21話「死霊騎士軍団討伐2」

「さ、ボウヤとアリアちゃんはあっちをお願いね」


 続いて「可愛い女の娘にアピールするチャンスよ」と耳元で囁いた。


「アピール?」

「ゼブィアざーん? カイルさんなんですかぁ~? 僕の方がカイルさんより凄い魔法使えるんですよ! アリアさんだってカイルさんより僕……」


 何故か半泣きしているエリクさん。

 あれ? さっきまでの真面目モードは何処に行ったんですか?


「あら? その位アリアちゃんは知ってると思うケド?」


 そんな事お構いなしに、セフィアさんはさらっと言った。


「うぐふぅ~殺生ですよぉ~」

「はいはい、エリク君も頑張ってアピールしましょうねー?」


 まるで子どもをたしなめるかの様に言うセフィアさんである。


「はい! このエリク・ロード! 誠心誠意を込めてアピールさせて頂きます! さっ、行きますよ!」


 エリクさんの合図と共に剣を引き抜き、死霊軍団へ向け一歩踏み出した。

 目標であるスケルトン、ゾンビとの距離は魔法を使うには十分ある。

 俺はアリアさん達の盾となるべく前に出た。


「行くぞ!」


 俺を盾にし、その後ろにエリクさん、アリアさんが待ち構える陣形を形成した所で『ファイア・アロー』を遠くにいるゾンビ目掛けて放った。


「……」


 その後ろでアリアさんが魔法の詠唱を始めた。


「グルルル……」

「チッ」


 やっぱり一撃じゃ駄目か!

 ゾンビ達の体力は高く、ゴブリンすらも1撃で倒す事の出来ない俺の魔法ではゾンビの身体に炎を包み込ませる事は出来ても進行を止める事は出来なかった。

 

「ヒーリング」


 アリアさんの声だ。

 でもなんでだろう? 俺はまだ掠り傷一つ付いてもいないからヒーリングを掛ける必要は……。

 あ! そうだ! ヒーリングってアンデッドに対して掛けるとダメージを与える事が出来たんだっけ。

 

「グ……グ……」


 ゾンビの呻き声が聞こえ、正面を向くと、ヒーリングを受け悶え苦しんでいるゾンビの姿が視界に入った。

 次は俺が追撃を……。

 と考えたところで、ゾンビは歩みを止めその場に倒れ伏せた後魔石へと変貌した。


「次ね」

「そうだね!」


 ボソッと呟いたアリアさんの通り、敵はまだ沢山居る! 次はゾンビの少し後ろを歩いているスケルトンに『ファイア・アロー』を放った。


「ウググ!?!?!?」


 俺の魔法を直撃したスケルトンは、その身体を炎に包まれながらも暫く歩んだところで肉体が炎の力に耐え切れなくなりバラバラに崩れさった後魔石へと変貌した。


「ふぅ」


 こういった場面で広範囲の魔法を使えればもっと楽に倒せるんだけど、残念ながら俺は範囲魔法を扱う事は出来ない。


「ああ、もう、面倒ねぇ!」


 遠くからセフィアさんの愚痴が聞こえた。

 彼女は身に付けているクロスボウを使い的確に敵の急所を貫き1撃で倒しているが、やはりレンジャーの武器では1体ずつしか倒せない様だ。


「仕方ありませんよ」


 一方、セフィアさんをなだめるエリクさんは、魔法を放つ度に4-5体の敵を一撃で倒している。


「もう、パパっとやっちゃえないの?」

「無理ですよ、もっと強力な魔法を使おうにも僕が詠唱している間この数を抑えれる前衛の人は居ないんですから」

「はぁ、それもそうねぇ」


 幾らセフィアさんが強いと言っても、レンジャーである彼女がこの数を抑えるのは無理の様だ。

 それこそ、これだけの数相手となればナイトの中でも厚手の防具に身を固めたヘヴィ・ナイトみたく敵の攻撃に耐える事に特化でもしない限りは不可能だ。


「あの、少しお時間頂けますか?」


 不意にアリアさんが言った。


「構わないけど?」

「僕も大丈夫ですよ」


 セフィアさんとエリクさんは、前に居る敵を討伐しながらもアリアさんの話を聞いており、返事をした。


「うん」


 俺も賛同をした。

 強い人達が賛同している中で俺が反対出来る理由も無いし。


「では」


 そう言うと、アリアさんが俺達3人の後方へ移動すると魔法の詠唱を開始した。

 アリアさんは、白く輝くオーラに身体を包み込まれ幻想的な雰囲気を引き出した。


「アイス・アロー!」


 多分強力な魔法を発動させるのだろう。

 そう考えた俺はアリアさんの援護に徹するべく地面目掛けて『アイス・アロー』を放つと、カチンと音を立て、魔法が着弾した周囲を凍らせた。

 なんで、ゾンビやスケルトンじゃなく地面に向けて放ったかって?

 それはだね。


「!?!?!?!?」

「!!!!!!」


 氷って滑り易いだろう?

 ゾンビやスケルトンみたいな能無しの魔物が氷を踏むだろう?

 こうやって面白い位に、つるっと滑ってころんって転がってくれるのさ。

 更に、起き上がろうとしてもがくが起き上がろうとする手では上手く支えられずまた転ぶのさ。

 そして、後続のゾンビ達も同じく氷に滑って転ぶか、既に転んでいるゾンビ達に足を取られ転ぶのさ。

 はい、これにてゾンビ達の進行を阻止する事に成功しました! 後はアリアさんの魔法が完成する事を待つだけです!


「へぇ、あの子意外とやるわね」

「そうですね、確かにあの魔法なら効果的でしょう」


 さって、セフィアとエリクさんに褒めて貰えて嬉しいのはいいけど、フリーズアローを連発している手前、そろそろ魔力の残りが危うくなって来た。

 早く魔法を完成させて欲しいが……。

 お? アリアさんが纏っているオーラの輝きが更に増したぞ?

 遂に魔法が完成したのか?


「……悪しき魂を浄化したまえ」


 そうみたいだね!

 アリアさんの詠唱が完成した瞬間、右手に持っている杖の先端に白い光が集まったぞ。


「ターン・アンデッド!」


 杖をゾンビ達に向け完成させた魔法を発動させた!

 ゾンビとスケルトンの群れに対して神聖な光のオーラが包み込む!

 眩しい光に俺は手をかざしながらその様子を伺う。

 ゾンビとスケルトン達の断末魔の叫びとも言える声を発しながらその身体を徐々に消滅させてゆく。

 手から腕から、徐々に身体や頭も少しずつターン・アンデッドの光により消された。

 

「やりますね!」

「フフッ流石プリーストね」

「凄い……」


 ゾンビとスケルトン達がすべて大量の魔石へと変貌した所で俺達は声を上げた。


「いえ、この程度」


 アリアさんは謙遜するが、これだけのアンデッドを一瞬で殲滅させたのは本当に凄いと思う。


「後は術者ですが……」


 そう言ってエリクさんは周囲を見渡すと、


「それなら私に任せて頂戴!」


 セフィアさんは一瞬目を閉じると、サッと地面を駆けた。


「そこね!」


 掛け声と共に岩陰に隠れる何者かに向け、ナイフを投げた。


「チッ! 使えねぇ杖じゃねぇか!」


 セフィアさんからの投擲を受けた何者かは咄嗟の反応で杖を使いそれを撃ち落した。

 ローブを身に纏いウィザードに見えるが、仮面を被って居る為その素顔は謎だ。

 けれど、声から多分女性である事は伺える。

 

「やるわねぇ」


 セフィアさんが、ニッっと笑みを浮かべると次の投擲準備をした。


「うるさい! 上位冒険者の癖によくも私の邪魔をしやがって! お前達がいなければ新人冒険者共が犠牲になったのに!」

「あらあら? お姉さんが邪魔しちゃって悪かったわね」


 セフィアさんはウィザードを煽りながらも手に持つナイフの先端を彼女の心臓の先へと向ける。


「うるさい! うるさい、うるさーーーい! お前達のせいでダスト様になんて報告すれば良いんだ!」

「あのねぇ? まかりなりにも自分の敵である人間に対してフツーそんな事言わないわよ」


 ウィザードの支離滅裂な言動に対してセフィアさんは呆れているみたいだ。


「うるさい! お前達が居なければ! ばかやろーーーー!!!!」


 ウィザードは散々罵詈雑言を浴びせると、転移魔法を発動させその場から姿を消し去った。

 

「逃げられちゃいましたね」

「まぁねー、でも仕方無いわあの娘のボスがダストなら、シュバルツ・サーヴァラーに居る普通の人間の女の子よ、ちょっとばかり感情的みたいだけどね、けど、普通の人間の命を奪う訳にはいかないわね、マジモンの邪教徒なら話は変わるけどね」

「でも、可愛い声してましたよね! 仮面外した素顔もきっと可愛いんだろうなぁ~」


 いや、あんな罵声が可愛いのか!? 俺には到底想像出来ない話なんだけど! てか、エリクさん滅茶苦茶ニヨニヨしてるんですけど!

 

「へぇ~? エリク君って面白い趣味してるのね」

「そうですか? それにしても、これだけ大量にゾンビとスケルトンが召還されたのは気になりますね、一般的なネクロマンス法だったらもっと数は少ないはずですけど……正直なところアリアさんには助けられたと思います」

「そうねぇ、私もアリアちゃんには助けられたと思うわ。 ゾンビの件は……稀に良くある話じゃないかしら? 気にしても仕方ないわよ、さっ、こんな気持ち悪い場所からは帰りましょ」


 俺達は冒険者ギルドへ報告を行った後ギルドハウスへ戻った。

 大量のゾンビを討伐したお陰か結構なお金を稼ぐ事が出来た。

 今回みたいな事は多分滅多に無いからあまり無駄遣いしない方が良さそうだね。

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