10話「討伐、ゴブリンリーダー4」

 先の戦闘場所からしばらく歩き続けていたところ、不意にルッカさんが遠くを指差して、


「ね、ねぇ、ほら、村が見えるよ!」


 さっきの戦闘の事で何か引きずってるのだろうか? 何かぎこちない空気を纏ってるのが否めない。


「この依頼を出した村かな?」


 と言う事はゴブリンリーダーはこの辺りで目撃された訳か。

 俺は周囲を見渡してそれらしき物体を探すが……。


「あっ、ほら、あの畑の近くに何かいるよ!」


 先に見つけたのはルッカさんで、彼女が指差す先を見るとそこには多数の影が見えた。

 さっき戦ったゴブリン達の数よりも遥かに多い。

 ゴブリンリーダーが統率を取る事により、大多数のゴブリンを動かす事が出来る様になるのだろう。

 

「どうやらアレがゴブリンリーダーっぽいな」


 さて、どうするか、出来るだけ遠くから数を減らしておきたいところだが?


「よしっ、いくよ!」


 俺がこれからの作戦を立てようとした時、やっぱりルッカさんは何も考えずゴブリンの群れに突撃をした。

 いやー待て待て、幾ら相手がゴブリンでもあの数に単身突撃は無謀でしょ! そうでなくてもゴブリンリーダーが居るんだからたかがゴブリンが統率を取って何かしてくる可能性は十分あるんだし!

 って思った所で突撃してるルッカさんを止める方法が……いや、あるな。


「それは幾ら何でも無謀だ!」


 俺は自分に『クイック』を掛けて機動力を上げ、前を走るルッカさんに対しては『スロウリィ』を掛け機動力を下げさせた。

 ここまでやれば安定して俺がルッカさんの前に出る事が出来る。

 

「あっ! カイル! 自分にだけクイックかけるなんてずるい!」


 先に走り出したルッカさんが俺に追いつかれた事で、俺がクイックを掛けた事には気が付いたみたいだ。

 

「ルッカさんも覚えれば良いでしょ」

「むー何よっ! 私が補助魔法適正無いの知ってる癖に! ひどいよ!」

「適正無くても勉強すればその内覚えれるって」


 よしっ、ルッカさんは自分にスロウリィを掛けられた事に気が付いていないぞ。

 これで定石通りの陣形を組める。

 次はこのゴブリン中隊をどうするかだが、これだけ距離があるだけあって奴等は俺達の存在に気が付いていない。

 畑に群がって夢中で農作物を盗んでるみたいだ。

 一応、見張りのゴブリンが居るが、眠気眼な面をしていて明らかにやる気が無さそうだ。

 お? 見張りの後ろから別のゴブリンがやって来たぞ? で、手に持ってるこん棒で見張りの背中をガツンと殴打したな。

 で、殴られたゴブリンは慌てて振り向いて焦った感じでヘコヘコしだしてる。

 どうも、殴ったゴブリンがリーダーっぽいな。

 うん? リーダーが背中を向けて別の場所に移動して……それを確認した見張りはまたサボりだしたな。

 OK、これならゴブリン中隊に対して奇襲を仕掛けれそうだ。

 さて、奇襲をするにしても出来るだけ一撃で大きな損失を与えたいが、攻撃の要となるルッカさんはどうせ単騎突撃して接近戦を挑んで単体魔法をゴブリンにぶつける事しか考えなさそうだ。

 ここは是が非でも俺には扱えない範囲魔法を使って一掃して貰いたいところだ。

 そうだな、ルッカさんをおだててみるか? そしたら範囲魔法使ってくれるかもしれないし。

 

「カイル、待ってよ!」


 俺の考えがまとまった所で、ルッカさんがスロウリィを掛けられながらも必死に走って追いついて来た。


「ねぇねぇ、ルッカさんって範囲魔法は使えるよね?」


 まず、俺はにこにこ笑顔でルッカさんに尋ねる。


「カイル? 何言ってるの? それ位当たり前でしょ?」

「いやー、ルッカさんのド派手な魔法みたいなぁ~なんて思ってさ~」

「……君は戦闘中に何言ってるの? 君の私情の為にそんな事出来る訳ないよ?」


 チッ! 随分と脳筋な癖してこういうことは冷静なのかよ!


「そうだよね、じゃあさ、俺が敵を引き付けるからその間に範囲魔法の詠唱、完成をしてゴブリン達にぶつけてみるのはどう?」


 内心ムカついてきながらも笑顔を崩さず提案を試みる。


「やだ、それじゃ私が活躍出来ないでしょ?」

「ええー? 範囲魔法をで敵を一層するってすごい活躍じゃん」

「知らない、私は前に出て戦いたいの!」


 ダメだこりゃ……。

 別に嘘言ってるつもりはねぇんだけど、ルッカさんの美学が分からねぇや。

 仕方無いや、こうなったら実力行使するしかなさそうだ。

 ルッカさんの機動力をもっと落として範囲魔法を使うしかない状況作ってやるか。

 もう一度スロウリィを掛ければ全力疾走をしても歩くのと変わらない速度しか出せなくなる。

 俺は再度スロウリィをルッカさんに掛けた。

 

「ちょ! カイル!? 私に何したのよ! 身体が物凄く重くなったんだけど!?」

「気のせいじゃない?」


 その直後、ルッカさんが1拍おいて何か叫んでいたがそんな事お構いなしにルッカさんとの距離を取った。

 これでルッカさんが範囲魔法を使ってくれればいいんだけど、後ろから単体魔法を連発してくれてもそれはそれで問題ないかな。

 さて、今現在ゴブリン中隊の様子はどうなってるかな?

 ふむ、略奪している畑の四方に見張りが1人ずつで、同様に小隊員が農作物に群がっていてリーダーが全体を監視している。

 俺達が請けている依頼はゴブリンリーダーの討伐だから、リーダーさえ倒せば良くって畑がどうなろうが知った事では無い。

 でもなぁ、取り巻きのゴブリンを一層出来れば良い収入になるんだよな。

 いや、悩ましい事だけどここは無理せずリーダーだけを討伐する事を考えよう。

 さて、この状況からどうやってリーダーを討伐しようか?

 ルッカさんみたいに脳死で突撃、は論外だから却下として距離がある以上魔法で狙撃が良さそうだ。

 お、この草むらに身を潜めれば上手く行けばゴブリン達に気が付かれる事無く魔法攻撃が出来そうだ。

 俺は自分が扱う魔法の射程内に群生している草むらへ移動し身を潜めた。

 狙撃タイミングは、リーダーがもう一度見張りのゴブリンを叱りに来る所だ。

 後はルッカさんがどうするかだよな。

 彼女が範囲魔法を使った場合、警告はしてくれるけど俺を巻き込む事にためらわなさそうなんだ、雷魔法の威力を減衰させる為にもウィンド・バリアを使って置いた方が良さそう。


「カイル! そんな所に隠れて何してるのよ!」


 ルッカさんの声だ。

 かなりイラついてるみたいだ。


「ここからリーダーを魔法で狙撃するんだよ」

「カイル? そんなチマチマした事やってじれったいと思わないの?」


 この感じだと範囲魔法を使ってくれる事に期待出来そうだ。


「依頼書見る限りゴブリンリーダーを討伐すれば後はどうでも良いからね」

「そんなのまとめて全部薙ぎ払っちゃえば良いじゃない!」

「良いんじゃない? 畑がどうなるかまでは書かれて無いし」

「言ったわね? じゃあー遠慮なくいくから! カイル、君なら巻き込まれても平気だよね!」


 お、機動性を徹底的に落としてあげて近接戦封じたら溜まったフラストレーション発散する為範囲魔法を使ってくれるみたいだ。

 まずは自分に『ウィンド・バリア』を展開させてと、いつまでも機動性を落しても危ないから詠唱終了付近でルッカさんに『クイック』を掛けておこう。

 ってやべ、ルッカさんに無駄な補助魔法掛けてたら残りの魔法力全然無いじゃん!

 ルッカさんの魔法の範囲内に出来るだけ多くのゴブリン引き付けないと!

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