16話「白い騎士」

 セフィアさんに案内され、ギルドハウスが立ち並ぶエリアを進んでいくと、白をベースに配色された美しい木製の建物が見えて来た。

 

「ここがヴァイスリッターよ、この中には大体200人位入る事が出来るわ。 部屋も沢山あるし調理設備やある程度の勉強用資料もある。 何なら一日中ここに居ても快適な位に設備が整ってるの」

「凄いですね」

「そうでしょ? ここまで便利なギルドハウスも中々無いわ」

 

 自信満々に言うセフィアさんだけど、外から見たこの建物の感想だけでもその自信に嘘は無さそうだと思える。

 俺とルッカさんはセフィアさんに促されギルドハウスの中に入った。


「セフィアさん!? カイルさんとルッカさんじゃないですか!」

「こんにちは、エリクさん、先程振りですね」


 ギルドハウスの中に入り俺達を出迎えてくれたのはエリクさんだった。

 俺達がこのギルドに入る事を期待して何処か嬉しそうにしている様に見える。


「いやー、カイルさん達が来てくれて良かった、実はあのまま別のギルドに行ってしまうんじゃないかと心配してたんですよ。 もしそうだとしたら僕はカオス学長から何されるか……」


 カオス学長はそんな事する様な人じゃないと思うけど……。

 うーん、実はベテランの人達に対しては意外とキツかったりするのかなぁ?

 

「え? 幾ら何でもそんな事は無いと思いますけど……」

「冗談ですよ、冗談、ささっ、ヴァイス・リッターの中を案内しますね!」


 なんか冗談に聞こえなかった気がするのは気のせいだろうか? まぁいいけど。

 俺とルッカさんは、エリクさんに続いてヴァイス・リッターを案内してもらった。

 先程200人は収容出来ると聞いただけあって、ギルドハウスの中には結構な数の人がいて、くつろいだり談笑したりしている。

 彼等のクラスも、俺達が見学して来たギルドみたいに1つのクラスに偏っていると言う事は無くって、ナイト、ファイター、レンジャー、ウィザードがぱっと見均等位に居る。

 その中にも、セフィアさんやエリクさんと言った上位クラスの人なんじゃないか? と言う人達もそれなり居る様に見える。

 

「あの奥のはなんですか?」

 

 その道中で、ふと建物の片隅にテーブルが置かれている事に気が付いた俺はエリクさんに尋ねてみた。


「あの場所は主に勉強をしたい人が座る場所になってます」


 エリクさんに言われて改めてみると、近くに本棚があった。


「成る程、だから目立たない場所にあるのですね」

「はい、出来るだけ雑音から遠ざける形になってます」


 あれ? よく見たらこの勉強スペースに誰かいるぞ?


「そうですか、ところであの人は?」

「ふっふっふ……カイル君、きみもあの女性の魅力のトリコになったのですね! いやー初対面でその魅力に気付くなんて、カイル君! やっぱり噂通り素晴らしい人ですね!」


 俺の両肩を叩いてすっげーハイテンションで語るエリクさん。

 いや、俺は単純に一人だけ勉強してる人が気になっただけなんだけど。

 

「ふーーーーーん? カイル? 君はプラチナブロンドヘアーが好きなのかしらぁ?」

「何の事だよ……」


 ルッカさんがすっげー嫌味ったらしく言って来たが、俺は髪の色とか別に興味関心無いんだけどな。

 

「更にアリアさんは小さ目で可愛らしい眼鏡も掛けてるんですよ! まさに知的で可憐な美少女! そんな美しい女性に興味を持たない男性なんてこの世に居ない訳ありません!」


 その、申し訳ないけどその興味を持たない男性の一人に俺が入るんですけども。

 で、隣に居るルッカさんが頬を膨らまして露骨なまでにむすーっとしている。


「ねーカイル? 眼鏡掛けた女性なんて興味無いよねー? ほら、冒険者ギルドのあのおばさんだって君は無関心だったよね?」

「うん、別に無いよ?」


 かと思ったらなんかきゅーに不安気な態度見せてるんですけど。

 ホントルッカさんって良く分からないなぁ。


「ふっふっふ……ルッカさん、実は冒険者ギルドの受付嬢、リンカお嬢様は一部コアな男性に大人気なのですよ!」


 エリクさんがビシッと指を差して力説する。

 そう言われてみればリンカさんにアプローチを仕掛けたモノ好きな冒険者が居たっけな。


「眼鏡が似合う知的な水色ヘアーの美女。 しかもスタイル抜群ですよ! そんな美女がドギツイ言葉で締め上げて来る、まさにご褒美じゃありませんか!」


 拳を握りしめながらめっちゃ力説するエリクさん。

 いや、まさか、エリクさん? 貴方その一部コアな男性なのですか?


「ねぇ? カイル?」


 その様子にドン引きしたルッカさんが俺の背中をツンツンとつつきながら耳元で囁いた。


「そう言う趣味なんじゃない? でも、オーガとかそういうの相手に舞い上がってる訳じゃないし、まがりにもリンカさんは性格が糞な……いや、性格がキツイだけで美人でスタイル良いのは間違ってないし……」

「今性格が糞って言わなかった?」

「いや? まさか俺がそんな酷い事言う訳ないじゃん?」

「ふーん?」


 ルッカさんがじとーっとした目つきで俺を見据える。

 しかし、どこか嬉しそうな気がするのは気のせいか?

 

「ふっふっふ……カイルさん、あの方が、我がヴァイス・リッターのアイドル『アリア・ルーツ』嬢で御座います!」


 なんかこう、スポットライトが急に照らし出されて周りの人達が「わーーーー」っと騒ぎ出すかの勢いで勝手に一人で盛り上がってるエリクさんなんだけど……。

 隣には冷めた態度のルッカさん……。

 はぁぁぁぁ、仕方無い、このまま俺が冷めた視線送るのも先輩に申し分が立たなそうだ。


「わーーーーアリアさーーーん」


 仕方ないのでエリクさんのテンションに合わせた。


「ふわふわプラチナブロンドのロングヘアー、更にッ! 彼女はなんとプリーストなんですよ! 男性冒険者なら誰もが憧れる美人プリーストによる治療、彼女に『ヒーリング』を掛けてもらう為にわざと怪我する男性が続出してるまであるんです!」


 エリクさんのアリアさん推しが止まらない。

 人間不思議なもので、こうやって積極的に推されると段々と興味が湧いて来なくも無い。

 エリクさんに乗せられテンションが上がった俺が次の一声を掛け様と大きく息を吸い込んだところで。


「黙れ俗物」


 鋭利な刃物の様な声が奥のテーブルから聞こえて来た。

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