8話「討伐、ゴブリンリーダー2」

 ルッカさんとみょーに険悪な空気を抱きながらも冒険者ギルドの中へ入った。

 相変わらず1列だけ並びの少ない列があり、何も知らないルッカさんはそこに並ぼうと俺を誘導した。

 勿論ルッカ様に逆らう理由も乏しいため、リンカお嬢様との対面は致し方ないと考え彼女に従った。

 

「カイルさん? 恋人が居るのにプリーストに手を出したのですか?」

「いや? 何でそうなるんですか?」


 リンカさんが水色のポニーテールヘアーを軽く揺らしながら、まるで俺が女たらしと言いたげな大きなため息を付いている。

 

「は? カイル? どういう事よ! 私が納得行く様に説明しなさい!」


 机をバン、と叩いて何故か激高しているルッカさんだ。

 

「昨日プリーストと一緒に依頼をこなした」

 

 うむ、我ながら簡潔で分かり易い説明だ……?

 ちょ、ルッカさん? どーして鬼の様な形相をしてるんですか?

 

「はいはい、痴話喧嘩はよそでやって下さいねー? カレシの居ない私にカノジョを見せ付けないで下さいねー? 私昨日言いましたよねー? プリーストに男取られたって、こんな地味な事務仕事だと出会いが乏しいんですよねーはぁ、私を貰ってくれるSランクのイケメン冒険者様はいつになったら現われるんでしょうねー?」


 いや待って、そもそもの発端はリンカさんの言葉じゃないのかい?

 違う、そうじゃなくって、


「「俺(私)はこいつ(こんな奴)と付き合ってません!」」


 俺とルッカさんの声がハモった、それも強く。


「あーはいはい、惚気ですか? 実に仲の良いお二人ですね、ハァ、私にもイケメンナイトの一人や二人紹介してくれませんか? この際Cランク位でも良いですから、育ててSランクになればいいですからー」

 

 リンカさんが深淵の溜息をついた。

 そんな事言われてもなぁ、リンカさんって性格がちょっとアレっぽいけど美人じゃん?

 それに、女性として魅力的な武装も持ってる見た……。

 俺の視線が受付嬢の胸元を3秒釘付けたところで!


「ねぇ~~~~? カイルくぅ~~~ん?」


 ルッカさんがにこやかな空気をまとって俺に話掛けてきた。


「ぎゃーーーー! ちょ、おま、足踏むな!」


 かと思えば、にこやかな顔をして、思いっきり俺の足を踏みつけてきやがった。

 それも丁重に、ネジネジしてやがる!


「あら? 急に叫んでどうしたの? カイル? どうしたのお腹痛くなっちゃった? ごめんね~朝作ってあげた目玉焼きに火の通りが悪かったのかなぁ~?」


 お前が足を踏むから痛いっつーの!

 しかし、なんかリンカさんに当てつけてる様な言い方な気がしなくも無いが……?


「おまっ……幾ら(視線をルッカさんの胸元に移しながら)可愛いからって人の足ふ……」

「あら? 何? 一体私の何が可愛いのかしら? ねぇ? カイル君? 私教えて欲しいなぁー?」


 何故だ!? ルッカさんから殺気を感じる!


「いや、その、ルッカさんが可愛い……」

「ふーん? そぉ?」


 ルッカさんは、にぃって不敵な笑みを浮かべながら右手に魔力を集め始めた。


「はぁーーーーーどーして私の方が女として強い武装持ってるのにカレシがいないのかしらぁ?」

 

 ルッカさんの当てつけに対してリンカさんがわざとらしくぼやいた。

 ……うん? 右側から来た冒険者が受付嬢に何か言ったぞ?

 

「ごめんなさい、そう言う事はAランクになってからお願いしますね」


 うーん? リンカさんに声を掛けた冒険者はがっくりと肩を落としてる、リンカさんに何かアプローチしたんだろうか?

 カレシって言いながら折角のアプローチを拒否するのもどーかと思うけど、でも、そのお陰でルッカさんが釘付けになって詠唱止めてくれたしま、いっか。


「さて、話を戻しましょう、カイルさん、貴方私のお話を聞いていましたか? 足手纏いのプリーストに恩を売ってもどうせ裏切られるだけだって、で、今日は恋人を巻き込んだんですよね?」

「いや、コイツが勝手に来ただけで、今日は一人で依頼をこなすつもりです!」

「私だってこんな奴と一緒に依頼請けるワケ無いわよ!」


 俺がルッカさんと行動を共にする事を否定すれば、負けじとルッカさんも同じ様に否定をする。


「ふーん? (お胸の)可愛いお嬢ちゃんはウィザードですか? プリーストよりマシですけど、ウィザードも大概クソな冒険者しか知らないんですよねぇ? 弱い内は魔力も無くって威力も無いからナイトに寄生して、で実力が付いたら高い攻撃力を出せる様になるからそいつら捨ててもっと強い人に鞍替えって」


 昨日とは打って変わってルッカさんを目の前にしながらもずけずけとキツイ言葉を並べるリンカさんだ。

 一応こういう事は人によってどうやって言うかは調整していると考えれば良いのだろうか?

 

「なっ! 私はこんな奴と組みすらしませんから! 私は接近戦も得意だからナイトに頼る必要なんてありませんから!」


 ルッカさんは、リンカさんを鋭い眼光でキッっと睨みつけながら大声をあげた。

 

「ふーん? ウィザードなのに近接戦が得意? そう言えばセザール学園ナンバー2がそんなんだと言う話は聞いた事が、名前は確か、ルッカだったっけ」

「そうよ! 私の実力は凄いんだから! カイルが一人で依頼をこなせたんだから私だって一人でこなせるのよ!」


 物凄い勢いで捲し立てているルッカさんだ。

 ここまで凄いと何が何でも俺に勝ちたいと言う気配さえ感じて来る。

 

「そうですか、でしたらルッカさんもカイルさんと同じくEランクからのスタートで問題ないでしょう」


 感情的になってるルッカさんを目の前にリンカさんが淡々と手続きを進めていると、リンカさんの後ろから一人の男性が近付いて来た。

 先程リンカさんにアプローチした様な冒険者ではなく、彼女と似たデザインの服装をしている事から多分同じ冒険者ギルドの職員だと思う。


「ちょっとリンカ君、こっちに来てくれ」

「はい。 すみませんが、少々お待ち下さい」


 男性に呼ばれたリンカさんは、ルッカさんに対して事務的な言動をすると彼に連れられ奥へ行った。

 俺が居る場所から男性の居る場所は距離があり、何を言ってるか聞こえないがリンカさんが難しい顔をして彼の話を聞いている事は伺えた。

 そのやりとりが数分程続いた所で何だか複雑な表情をしながらリンカさんが戻って来ると咳ばらいを一つして、


「ルッカさん、難しい依頼を請けたいとは思いませんか?」

「なっ……請けたいですよっ」


 ルッカさんの言葉からは、散々待たせた挙句いきなりなによと言いたげに聞こえる。


「今請けたいとおっしゃいましたね? 丁度貴女方新人冒険者にとっては少しばかり難しい依頼を預かりました、ホントタイムリーな話ですね。 その内容が此方になります」


 リンカさんが少々早めの口調でにっこりと笑いながら言い終えるとルッカさんの前に依頼書を差し出した。

 俺はそれをルッカさんの後ろからこっそりと覗き込んだ。

 

【ゴブリンリーダーの討伐】


『つい先日、このエリアでは滅多に出現しない魔物ゴブリンリーダーの姿を確認した。奴はリーダーを名乗るだけあって他のゴブリンよりも手強い。そこで腕の立つ冒険者にその討伐を願いたい』


 へぇ、ルッカさんいきなりゴブリンリーダーの討伐を依頼されたのか、やるじゃん?

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