17話「アリア・ルーツ」

「はわわわ!? ご、ごめんなさい!」


 勉強の邪魔をされ、キツイ一言を受けたエリクさんがヘビに睨まれたカエルの様に委縮した。


「こいつ等誰? 弱そうな装備してるけど新人冒険者? 私弱い男が嫌いって言わなかった?」


 確かに勉強の邪魔をされると俺もイラつくけど、それにしても物凄く機嫌が悪そうだなぁ、この人。


「あはははははは、そうでしたね、でも彼はセザール学園を全教科トップの成績で卒業してますし、何よりカオス学長の指示でこのギルドに入る事になってますから弱いって事は無いですよ」

「そう、それは偉業な事ね、けれど所詮は学校のおままごと、井の中の蛙に過ぎない」


 言ってる事は間違ってないし俺ももっと高みを目指したいし同じ事考えてると言えば考えてるけど……。

 それにしてもなんかすっげーキツイなぁ、この人。

 リンカさんやルッカさんもきっついけど、なんかこう凍てつく冷気で凍らせる感じのキツさを持ってる気がする。


「学校卒業したばかりにしては十分優秀と思いますけど……」

「学校を出たばかりで調子に乗った雑魚男に口説かれる程暇じゃないと捉えてくれれば結構」


 そんな事言われても俺は別に貴女に興味ねーんっすけど、って言いたいけどこの突き刺さる空気のせいで言い辛いのなんのって。


「そうですね、あはははは、ほら、カイルさん、綺麗なバラにはトゲがあるって言うじゃないですか?」


 俺としてはトゲの無い綺麗な花を見てみたいところだけど……。

 そう言えば、あの時のプリースト、ルミリナさんだっけ? あの娘はあの3人みたいにトゲは無かったよなー、同じプリーストでもこうも差が出るんだなぁ。

 

「私へのフォローは不要、毟ろ邪魔。 この男が抱く私の評価を上げる意味は存在しない」


 それにしてもこの人は冷徹過ぎると言うか、まぁ、良いんだけど。


「カイルさん、落ち込まなくても大丈夫ですよ、Bランク以上の冒険者になればアリアさんから相手されますから」


 と小声で言うエリクさんだけど、エリクさんが落ち込んでる様な気がするのは気のせい?

 まぁ、でも、Aランクを要求されないだけリンカさんよりは優しいのかもしれないけど。


「いや、俺は別にアリアさんに興味ある訳じゃ……」

「良いんです、カイルさん、みなあの洗礼を受け強くなってゆくのです、さぁ、めげずにまずはBランクを目指しましょう!」


 なんか力説してくれるんですけど、俺の話聞いて無いよね、この人。

 

「ねぇカイル? Cランクでも結構稼げるよね? そこで止めて平穏に暮らそうか?」

「そうだけど? どうして?」

「ねぇカイル? どうして君はこうも鈍感なの?」


 嬉しそうに見えて不安そうに見えて良く分からない表情を見せるルッカさんだ。

 しかし、俺の何が鈍感なのか分からない……。

 おや? 誰かがこっちに向かって来るぞ?


「よぉ、エリク、アリアさんとデートか?」


 向かって来たのは、背中にトゥーハンデッドソードを携え、見るからに脳筋……ファイターの男だ。


「いえ、僕は彼等の案内をしてるだけですよ」

「ガッハッハ、そうかそうか、じゃあ今日は俺達がアリアさんとデートしてくるぜ?」

「そうですか、是非とも頑張って下さいね」


 何だこの脳筋? 冷徹女に対してすっげー嬉しそうにしてるんだけど。


「因みに彼等はAランクです。 ですが心配する事はありません! デートと言ってますが依頼への誘いですから! アリアさんのガードは物凄く堅いですからAランクハンター如きでは手も足も出ません!」

 

 いやーその、燃え盛る炎の背景でもつけてやろーかって位に力説してるんですけど、このエリクさんって人。

 

「ガードが堅いなら防御力低下魔法でも掛けましょうか?」


 まともに相手するのも疲れて来たからテキトーな事でも言ってみたんだけど。


「ふふふ、カイル君、良い着眼点じゃないですか! そう、アリアさんはガードが堅いとセフィアさんから教えられた直後、僕はアリアさんに向かって防御力低下を掛けました!」


 いや、待って!? 実際に試した事あるの?


「それで結果はどうでした?」

「ふっふっふ、即座に『プロテクション』を掛けられ『失せろ』とご褒美を貰えました!」


 いやいやいや!? ご褒美って何さ!? 失せろって言われてなんでそーなるんですか!?


「そ、そうですか……」

「アリアさんも出て行った事ですし、案内の続きをしますね」


 ギルドハウスの案内を一通り終えた俺達はヴァイスリッターに入る旨をエリクさんに伝えた。

 エリクさんからは、ギルドハウスに集まる日にちや時間帯を教えられそれ以外は適当で良いとの事を受けると今日のところはヴァイス・リッターを後にした。


 翌朝。


 何故か今日も朝から俺の家に押し掛けて来たルッカさんと一緒にヴァイス・リッターへ向かっていた。

 彼女曰く、同じギルドに所属してるんだから良いでしょ? との事だった。


「吾輩はッ善愛な仔羊であーるッ!」

 

 ヴァイス・リッターまであと少しだ、みんなへの挨拶はどうしようか?

 なんて考えながら、相変わらずどこかツンケンしてるルッカさんと下らない事を話しながら歩いていたらどこかで聞いた記憶のあるそのフレーズが俺の耳へと入って来た。


「HEY! そこのか~のじょぉ~、善愛なボックとおちゃしないかーい?」


 当然、気になった俺は思わず足を止め声の主へ視線を送ると、こんな朝っぱらかあら公衆の面前で堂々と女性にナンパをしている例の仔羊様であった。


「何アレ?」

「ああ……確かカオス学長の指示で動いてるよくわからない生物だよ」


 ジト目で見つめるルッカさんを尻目に、仔羊様はターゲットとなる女性の目の前でクルっと1回転し、華麗なポーズを決める。

 だが、無残にもターゲットの女性は何事も無かったかの様にスタスタと歩き去ってしまった。


「学長ってあんなのが趣味だったの? 私、真面目な人だと思ってたんだけど」

「ルッカさん、何か勘違いしてると思う」


 と話していたら仔羊様は一切折れる様子を見せる事無く次のターゲットを補足、次の行動に移った。

 その一連の動作は流水の如く美しいのであるが、如何せん羊の着ぐるみを来たおっさん声の3頭身生物がそれをやっていたらただの宝の持ち腐れでしかない。


「フッフッフ、ボクは善良な仔羊さ どうだい、君も一緒にこのビューティーな夕陽を背景に……きゃうん☆」


 次のターゲットは優しい女性では無かったみたいだ。

 仔羊様が女性の目の前に立ち星の様に輝かせた瞳で見つめた瞬間、仔羊様は股間目掛けた鋭く蹴り上げを食らい後方45度の角度で吹っ飛ばされた。


「うわー痛そう……」

「何か楽しそう」


 うわーこれ、男としたら痛くて悶絶して暫く立ち上がれないってか、さすがにこれは同情しちゃうよ……。

 え? ルッカさん? 今なんて言った? 楽しそうって言った?

 え? 何でルッカさん微笑みながらびみょーに俺を見て来るんですか?


「そ、そう、ソコ、ソコガイイノー」


 会心の直撃を受けた仔羊様は後方へ大きく吹っ飛ばされ、無残にも地面をゴロゴロと転がってしまった。

 これってヒーリングが効くのかな? と思いながらも俺は地面で仰向けに倒れた仔羊様の元へ駆け付けたが……。


「えーっと……」


 あろう事か、仔羊様は大ダメージを受けた幹部を抑える事無く、お代わりが欲しいとでも言わんばかりによだれを垂らしながら怪しい顔付きでニヤニヤしている。


「にゃう~ん!」


 なんて思っていたら、突然仔羊様が気持ち悪い声を上げながら垂直に飛ぶと、空中でクルリと一回転し近くにあった樹の中でも太い枝に足を絡め逆さまにぶら下がった。


「これはこれは、カイル君なんだなぁ~?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る