7話「討伐、ゴブリンリーダー1」

 ところ変わってセザール大陸にある農村部。


「おい、またゴブリンにやられたのかよ!」

「みたいだ」

「街の連中は何やってるんだ!」

「この前ゴブリン討伐依頼出したじゃないか」


 どうやら、この村にある畑がゴブリン達によって荒らされてしまったらしく、村人達が話合いをしている様だ。


「ワシらが何とかするしか無いのか!?」

「何とかしようとも、倒しても倒しても湧いてくるぞ?」

「やらないよりマシじゃないか?」

「いや、依頼を出してまだ日が経ってないからかもしれない」

「しかし!」

「待て、アレは!?」


 村人が話合いをして居る隙を突いて、ゴブリンの小隊が畑に潜入して居た様だ。

 

「小隊だと!?」

「待ちやがれ!」

「ふざけんな!」

「俺達の作物をっ!」


 村人達がクワを片手にゴブリン達に突撃をするが、

 

「グギャギャ♪」


 突撃も虚しく収穫物を得たゴブリンが村人達を馬鹿にしながら逃げて行った。


「待ちやがれ!」

「待て!」


 その直後、ゴブリン小隊の1匹が村人目掛けて『ファイア・ボール』を放った。


「うわっ!?」

「おい! 大丈夫か!」


 通常ゴブリンが魔法を使う事は有り得ない。

 その可能性が全く頭に入っていなかった村人は咄嗟の反応が出来ずに直撃を受けてしまった。


「あちいぃぃぃ!!」

「消火急げ!」


 直撃を受けた村人が悲鳴を上げるが、小型な生物であるゴブリンが放った為かその威力は小さく着ている衣服に小さな炎を灯すだけに留まった。

 それでも火を消す必要はある為、彼は地面を転がり消火を試み、他の村人は火を消す為の水を急いで汲みに行った。

 

「ぐぅぅぅ……」

「やけどに効く薬を!」


 幸いな事にすぐ消火されたのであるが、何の訓練を受けていなく魔法に対する抵抗力が全く上がっていない村人が受けるには大きなダメージであった様で苦痛の表情を浮かべながら蹲っている。


「まさか、ゴブリンリーダーか?」

「おいおい、俺達の力じゃ普通のゴブリン相手でもいっぱいだって言うのによりによってリーダーが現れたのかよ!」

「くそう、また冒険者に頼むしか無いのか、情けねぇ……」

「けどよぉ、冒険者に頼むにしてもお金が無いぞ?」

「そうだな……」

「だが、少ないお金でも受けてくれる冒険者が居るかもしれん」

「……ああ、彼等には悪いが、そうするしかないだろう」

「よし、また俺が言って来る」

「おう、頼んだぞ」


 会議を終えると一人の村人が冒険者に依頼をするお金を手にし、馬を走らせ、セザールタウン冒険者ギルドへと向かったのだった。



 翌朝、朝日が施す明かりと温かさを肌で感じ取った俺は目を覚ました。


「今日も頑張ろ……」


 う、と言おうと思った所で誰かが玄関をノックする音が聞こえて来た。

 おや? ルミリナさん? 昨日のあんな事があったにも関わらずこんな朝早くから来訪してくれるんだ。

 ルミリナさんって頑張り屋なんだな~。

 なんて思って少しばかり心を躍らせながら玄関のドアを開けると……。


「……何だ……ルッカさんか……」


 そこに居たのは、卒業式が終わるや居ないやいきなり戦いを挑んできたウィザード、ルッカさんだった。

 そう言えばルッカさんも俺の家の場所を知ってるんだっけ、で、なんか知らんけどしょっちゅう朝一番で俺の家に押し掛けて来たっけ。


「ムッ、何だとは何よ! 可愛い女の子がわざわざやって来たのよ? 有難く思いなさいよ!」


 まぁー確かにルッカさんも他学校の生徒がファンクラブなるものを作る位には可愛い。

 確かに他学校の連中はあの暴力的な性格を知らないからな、単純な可愛さに対してワーワー言うだろうな。

 で、当の本人だってそれだけチヤホヤされれば自分の事をへーきで可愛いなんて事も言える様になるわな。


「はいはい、わー可愛いルッカさんがわざわざやって来て俺嬉しいなぁ」

「ふん、わかってるなら良いわよ! キッチン借りるよ? どうせカイルの事だから朝ごはん食べないんでしょ?」


 すっげー感情のこもってない声で言ってやったんだけど、どうやらそれで良かったみたいだ。

 

「あーうん、めんどーだし、多分食べない」

「はぁ、そんな栄養管理でよく全教科トップ取れたよねぇ?」


 ルッカさんの言ってる事は正しいと思うが、朝ご飯作ってくれるのもありがたいっちゃありがたいが、このつんけんした言葉さえ飛んでこなければなぁ。

 ま、やってもらってるんだから贅沢言っちゃダメなんだろうけど。


「関係あるかぁ?」

「ある! 大有りだよ! 朝ごはん食べないと、脳の回転があがらないんだからね!」

「へぇ、そうなんだ」

「私、何回も言った気がするけど」

「そうだっけ? 覚えて無い」


 あーそうやって言われてみたらそんな気がしなくもないなぁ。

 思い返してみると、ルッカさんに朝ごはん作って貰ってない日はびみょーに授業中の集中力が欠けてた気がするなぁ。


「だろうね。 どうせ食材だって無いんでしょ?」

「無いよ」

「フン、やっぱりね? ちゃーーーんと私が持って来たから感謝しなさいよ?」

「それは有難い」


 うーん、まぁ、勝手に押し掛けて来てアレだと思うけど、何もしなくても朝ご飯にあり付けるのは実際有難いな。

 おーなんか食材を調理する良い音が聞こえて来たなー。

 良いにおいもして来たぞ、むぅ、急にお腹が空いて来たな、これは完成が待ち遠しい。

 

「はい、出来たよ」

「ありがとー」


 程なくしたところでテーブルの上に目玉焼きと焼いたソーセージが並べられたお皿が2枚並べられ、中央には主食のパンが並べられたお皿が置かれた。


「ふふん、可愛い女の子が作ったんだよ? もっと感謝したらどうなの?」

「わールッカさん優しいなぁ、僕物凄く嬉しいなぁ」

「……君の彼女になる人は大変そうね」

「そうなの?」

「そうよ」


 うーん、もっと感謝して欲しいって言われたからそうしたのに、ルッカさんの考える事はよく分からないなぁ。

 まぁ、無事朝ごはんも食べれたしまぁ良いや。


「じゃ、俺は冒険者ギルドに行くから」

「君は食べ終わったら食器の片付けもしないの?」

「え? 後でよくない?」

「よくない、私がやってあげるから少し待ってなさいね?」

「いや、別に後でやる……」


 と言う俺の言葉を無視してルッカさんは何故か片付けをしてくれた。


「終わったからね?」

「え、うん、有難う、じゃあ俺は……ってルッカさん? 買い物にでもいくの?」

「違うよ? 私も君と同じ場所に行くんだよ?」

「え? ルッカさんも冒険者ギルドに用事があるの?」


 どうしてまた? 確かルッカさんも国王軍に所属できる程優秀な成績を収めていたと思うんだけど。


「そうよ? 言ってなかったかしら?」

「うん、言ってない」

「あら、そう? 私も君と同じ冒険者になったんだよ?」


 と、何事も無い様に淡々と話すルッカさんだ。

 って、え? え? 何でどうしてあれだけ成績優秀なルッカさんがわざわざ冒険者になったんだ!?

 うーん、確かにルッカさんは雷属性って水と風を合わせた属性を扱う事が出来る。

 でも、合成元の水と風属性を扱う事は出来ないんだよな、だからダメだったのかなぁ?


「どーゆー事?」

「それは秘密」


 って事はやっぱり……?


「ああ、そうっすか」

「……少し位突っ込んだらどうなの?」


 と言われて突っ込んでみてもロクな結果にならないからやっぱりやめておく。


「いや、別に俺は興味ないし」

「何よッほら、さっさと行くよ!」


 俺の一言が気に入らなかったのだろうか? ルッカさんが機嫌を損ねたのかここから冒険者ギルドまでの間、彼女の方から特に話掛けて来る事は無かった。

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