9話「討伐、ゴブリンリーダー3」

「ふん、ゴブリンリーダー程度この私なら楽勝よ!」

「それは頼もしい言葉ですね、ではカイルさん、しっかりとルッカさんを守ってあげてくださいね? カイルさん、ナイトですからウィザードを守って戦うのは定石でしょ?」

 

 とにこやかな顔をしながら言うリンカさん。

 うん? ちょっと待て、一体どういう事だ? 今の話はルッカさんが請ける依頼の話じゃないのか? でも、リンカさんの言い回しだと俺も一緒に請ける事前提に聞こえるんだけど。


「いや、さっきも言った通り俺はルッカさんと組む気はありませんよ?」

「ええ? カイルさん意外と薄情なんですね? ルッカさんって新人冒険者ですよね? 新人冒険者が一人でゴブリンリーダーを相手にするのは厳し過ぎると思いませんか? 思いますよね? ジョーシキ的に考えたら男性は女性を守りますよね?」


 相変わらずリンカさんからは汚い言葉が飛んでくる。

 けれど、確かにリンカさんが言う通り新人冒険者のルッカさんがゴブリンリーダーを一人で相手にするのは厳しいし、ナイトがウィザードを守って戦うのも定石だし男性が女性を守るってのも残念ながら正しいな。

 うーん、そうだなぁ、さっきは一人で依頼をこなすって言ったけど、正直な所別にルッカさんと一緒に依頼をこなす事に対して何か不満があるかと言われたらそんな事は無いんだよな。


「そうじゃないですか?」


 取り合えずルッカさんの出方を伺おうと適当に相槌を打った所で、

 

「私は一人でも大丈夫ですから!」

 

 どうやらルッカさんの方は相変わらず一人で依頼をこなしたいみたいだ。

 

「意気込みは大切ですけど、冒険者ギルドとしてはカイルさんと同行じゃないと依頼を出来ないの。 でも、カイルさんと一緒とは言えルッカさんみたいに腕の立つ娘じゃないとカイルさんに対してだって同じ依頼を紹介する事は出来ないのよ」


 それとなくルッカさんを立てるリンカさんだけど、さっきまでと違って急に人格変わった様な口振りなった事に少々違和感がある。


「難しい依頼を請けたいんじゃないの? 俺は別に構わないけど」


 と言う俺だけど、なんかリンカさんにまんまと乗せられた気がしなくもない、まぁ、良いか。


「……分かりました、請けます」

「有難う御座います♪」


 それにしても、みょーに嬉しそうな態度を見せるリンカさんに対して何か引っかかるが、気にしても何も出来無さそうだ。


「行くよ、カイル」


 そそくさと以来の手続きを済ませたルッカさんに腕を引っ張りながら俺達は冒険者ギルドを後にした。

 前回同様、雑貨屋で準備を整えまずはセザールタウンの外へ出る。

 依頼書に書かれている情報によると目撃された場所はこのまま、真っ直ぐに進めば良いみたいだ。

 少しだけ川沿いに寄り道してゆっくりとしたいと言う気にさせられるが、ルッカさんと同行している以上言い出す事すらやめておいた方が良さそうだ。

 

「何よ、この程度なら私一人で十分じゃん」


 平原を暫く進んだところで見付けたゴブリンを『ファイア・ボール』で仕留めたルッカさんは何処か拍子抜けしてるみたいだ。


「でもまだゴブリンリーダーは出て無いぜ? それよりさぁ、ルッカさんってウィザードだよね? なんで俺より前出て戦ってるのさ?」


 その『ファイア・ボール』は、俺が剣を使って戦う間合いよりも少しばかり前の間合いで完成させゴブリンに直撃させて居た訳だ。

 前衛であるナイトの俺よりも前に出るウィザードとかショージキ聞いた事……。

 いや、学校に居る時も確かこんな感じだったか。

 模擬戦の時とかしょっちゅう突撃して来たな、ウィザードの癖に。


「その方が当て易いからだけど? 別に良いじゃん私だって近接戦闘の成績上位なんだから」


 確かにルッカさんはウィザードの癖に近接戦闘の成績も何故か良かった。

 だからと言って、冒険者となってまで定石無視した攻めをしなくても良いと思うんだけど。

 

「そうだけどさぁ」

「悪い? 同級生のあるウィザードは近距離で格闘戦するからそれよりも全然良いと思うんだけど?」


 ウィザードで格闘戦仕掛けるって、それじゃウィザードでいる意味無いじゃん。

 

「なんだそれ」

「美人で有名な娘だけど知らないの?」


 美人で有名? あーそう言えば、ルッカさんと似たタイプの戦法を取ってくるウィザードと思ったらいきなり蹴りをかまして来た奴が居た様な居なかった様な?


「さぁ? 俺は知らないよ?」

「ふーん、ホント君は女性に興味が無いんだね、その娘もセザール学園内どころか学園外にまでファンクラブが出来てたみたいだよ? それでよく私にファンクラブ員の数だの質だので突っかかってきたんだけどその事も知らないの?」


 そうやって言われてみたら在学中ルッカさんがその手の愚痴を垂れ流してたなぁ。


「知らないなぁ、おっと、次のゴブリンが来たな」


 ふむ、数匹で構成された小隊か、さてどうやって仕留めようか?


「私に任せて!」


 と思うや否や、ルッカさんは地面を蹴り電光石火の如くゴブリン小隊に突撃していた。


「ルッカさん? 魔法は安全な場所から撃った方が良くね?」

「だから近い方が当たり易いから!」


 気持ちは分かるけどさー、わざわざ相手に近付くって自分が盾になる事で仲間を自由に動ける様にする重騎士や、高い攻撃力で相手を薙ぎ倒すファイターとかがやる事であってウィザードがやる事じゃないと思うんだよねぇ。

 はぁ、仕方ないなぁ、こうなっちゃった以上俺はナイトだけどルッカさんの援護に回るしか無さそうだなぁ。

 本当なら逆なんだけどさ。

 

「うん? あのゴブリンは?」


 ルッカさんが突撃を仕掛けたゴブリン小隊のやや後方にワンドを装備したゴブリンを見付けた。

 多分魔法を使えるんだろう。

 猪の如く突っ込んだルッカさんは多分その存在に気が付いていない。

 

「次っ!」


 目の前のゴブリンを撃破したルッカさんが次に狙いを定めたのはやはり近くにいるゴブリンだ。

 とてもじゃないが遠くにいるあのゴブリンの存在に気付いて狙いを定めるか、攻撃を受けない様な位置取りをしている様には見えない。

 

「仕方無い」


 全く、昔から勝ち気な事言う癖にこう言う所で世話焼かせられるんだよな。

 心の中でルッカさんに文句を言いながらも俺はワンドを手にしたゴブリン目掛けて『ウィンド・アロー』を放った。

 

「カイル? どこ狙ってるの?」


 ルッカさんは、自分の真横を過ぎ去った魔法の矢の主を確認する為に振り返った所、それが俺であった為俺の魔法が外れたと勘違いしているみたいだ。


「あいつ」


 俺はワンドを手にしたゴブリンを指さした。


「は? 何それ?」


 ルッカさんが『ライトニング』で3体目のゴブリンを討伐した。


「ルッカさんを狙ってたけどな」

「あ……」


 うん? ルッカさんが目を丸くしたぞ? なんだ、ちったぁ助けられた事に感謝でもしてるのか?


「でも、ルッカさんの魔法防御力なら大したダメージじゃないと思うけど」


 多分無傷は無理だけど、俺のヒーリングを使えばすぐに治せる位。

 

「ゴ、ゴブリンウィザードが居るなんて聞いてなかったんだから!」


 ちょっと観察すればすぐに分かった事だけどな。


「はいはい、そーっすね」


 俺は『ウィンド・アロー』の直撃を受け態勢を崩しているゴブリンウィザードの懐に潜り込み、その身体を剣で両断した。

 その間、ルッカさんは次々とゴブリンを魔法で殲滅していた。

 デカイ口叩いてるだけあって確かに実力はあるんだよなぁ。

 一つため息をつきながら剣に付いた血のりを振り払い、鞘に納めた。

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