6話「初依頼4」
どうやら今の悲鳴を聞き付けて仲間のゴブリンがやって来たみたいだ。
数は3体、単純に考えて魔法を6回使う必要があるな。
魔力残量は……大丈夫だ、何とかなる。
ゴブリンとの距離は十分だ、集中しろ、俺なら外さない、魔術成績トップの俺を舐めるな!
俺は『ストーン・アロー』を1匹目のゴブリンに放った。
1発、2発命中……撃破。
3発……よし、4発目……2体目撃破!
残すは後1体。
5発目……3体目に直撃……けど頭部は外れた。
6発目……。
チッ! あの野郎! 一丁前に持っているナイフを投げて来たッ!
防御は難しいぞ? どうする?
「やるしかねぇ!」
俺は6発目の『ストーン・アロー』をゴブリンが投擲したナイフ目掛けて放った。
甲高い音を響かせ、投擲されたナイフの迎撃に成功した。
この間にゴブリンは俺との距離を詰めたか、だったら!
「行くぞ!」
俺はゴブリン目掛けて地面を蹴るとゴブリンの懐へ潜り込み、装備している剣で首筋がけて斬り付けた。
「!!??」
俺の剣撃を受けたゴブリンが避けられない、と死を覚悟した表情を見せた直後首が胴体から離れ宙に舞う。
気味の悪い形相をした首と一瞬だけ俺と視線が重なった。
正直、後味が悪い。
そう思った直後、生命活動を停止したゴブリンは小さな魔石へと変貌した。
「くっ……」
ゴブリンを切り裂いた後味の悪さを右手に引き摺りながらも、俺は地面に転がる魔石を4つ回収し、ルミリナさんの元へ駆け戻った。
「ルミリナさん、ルミリナさん? ゴブリンは倒し終わりましたよ?」
俺はパニック状態を起こしてるルミリナさんの肩をポンポンと叩きながらその旨を伝えながら回収した魔石を2つ渡した。
「え……? カイル、さん? あれ? 私……? えっとその石は、魔石ですよね? 私、何もしてないですから受け取る訳にはいけません」
「ははっ、そんな事ないから大丈夫だよ、ほら、ライティング使ってもらってるし、プリーストってのは怪我をしてもすぐに治療して貰えるって安心感もすごく大事だしさ」
「その……はい、すみません……」
ルミリナさんはうつむきながらも、申し訳なさそうに手を伸ばし魔石を2つ受け取ると、冒険者カードへと吸い込ませた。
「ふぅ、俺も魔力随分と使っちゃったしそろそろ帰ろうか」
正直4体しか討伐出来てないのは厳しいと思うし、食費になるのかも怪しいが魔法力を随分と使った状態で探索を続けるのは危険だと思う。
もしかしたら帰り道ゴブリンと遭遇するかもしれないし残った魔力はその為に残しておきたい。
「はい……ごめんなさい」
ルミリナさんは、申し訳なさそうに俺の提案を受け入れた。
撤退の判断をした俺はこのまま特にゴブリンと遭遇する事も無く無事洞窟を脱出し、そのまま冒険者ギルドへ終了の報告をしに行った。
「カイルさんおかえりなさーい☆ 随分と早かったですね! やっぱり成績トップですから、ゴブリン程度さっさとバッサバッサのギッタンギッタンにしちゃいましたか?」
冒険者ギルドに戻ると、討伐を終えた俺をリンカさんが明るくご機嫌な様子で出迎えてくれた。
「ははは……そんな事ありませんよ」
「またまた、謙遜しちゃって~、それでは、今回の依頼の清算をさせて頂きますね♪」
謙遜してるつもりなんて全く無いんだけど。
どうもリンカさんは本当に俺が凄い事をしたと思ってるっぽくって妙ににこにこ笑顔で手続きを進めている。
そんな期待されてもなぁ、と思いつつも俺は冒険者カードをリンカさんに手渡した。
冒険者カードを受け取ったリンカさんは、近くにある専用の道具にカードを刺し何かの操作を始めた。
その操作が終わると、冒険者カードを俺に返した。
「……カイル、さん? 一体何があったんですか?」
「いや、特に何もありませんよ」
やっぱり討伐数が4体は少なかったのか、リンカさんが怪訝な表情を見せた。
そして俺の耳元に口を寄せると「もしかして、あの娘が足を引っ張りましたか?」と囁いた。
「まさか?」
「本当ですか? 忠告しますけど、冒険者、特にプリーストなんてあっさりと裏切りますよ? 地力がついて、高ランクの冒険者から誘われる様になったらあっけなく見捨てるの、私何度も見て来ましたから、特にあの娘みたいに可愛い娘だと目的は兎も角他の冒険者の需要が物凄く高いからほぼ100%カイル君がCランク冒険者になったら捨てられるからね?」
俺の耳元、小声で忠告してくれた訳だが……。
チラッと表情を見る限り厳しさを伺える時点で嘘や何か下心があって言っている様には見えない。
「その時はその時じゃねーっすか?」
「それでカイル君が納得出来るの? ゴブリンの魔石2個しかないじゃない? これってあの娘にも半分分けたんでしょ?」
「そうですけど……」
二人で一緒に依頼をこなしたんだから報酬の折半って普通だと思うんだけど。
「カイル君は御人好し過ぎよ? 裏切られるだけならまだいいけど、時には騙される事もあるの」
「そうっすか……」
確かにリンカさんの言いたい事はわかる気がするんだけど、でもこれじゃルミリナさんに何か恨みでもあるんじゃないかって疑いたくなってくるが……?
「……私は、プリーストに男を奪われた事があるのよ。 それはそうよ、冒険者ギルドでただただ冒険者の対応をするだけの事務員と、自分の傷を癒してくれるプリーストとどっちが魅力的かって言われたら不通の男ならプリースト選ぶでしょ?」
「まぁ、そうっすね」
ああ、そう言う事だったのか。
でもそれって、リンカさんのその性格のせいじゃないかなぁ、なんて勘繰りたくもなるけど……。
けどなぁ、忠告の一つである事は事実なんだよな。
って、リンカさん? 今の事ルミリナさんに聞こえたみたいだよ!?
ルミリナさん、なんか泣いてますよ!?
「では今回の依頼の清算の清算をさせて頂きます」
「……」
ルミリナさんがゆっくりと冒険者カードを差し出した。
「聞こえたのね、悪かったわ……そうね貴女も、カイル君みたいに優しい冒険者は滅多に居ないと覚えておく事ね、普通は下心を持っていると思って。 特に今回みたいに二人きりで洞窟に向かった時、何されるか分かったもんじゃないから」
「……」
ルミリナさんは小さく頷いた。
「下手をすれば、洞窟内で放置され殺される事だってあるの。 証拠なんてまず出ないから、魔物に殺されたと言われてしまったらそこで終わってしまう」
「……」
「冒険者ギルドとしても、そういう事がありそうな人とパーティを組ませない様にはするけど絶対に防げる訳じゃないし、冒険者ギルドの外で組まれる事まで干渉は出来ない」
「……はい」
「私が貴女に雑仕事しか進めなかったのは貴女の地力が足りないからね、雑仕事しながら地力を高めてそういうケースを防ぐって意図もあったのよ」
「すみま……せん」
「冒険者ギルドの受付をしてるとね、色々な冒険者の話を聞くのよ、当りがきつかったのは悪いと思う」
「いえ……有難う御座いました」
清算を終え冒険者カードを受け取ったルミリナさんは力無く冒険者ギルドの外へ向けて歩き出した。
「今日は本当に有難う御座いました」
冒険者ギルドの外へ出ると、ルミリナさんが改めてお礼を言ったのだけどもリンカさんから言われた事が堪えてるのか何処か力が無い感じだ。
「いや、俺の方こそありがとう、リンカさんからはキツイ事言われちゃったけど俺はそう言う風に思って無いから」
「すみません、そう言って頂けると助かります……」
「ははは、困った事があったら俺に言ってくれて良いし、また機会があったら一緒に依頼受けよう」
「有難う、御座います……」
俺はルミリナさんに自宅の場所を教えるとそのまま帰路に着いた。
自宅に戻った俺は今日の反省点を思案した後勉学用の魔道書を読み、日付が変わる少し前の時間になったところでベッドに入り就寝についた。
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