18話「合体魔法と魔法剣と」

「ゲッ!」

「グフフフフ、だ~いじょうぶだよ☆ ぼぉ~くは善愛の使者だぁ~から~取って食べる事はしないよぉ~それよりもカノジョぉ? これから僕と……」


 と思ったら速攻でルッカさんにナンパを仕掛ける仔羊様。


「ねぇ、カイル? ファイア・ボールであの樹燃やすのとライトニングであの生物を直接打ち抜くのとどっちが良いと思う?」


 殺意に満ちた声で俺に尋ねるルッカさん。

 速攻でぶっ放さない以上俺への対応よりは随分と優しいかもしれない。


「多分どっちも駄目だと思う」

「ゲッヘッヘ、じょーだんだなぁ~自然を壊すのは良くないんだな~」

 

 仔羊様が言ってる事は間違ってないが、コイツに言われると何かむかついてくる。


「デュフフフ……魔族とどこかのギルドマスターが手を組んだ噂を聞いたんだなぁ?」


 と思ったら何故か急に真面目な話をし出すこの生物。

 しかし魔族って確かセザールタウンから遥か彼方のエリアにしか居ないって聞いた事あるけど……?


「それって人間を裏切った人が居るって事ですか?」

「そうなんだなぁ~でも、よくある事なんだなぁ~?」


 仔羊様はどこからとも無くクロワッサンを取り出し頬張り出した。


「良くある事って……」

「人間は強大な力には逆らえないんだなぁ~ギルドマスターなら支配欲求が高い人が居ても不思議じゃないんだなぁ~」


 仔羊様が言わんとする事は何となくわからなくも無いんだけど、幾ら力の為とは言え人間を裏切ってまで魔族に付こうって考えは俺には理解出来ないな。


「幾らなんでもヴァイス・リッターのギルドマスターじゃないですよね?」

「それは違うんだなぁ~」


 そりゃ、カオス学長が指示したギルドでそう言う事がある訳無いよな。


「カイル? 悪党の話なの? 私に任せてよね!」


 いや? ルッカさん? 正義感は大事ですけど? 魔族と組んだのはギルドマスターって話聞いてましたか?

 学校を出たばかりの俺達じゃ手も足も出ませんよ?


「グフフフフ……そんな君達に良い事を教えるんだなぁ~☆ ヌフフ、君達、合体魔法と魔法剣は知ってるかな?」

「はい、知ってます」


 これね、合体魔法はウィザードが魔術に特化した上位職セージが扱える技術で、魔法剣は、ナイトかウィザードが剣と魔法の両方を会得した場合になれる上位職マジックナイトが扱える難しい技術なんだよね。

 

「私、知らない」


 機嫌悪そうな返事をしてそっぽを向くルッカさんだけど、本来は水と風を合体させなきゃ使えない雷属性を単独で扱えるんだよな。

 

「ヌフフフフ、君の力なら出来るんだな! 出来ないと決めつけるのは駄目なんだな~! 出来ると思って地道に練習すれば出来るようになるんだなぁ~!」

「は、はい!」


 すっげーカッコいい事言ってるけど、この仔羊に言われるとやっぱムカついてくるんだよな。


「そぉーーーゆーぅーーー事なんだなぁ、僕はこれからお仕事があるんだなぁ~」


 と、自分の中でアレコレ考えていると仔羊様はクルリンパ! をして転移魔法を発動させると俺の目の前から姿を消したのであった。


「ありが……」


 お礼を言おうと思った時には既に仔羊様の姿は光の粒と共に消えていた。


「合体魔法、ねぇ?」

「ムッ、カイルは4属性使えるから良いよね! 私なんて炎と雷属性しか使えないんだから!」

「いやールッカさん? その水と風を合体させなきゃ雷は出来ないんですけど? しかも合体プロセス抜きでぶっぱなすって芸当フツーは出来ないんですけどー?」

「知らない!」


 ルッカさんはプイッっとそっぽを向いた。


「じゃあ魔法剣は?」

「私は剣を使えないけど?」

「杖にかけちゃダメって話は聞いた事無いなぁ」

「むぐぐ……」


 ルッカさんは魔法剣はどんな武器にも掛けれる事を知らなかったみたいだ。



「例えば物理攻撃用の杖をサブウェポンとして携帯して、魔法防御が高い敵に対して相手の弱点属性を付与して物理攻撃を仕掛けるって選択肢を作れると思うし」

「そ、そんな事位私だって分かるわよ!」


 本当か? 何かルッカさん顔真っ赤にしてるけど? まぁ、どっちでも良いけど。

 多分、魔法剣は後方で完成させてから強襲した方が安定するんだよなぁ。

 俺みたいに敵との接近状態で魔法剣の詠唱してる暇ってあるのかなぁ? って疑問が生まれるんだよ。

 うーん、俺が想定する限り微妙なんだよなぁ。

 ルッカさんが言う通り俺は地、氷、炎、風の4属性が扱えるから合体魔法のバリェーションも豊富だから先にそっちを覚えようかな。

 おっと、ヴァイス・リッターが見えて来たな。

 俺とルッカさんはヴァイス・リッターの中へ入った。


「おはようございます」

「カイルさん、ルッカさんおはようございます、今朝方このギルドに新しい人がまた入ったんですよ!」


 新しい人? 新年度が始まったばかりの今なら連日新しい人が入ってくるのは珍しい話でも無いか。

 それにしてもエリクさん、妙にご機嫌な気がするが一体何があったんだろう?


「へぇ? そうなんですか?」

「聞いてくださいよ! 其の娘が物凄く可愛いんです、しかも、プリーストですよ、プリースト! 純白で純真な聖職者ですよ! 女の子として物凄くポイントが高いじゃありませんか! しかもピンク色の髪でした! これはもう、フィーバーですよ、フィーバー!」


 少年の様に瞳をきらきらと輝かせ力説するエリクさん。

 昨日アリアさんに対してのテンションと変わんねーんだけど、この人可愛い女の娘なら誰でも良いのかなー? なんて思いたいけど別にルッカさんに対してテンションは上げてなかったな。

 俺はチラっとルッカさんを眺めると、何か不機嫌そうな様子が伺える。


「おお! そ、それは凄いですね! 是非ともその女の子を……って痛い! 痛いから! ルッカさん!」


 何か知らんけどまた俺の足踏んでるんですけど!

 

「どうしたの? カイル? お腹痛くなっちゃったの? 大丈夫?」

「いや、だから足……」


 ってこの野郎! 俺が指摘したら瞬間踏むの止めやがったな!


「ごめんね、朝ご飯の火の通りが悪かったかもしれないね」


 物凄くわざとらしく言ってやがるルッカさん。

 だからと言って、証拠が無いからこれ以上追及出来ないし。


「はぁ……カイルさん羨ましいですよ、こんな可愛い女の子から足踏んで貰えるなんてご褒美じゃないですか? それなのに怒るなんて贅沢じゃないですよ」


 ああ、一応エリクさんからしたらルッカさんも好意的に思ってるんだって、だからなんで足踏まれたらご褒美って発想になるんですか!


「そ、そうですか、何かすみません」

「はぁ、折角ですからカイルさん達にも紹介しますね、彼女、新人プリーストみたいですから同じ新人のカイルさん達と上手く行くと思いますから……こんな可愛い子連れてるカイルさんに紹介したくないですけどね」


 エリクさんが言ってる事は後半部分が小声で聞こえなかったが……いちいち気にしても仕方ないと思うよな?

 しかし、エリクさんが説明する女性の特徴はどこかで見た事あるような?

 それはともかく、俺とルッカさんはエリクさんにその女性の元へと案内された。

 辿り着いた場所は、昨日アリアさんが勉強していたギルドハウスの一角だった。

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