20話「死霊騎士軍団討伐1」

「お、戻って来たかそれで……」

「はい!」


 早速俺は右手に『ストーン・アロー』を完成させ一旦それを保持し、続いて左手に『ファイア・アロー』を完成させ、同時に発動させ……。


「手を合わせろ!」


 様とした直前ミュラー先生が叫び、俺は反射的にミュラー先生が叫んだ通り魔法を保持する手を合わせてしまった。

 

「え? え?」


 予定していた行動と反する行動をした俺の頭はパニックを起こし、思考が停止してしまった。

 しかし、そんな事はお構い無く俺が重ねた両手の中では保持している魔法が合体されようとしている。

 

「手を離せ!」

「あ、はい」


 ミュラー先生の叫びに反応して今度は魔法を合成させてる手を離した。

 って熱い! 一体何が起こったんだ!?

 え? 足元に溶岩があるぞ!? なんで?

 

「お前の岩石魔法と炎の魔法が交わってマグマが出来たみたいだな」

「あ……」


 確かに、岩が炎の力で溶ければ溶岩になる。


「地と炎を合体させた基本だ、お前はアロー系の魔法を扱ってたな、なら『マグマ・アロー』だ、これは相手に物理的なダメージを与えながらも発火させる事が出来る特性を持つぞ、勿論他の属性を重ねると別の特性を持つものが出来る。後は、上手く合体させ、上手く発動させろ、いつも通り練習あるのみだ!」

「はい!」

「俺はまだ仕事が残ってる、じゃあな、頑張れよ!」

「有難う御座いました!」


 ミュラー先生が立ち去った後も俺は時間が許す限り練習をし、日付が変わる少し前には威力は兎も角、発動をさせる事だけに成功した。

 しかし、2回分の魔法を扱ってるので威力が無くても消費する魔力は増えてしまうため実践で扱うにはまだ早いだろうと考えながら帰路へ着いた。

 

 翌朝。

 

 今日は今日でルッカさんが朝ご飯を作ってくれた訳だけど、何故か作ってくれた卵焼きが甘かった。

 だからと言って違和感なく食べれたしこれはこれでありかな、と思いながら俺はヴァイス・リッターへと赴いた。


「あら? ボウヤ、お姉さんに会いたくなった?」


 ギルドハウスに入ると、中で暇をしていたセフィアさんに出迎えられた。

 

「いやーまぁ、その、はい」

「フフフ、可愛いボウヤじゃない?」

「あは、あはは」

「ヴァイス・リッターには慣れたかしら?」

「少しだけですが慣れました」

「良かったわね、ところでボウヤ、意外と隅に置けないわねぇ?」


 一体何の事だ? と思うし、チラッとセフィアさんの顔を見るとすっげーニヤニヤしているんだけど心当たりが全く無い。


「隅? 俺は太ってないし部屋の隅に行けると思いますけど……」

「フフ、あんな修羅場見せられたらとぼけたくもなるわ」


 修羅場って何? それに俺はとぼけたつもりは全く無いんだけど。


「修羅場?」

「あらあら? やぶ蛇だったかしら? お譲ちゃんが言う通りボウヤは鈍感みたいね」


 鈍感と言われてもなぁ……。

 昨日あった事と言えば、ルッカさんとルミリナさんが何か知らんけど険悪になった位でしょ? そんな事があったんだね? 以上の何があるんだろ? 俺には分からない。

 

「大変ですセフィアさん!」


 なんて考え事をしていたら、エリクさんが走って此方にやって来た。

 

「あら? 今から面白い所なのにどうしたの? エリク君も一緒にボウヤをからかいに来たのかしら?」

「もう、それどころじゃありませんって!」


 セフィアさんのからかいに対して真顔で答えるエリクさんを見る限り、嘘は付いていなさそうだ。


「あらそう?」

「街の共同墓地に死霊軍団が現れたんです!」


 死霊軍団? 確か学校で聞いた事はあるっけ。

 一番弱いとされるゾンビやスケルトンですらその数の多さや高い生命力のせいで討伐するのは面倒だとかなんとかって話らしい。


「どうせスケルトンか何かでしょ? 他の冒険者の仕事よ」

「確かにそうですけど、でもゾンビやスケルトンと言いましても、新米冒険者じゃ歯が立ちません!」

「そうねぇ……あ、良い事思い付いたわ」


 そう言ってセフィアさんがポン、と手を叩くと。


「アリアちゃーん、カイル君が呼んでるわよー」


 いや、ちょっと待て、なんでこの流れでアリアさんを呼んだんだ?


「……何ですか?」

 

 暫くして、勉強の邪魔をされヒジョーにご機嫌は宜しくなさそうなアリアさんがやって来た。


「いや、俺は呼んでませんよ! セフィアさんが勝手に呼んだだけですって!」

「でしょうね」


 だからと言って、完全にポーカーフェイスで淡々と言われても何か厳しい気になってくるケド……。

 

「カイル君がどーーーーしてもアリアさんと一緒に冒険したいって言って聞かないのよー」

 

 セフィアさんが身振り手振りですっげー大袈裟そうに言う。

 これ、絶対悪意込めてるでしょ! 俺は一言もアリアさんと冒険したいなんて言ってないぞ!

 大体、昨日のアリアさんの反応見て何かに誘って上手く行くって思うワケ無いでしょ!


「そうですか」

 

 セフィアさんの言葉を聞いたアリアさんが鋭く突き刺さる目つきで俺を見据えた。

 いや、待って、そんな睨まれる様な事した記憶無いんだけど!

 

「そうよ~、今丁度ね、死霊軍団討伐依頼が発生したのよねー」

「確かにアリアさんの力があれば効果的に討伐が出来そうです」

 

 エリクさん? なんでものすごくナチュラルに話を進め様としてるんですか! ってかエリクさん? いつの間に貴方はそんな真面目な方になったんですか!

 ……いや、流石に緊急事態なんだからさーすがに真面目な言動しますよね、うん。


「そう言う事でしたら了解します」

「ボウヤ、良かったわねぇ?」

「カイルさんも、ランクEですし御二人に取っても丁度良さそうな相手ですね」

「はは、ははは……」

 

 乾いた笑いしかでてこねぇ……。

 何気にこれってルッカさんに見付かったらすっげーめんどくさい事になりそうじゃね? 昨日の不機嫌を引き摺ってるか知らないけどギルドハウスへ一緒に来る事はなかったんだけど。

 まぁ良いや、場所は街の片隅にある共同墓地か。

 死霊軍団討伐に向けて準備を整えた俺達は目的地へ向かった。

 道中エリクさんが冒険者ギルドからは既に依頼を請けていたとの事で、他に参加者が居なかった場合は最悪自分一人で何とかするつもりだったらしい。


「居るわね~」


 共同墓地に辿り着くと、スケルトンやゾンビと言ったアンデッドモンスターが大量に発生していた。

 エリクさんがみんなに協力を要請したくなるのも分かる位の数だ。


「さて、術者は何処に居るのでしょうか?」


 スケルトンやゾンビと言ったアンデッドモンスターはネクロマンス法を使う何者かによって発生させられる。

 その為、今回のケースみたいにアンデッドモンスターが発生した場合、その術者が近くにいる可能性が高いく、また、発生したアンデッドモンスターの強さと術者の力量は比例する。

 稀に物凄く強い術者が最下級アンデッドモンスターを呼ぶ事もあるが、そう言う事は、まぁ、考えなくても良いと思う。

 

「さぁ?」


 セフィアさんが面倒そうに答えた。

 流石のセフィアさんも、この数を対処するのは難しいのだろうか? と言う疑問が生じる。

 

「ですよね、今回の場合も単純な侵攻なら楽なのですけど……」

 

 エリクさんが少しばかり不安気に言った。

 アンデッドを使う目的が侵攻以外に何かあるのだろうか? と少しばかり疑問に思うが、この辺はもっと難しい仕事をしていく事で見えるんだろう。


「どーせ、スケルトンしか呼べない奴なんて弱いでしょ」

「……それもそうですね」


 気軽に言うセフィアさんとは裏腹にエリクさんは嫌な予感を感じている様子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る