2章.白い騎士

12話「パーティギルド?」

「カイルさん、お帰りなさいませ☆」


 冒険者ギルドに戻るとリンカさんが、何故かものすごくにこやかな笑顔で出迎えて来た。


「はい、ただいま、ゴブリンリーダー討伐の報告をします」


 それに対して俺は物凄く淡々とした口調で返した。

 

「むぅ~カイルさぁん? 眼鏡っ娘属性持ったすたいるの良いびじょがにこやかに対応してるんですよ~? もっと嬉しそうにして欲しいなぁ~」


 いや、そう言う事自分で言います? 否定自体はしないけどさー。

 でも言われてみると確かに……。


「ねぇカイル? 君は胸しか能のない性格悪いおばさんが好きなの?」


 ルッカさんが俺の耳元で……それなりの声量で言った。

 う、うるへぇ……。


「うふふ、カイルさ~ん、どうせ後衛職の人間なんて裏切るんだからそんな(胸の)可愛い娘なんてほっておいた方が良いですよ」


 そりゃ、聞こえる様に言えばこうなるよな。

 しっかし、行く前と同じ煽り文句だ、本当に胸しか取り柄が無いのだろうか? 少々気になるところだけど。

 それにしてもリンカさん、行く前と別人なまでに機嫌の良さそうなのは一体何故?


「え? また可愛いって言ってくれたよあの人、胸しか誇れるところが無い可哀想な人だと思ったけどお世辞を言う事は出来るみたいだよ」


 今度は俺の耳元で囁くルッカさんだが……。

 あ、なんかリンカさんの眉間にしわが寄ってるぞ、これ聞こえてる奴じゃね?

 

「カイルさん、男を知らないお嬢ちゃんなんかほっといてさっさと清算しましょうねー」


 男を知らない? ルッカさんは男女共学のセザール学園に居たしフツーに知ってると思うけど、まーいいや、結構な数のゴブリンを倒せたし良いお金になりそうだ。


「わーカイルさん、私が思った通り凄いですね! こんなにゴブリン倒すなんて、やっぱりあの時のプリーストは物凄く足手纏いだったんですね!」


 座っている椅子から立ち上がり、にこにこ笑顔で俺の両手を掴んでぶんぶんするリンカさん。


「いや……」


 違う、ルッカさんのお陰と俺が言いかけると。


「ねぇ、カイルくん? 背中とか凝ってないかなぁ?」


 まるで邪神の様な笑みを見せながら俺の背中にそっと触れるルッカさん。


「うん? べつ……ぎゃあああ!? ルッカさん!? 何するんだよ? 身体がびりびりするんだけど!?!?!?」


 ルッカさんが触れた先から物凄い電撃が身体中を駆け巡った。

 勿論手加減はしてるんだろうけど奇襲の様に打たれたせいで『ウィンド・バリア』による威力減衰が出来ないせい身体が軽く麻痺する感覚に襲われてしまった。


「カ、カイルさん!? 大丈夫ですか? こ、こんな暴力女と関わっちゃダメですよ!?」


 心配そうに見つめるリンカさん、俺の手の感触から女の勘が発動して咄嗟に手を離し今の電撃攻撃から難を逃れたみたいだ。


「いや、別に、今のは『ウィンド・バリア』を展開しなかった俺が悪い」

「こんな暴力女に襲撃されながらもそれをフォローするカイルさん、素敵過ぎます、まさに白馬の王子様じゃないですか!」


 瞳を輝かせながら身を乗り出すリンカさん。

 

「いや、俺馬に乗れない……事も無いけど白い馬は知らない。 それよりも、ゴブリンを大量に倒せたのはルッカさんの範囲魔法のお陰であって俺だけの力じゃないですよ」

「またまたご謙遜なさって~」

「そうですね、コイツが良い囮になってくれたお陰で範囲魔法を使えましたね」


 なんだかルッカさんから殺気を感じるんだけど……。

 対するリンカさんも口元は笑ってるけど目が笑ってないし、これなんかやばくない?


「うおっほん、リンカ君」


 この様子の一部始終を見るに見かねた冒険者ギルド職員がリンカさんの肩をポン、と叩いた。


「す、すみません! はい、カイルさん、ルッカさん清算が済みました。 それでですが、次の依頼は如何致しましょう? 例えばこんな依頼も将来的にはあるのですが……」


 リンカさんが依頼書を差し出した。

 内容を確認すると、

 

【コカトリス討伐依頼】


 コカトリス? 鶏と蛇が混ざった魔物で猛毒も持っているから物凄く強いと思うんだけど。

 今の俺じゃとてもじゃないけど叶わないなぁ、解毒魔法も使えるけどコカトリスレベルの毒を解除できるほど強い解毒魔法は使えないし。

 ふむふむ、依頼を請けるのに必要なランクはBかぁ、もっと強くなったらこういう魔物を倒せる様になるんだろうなぁ。

 

「こういう魔物が倒せるようになったら楽しそうですよね」

「……今から請けるワケね?」


 うん? ルッカさん? 不機嫌そうだったのに急に機嫌良くなってって、まさかコカトリスを倒そうなんて馬鹿げた事考えてる訳じゃないよね?

 

「いえ、強敵に対する興味を確認しただけです」

 

 リンカさんは苦笑いをすると今ある書類を手元に寄せ、別の書類を差し出した。


「これは?」

「パーティギルドへの案内書です、お二人の反応見る限り強敵に対する興味がありましたので、それでしたら少人数で行動するよりもこう言った組織に所属してみるのが言いと思い、次の依頼の案内よりも此方の案内をさせて頂きました」


 パーティギルド? なんか聞いた事あるなぁ。

 確か主義志向が近い人が集まって色々やる組織だっけ?


「うーん、確かにそうですね」

「ギルドマスターを中心に、似た志向の人達が集まった組織で自分達よりも強い人達も沢山いますから、独学よりも効率よく成長出来ますし、また強い魔物にも少しだけ早く挑む事が出来ます」

「へぇ? 悪くないんじゃないの?」


 ルッカさんはパーティギルドに興味を示しているみたいだ。

 俺も別にパーティギルドに入ってみても良いとは思うけど。


「勿論、パーティギルドの方々と同行したとしても、そこから請ける依頼が無茶なモノだと判断したら冒険者ギルドの方で止めます」

「そうですか、それじゃパーティギルドに入ってみる?」

「うん! 入ろう! 入って色々な強い魔物倒そうね!」


 おんや? ルッカさん? ついさっきまで殺気抱いてたハズなんだけど、物凄く嬉々としてません?

 まー、不機嫌でいきなり雷魔法ぶち込まれるよりは良いんだけどさ。


「それでは、パーティギルドのギルドハウスが集まったエリアはあの辺にありますので、実際に見学して下さい、それで良いと思ったギルドがありましたら私にお伝えください」


 リンカさんがニコッと笑顔を見せると、冒険者ギルドを後にする俺達に手を振り見送った。




―セザール城内一室―

 

「国境付近はどうなっておる」


 初老の男性の声が報告を上げた者に対して放たれた。


「ハッ! 現在拮抗状態であります」


 報告を上げた人間は真っ直ぐな姿勢で敬礼をしている。


「そうか」

「しかし、大陸内部に出現する魔物の勢いは止まっておりませぬ」

「ふむ、魔物の発生源である5つも変わらぬか?」

「はい、以前と変化はありませぬ」

「そうか、1つでも破壊出来れば良いのだがな、今は仕方あるまい、下がって良いぞ」

「はっ、畏まりました」


 報告を上げた者は敬礼をした後、深々とお辞儀をすると部屋を後にした。

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