさんは俺の前から姿を消した。
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