11話「討伐、ゴブリンリーダー5」

「ルッカさんの魔法位大した事ねぇよ!」


 俺の言葉を聞いたルッカさんは雷属性の範囲魔法を詠唱し始めた。

 黄色のオーラがルッカさんの周りに展開され、妙に美しく見える。

 魔法攻撃でどうにかしようと思っていたが、魔法を使い過ぎて攻撃に回したくない。

 ルッカさんの範囲魔法に期待出来る今、少々危険だけど近接戦闘を仕掛けておびき出そう。

 俺は身を隠していた草むらから飛び出し、一番近い場所にいる見張りに対して奇襲を掛けた。


「ギャーーーーーオ!?!?!?」


 背後から俺の斬撃を受けたゴブリンが真っ二つになりながら断末魔の叫びをあげた。

 突然聞こえた仲間の悲鳴に対し周りにいるゴブリン達が一斉に振り返り、仲間の敵と言わんばかり俺の方に突撃をして来た。


「させるかよ!」


 こん棒を振り上げながら突撃をして来た先頭のゴブリンに対して俺は地面に落ちている石を拾いゴブリン頭部目掛けて投げつけた。

 ゴブリン程の小さ目な魔物であるなら、たかが石ころをぶつけられるだけでもかなりのダメージを与えらえる。

 投石の直撃を受けたゴブリンは後方に吹っ飛び、頭を押さえうずくまった。

 しかし、仲間がやられた事に対し復讐心を燃え上がらせたのか、その他ゴブリン達の勢いが止まる事は無い。

 俺は他のゴブリン達に向けてひたすら投石を続けた。


「君は私の魔法大した事無いって言ったよね!」


 ルッカさんの魔法が完成したみたいだ。

 向かってくるゴブリンの集団に対して右側が空いている、そこに行こう!


 ズガガーン!

 

 俺が疾走して3秒後、轟音と共にゴブリン達の集団に向けて激しい雷が降り注いだ。


「いたたた……流石にルッカさんの魔法を食らったら痛くない訳ねぇよな」


 ルッカさんの魔法を『ウィンド・バリア』で威力減衰してもこのザマだ、直撃を受けたゴブリン達は見るも無残な黒焦げの死体となり魔石へと変化した。


「どうだ!」

「やるね、次も任せた!」


 ルッカさんは再び範囲魔法の詠唱を始めた。

 狙いは更に奥のゴブリン達だろう。

 奴等は今の魔法で少し日和ってるが、それに対してリーダーががはっぱを掛けてる。

 ゴブリン達は、リーダーからこん棒で殴られるのが嫌なのか俺の方に侵攻しに来、リーダーはそそくさと後方へ下がった。

 これを含めて残りのゴブリンチームは4つ程か、あの様子だと減らし過ぎたら逆に逃げそうだ。

 

「次はどいつだ!」


 俺は剣を突き出しゴブリン達を挑発した。

 それに対しゴブリン達は仲間同士で見渡した後、人間ごときに舐められて溜まるかと言わんばかりに再度突撃を開始した。

 よし、後はルッカさんの詠唱が終わるまで適当にこいつ等をあしらおう。

 

「いくよ! カイル!」


 ルッカさんの魔法が完成したみたいだ、俺はルッカさんが居る方へ向けて下がった。

 その直後ゴブリン達に向け無数の雷が降り注ぎ、先と同じ様に無数の黒焦げ死体から魔石へと変貌した。


「良い感じだ!」

「へへん、どんなもんよ!」


 これで敵ゴブリンの数をかなり減らす事が出来た。

 ゴブリンリーダーの様子を見る限り仲間を殲滅させられてかなり焦っている様だ。

 そろそろ接近戦を仕掛けて畳み込みたいところだけど、今ルッカさんの気分は範囲魔法か? さてどうする?

 いや、俺が突撃すればルッカさんも後に続くか、狙いをリーダーにしてくれるハズだ。

 

「行くぞ!」


 俺は地面を強く蹴り、数を減らしたゴブリン達に向かって突撃をした。

 

「まだまだ行くよ!」


 ルッカさんは再度範囲魔法の詠唱に入った。

 それを見て、俺は再び『ウィンド・バリア』を掛け、ルッカさんが放つ魔法に対する抵抗力を上げた。

 次の範囲魔法で敵ゴブリンリーダーに撤退を決断される可能性が考えられる以上、敵陣営の奥まで攻め込まなければダメだからだ。

 俺が突撃した事を見たゴブリンリーダーは、2度の雷撃で仲間が殲滅された事を見て戦意を喪失している仲間にはっぱを掛け応戦を促した。

 

「こっちだ!」


 俺は剣による攻撃が仕掛けれる間合いに入った所でその間合いを維持する事に専念をした。


「カイル、ちゃんと避けてね!」


 しばらく前線で時間を稼いだ所でルッカさんの魔法が完成した。

 それと同時に俺はゴブリンリーダーに詰め寄る為斜め前方向に走った。

 その直後、ルッカさんが完成させた魔法がゴブリン達に直撃し多数の魔石へと変化した。

 俺はルッカさんの魔法から受けた痛みを堪えながらゴブリンリーダーを捉え、剣による一撃を放つ。

 

「グギグギ!?!?」


 ゴブリンリーダーは身を翻しそれを回避。

 俺は続け様に剣撃を重ねるが、その全てを回避されてしまう。

 思っている以上にコイツはすばしっこい。


「何やってるのよ!」


 範囲魔法を撃ち終えたルッカさんが此方に向かって突撃して来た。

 接近戦で単体魔法を使って仕留める気だろうか?

 だとしたら、俺はこのまま剣撃を放ち続ければ良いだろう。

 回避に専念してるゴブリンリーダーの動きを魔法で捉えてくれるはずだ。

 

「見れば分かるだろ!」


 ルッカさんは俺の返事に対し、少しばかり表情をムッとさせながらゴブリンリーダー目掛けて『ファイア・ボール』を放つ。


「グギギ!!」


 ゴブリンリーダーは『ファイア・ボール』の熱に反応したのか、俺の斬撃を回避後の着地を狙ったルッカさんの魔法を身を伏せる事で回避した。

 外れた魔法は遠くに着弾、周囲の平地を焦がす事になった。


「むっきー! ゴブリンの癖に避けないでよ!」


 ルッカさんはゴブリンリーダーに文句を付けながら再び詠唱を始めた。


「黄色か」


 ルッカさんは雷属性の魔法を使うみたいだ、使う魔法は多分『ライトニング』これは縦方向の攻撃だから、同じ様にゴブリンリーダーを攻撃し続けて……。

 っとその前に素早さが取り得の敵ならば『スロウリィ』を掛けてしまおう。


「!?!?!?」


 俺の『スロウリィ』を受けたゴブリンリーダーは急に身体が重くなった事に対し理解が出来ない表情を浮かべた。


「今度こそあたれぇぇぇ!!!!」


 ルッカさんが『ライトニング』を放った。

 先の範囲魔法程ではないが強力な雷が1本、ゴブリンリーダー目掛けて放たれる。

 

「グギ!?」


 ゴブリンリーダーは咄嗟の反応で『ライトニング』を回避しようとするが『スロウリィ』により下げられた機動力では完全に回避する事が出来ず腕に当たってしまった。


「トドメだ!」


 ここまで膨大な隙を晒してトドメを刺せない訳が無い。

 身動きが自由に取れなくなったゴブリンリーダーの首を俺の剣撃が捉え、肉体との分断に成功。

 ゴブリンリーダーの首が地面に転がって数秒後その肉体共々魔石へと変化した。


「ああー!! カイル! トドメは私が差すつもりだったのに!」

「どっちが差しても変わらないでしょ、ルッカさんの援護が無ければ勝てなかったし」


 嘘なんか言ってない。

 あれだけの大軍、ルッカさんの魔法が無ければどうする事も出来なかった。

 ゴブリンリーダーだって自分一人で詰め切れたとも思えない。

 

「ふ、フン! 分かれば良いのよ!」


 ルッカさんは何故かそっぽを向いて拗ねた。


「それよりも残りのゴブリンは……」

「とっくの昔に逃げてる、そうじゃなきゃリーダー狙わない」


 確かにルッカさんの言う通りか、脳筋だと思ってたが意外と考えてるんだな。


「そっか、魔石回収しようか」

「そうね、細かい事考えるのめんどくさいから適当で良いわよね?」


 辺りには多数のゴブリンが変貌した魔石が落ちている。

 ルッカさんの言う通り一々数えるのは大変だ。


「そうだな、リーダーの分折半して後は適当で良さそうだ」

「スロウリィ使ったら後ろからファイアボール撃つからね?」


 ルッカさんが冗談に聞こえない口調で言う


「残念ながら俺の魔法力は0だ」

「へへーん、実は私も0でしたー」


 ルッカさんが少しだけベロを出しながら、どこか嬉しそうに言った。


「ははっ、意外とギリギリだったんだな」


 俺とルッカさんは、地面に落ちた魔石を回収しセザールタウンへ帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る