5話「初依頼3」

 この後もサクッとした会話をルミリナさんとしながら雑貨屋に辿り着いた俺達は松明や傷薬と言った道具を揃えた。

 確かにヒーリングは二人とも使えるし『ライティング』と言う明かりを生み出す魔法も使えるからこの手の道具が一見すると不必要に見えるんだけど、魔法って魔力が無くなったら使えなくなっちゃうからその時の為にこういう道具も買っておいた方が良い、って学校の授業で習ったんだよな。

 それにしても、だ。

 この雑貨屋のおばちゃんがにやにやしながら恋人どうのこうのって話をして来たんだよ。

 それに対して俺は間髪入れずに否定したんだ、だって今日あったばかりの女の子じゃない? どう考えたって初対面の人と恋人になる事なんて有り得ないんだし。

 それで、隣に居たルミリナさんだって否定したんだよ、で、そしたら何か知らんけどおばちゃんが「カイル君、アンタ鈍感だねぇ~」って俺の耳元で囁いたんだよ。

 一体俺の何が鈍感なんだよ? 確かに思い返してみるとルミリナさんがちょっと残念そうな表情してたし、返事に少しだけ間があったけどさ。

 で、カイル君を茶化すおばちゃんが居る雑貨屋を後にした俺とルミリナさんはセザールタウンの南門を抜け街の外へ出た訳だ。

 いやー、街の外って良い景色してますね! ほら、見渡す限り青々と茂った草木が生える広大な平原! その平原も端の方には川が流れてて川沿いには魚釣りをしている人達も居るんだ。

 あーあ、もっとこの景色を堪能してゆっくりすごしたいなーって思っちゃうけど、残念ながら今日はその川沿いを下って行った先に見える谷があって、更にそこを下っていった所にある洞窟に行かなければならないからそんな事出来ないんだよな。

 

「ここか……」

「……」


 洞窟の前に辿り着いた俺達は目の前に広がる漆黒の闇に対して恐怖心を覚え立ち止まっている。

 大丈夫、この先に現われる魔物が最弱クラスのゴブリンしかいない、別にドラゴンとかそういう類の魔物が居る訳じゃない。

 俺はゴクリと唾を飲み込むと、

 

「よし、行くぞ!」

「は、はい……」


 俺は松明に火を灯すと、暗闇を目の前にペタッと俺にくっつくルミリナさんの手を取り洞窟の中へと足を踏み込ませた。

 明かりを確保する手段は『ライティング』と言う魔法もあるんだけど、魔力を温存したいから松明を選んだワケだ。


「大丈夫か?」

「は、はい、その、大丈夫です……」


 松明のが照らし出す心もとない明かりを元に壁を伝いながら奥へと向かっているんだけど、どうにもこうにもこの程度の明かりでは石が散乱していたりと不安定な道筋を辿るには厳しいものがある。


「暗いな……」

「あの……カイルさん、私、ライティングも使えます」


 ルミリナさんも『ライティング』を使える、俺の場合は攻撃魔法に使う為魔力を温存する必要があるけど、ルミリナさんの場合はそこまで必要が無さそう。

 下手にケチって松明の乏しい明かりで探索を続けた結果無駄な事故を起こして不必要に『ヒーリング』を使う羽目になるのも馬鹿馬鹿しいな。

 

「有難い、是非使って!」

「はい!」


 ルミリナさんはニコッと笑顔を見せ『ライティング』を発動させると、彼女の頭上付近に光の球体が出現し周囲を照らしだした。

 うん、これだけの光量があればこの暗い洞窟の中でも十分な視界が確保出来る。

 

「流石プリーストだね! これで探索が楽になったよ!」

「えへへ、そう言って貰えると嬉しいです」

 

 はにかみながらにっこりと笑みを見せるルミリナさん。

 むぅ、なんだその、このルミリナさん凄く可愛い気がするぞ?

 ぬぅ、どこぞのルッカさんとか言う攻撃的なウィザードと天と地の差があるなぁ。

 

「中々出て来ないなぁ」

「うん……本当はここには何もいないって思っちゃいます」

「そうだね、ここまで何も出て来ないとそう思っちゃうよ」

 

 そう言えばゴブリンは夜行性の魔物だっけ?

 つまり、俺達がこの洞窟に入ったのは大体昼だからゴブリン達に取っての今はゆっくりと寝床に着いてる時間だ。

 だとしたら、洞窟の奥に居ると考えられるから、もっともっと奥に行けばゴブリンと遭遇するって事か?


「あはは……何も居なかったって引き返したらダメですよね?」

「そうすると今日の稼ぎが0になっちゃうけどね」


 こんな暗くて狭い空間を延々と歩き続けるて嫌になって来てるルミリナさんの気持ちも分かるし、正直な所このまま撤収してまた明日頑張れば良いって考えになってしまう。

 

「はぁ、そうですよね……」

「多分もっと奥に居るよ」

「うぅ……怖いけど我慢します」


 少しだけ涙声になってるルミリナさんを見ると女の子なんだなぁって思ってしまう。

 ホント、どっかのウィザードとは大違いだ。

 

「ねぇ……カイルさん……?」


 ライティングの明かりに照らされた洞窟を更に奥へと進んで暫くしたところで、突然ルミリナさんが俺の背中に隠れながら恐る恐る遠くを指差した。

 

「うん? どうしたの? ルミリナさん?」


 俺はルミリナさんが指さした先を目で追ってみると、そこには小さな人影があった。


「はわわわわ!? あ、あれがゴブリンじゃないですか!?」


 ゴブリンと思わしき影を見つけたルミリナさんは恐怖のせいか、身体を小さく震わせながらその場にうずくまってしまった。


「どうやらそうみたいだ」


 その人影の大きさは大体人間の3分の1位の大きさで、少し小さな子どもと似た様な大きさ。

 手にはナイフの様な物を持っており、俺が持ってる知識と照らし合わせても多分あれがゴブリンで良いと思う。


「カ、カイルさーん!? ひいぃぃぃぃ!?」

「大丈夫じゃなさそうだね」


 くっ、ルミリナさんがパニックを起こしてその場から動く事すら出来ないみたいだ。

 どうする?

 遠くに居る影を斬りに行くか? でもそうしたら俺がルミリナさんから離れた隙に実は俺が気付いていなかったゴブリンが陰から現れてルミリナさんを襲撃するかもしれない。

 ゴブリンが来るのを待つか?

 いや、数が分からない以上それも良くない。

 1体なら俺の剣技でどうにか出来るけど、もしも複数体来た場合ルミリナさんを守りきれない。

 ならば、遠距離から魔法攻撃でゴブリンを仕留めよう。


「プロテクション!」


 まずはルミリナさんに対して防御力上昇魔法を掛けて安全を確保だ。

 勿論、プリーストが使うモノよりも効果は薄いが、今この状況ならば十分な効果を発揮するはずだ。

 

「はわわ……」

「行くぞ!」


 続いて俺は『ストーン・アロー』を完成させ、岩石状の矢を遠くに居るゴブリン目掛けて放った。

 

「ぐぎゃあああああ!!??」


 直後、俺の放った魔法を頭部に受けたゴブリンが物凄い悲鳴を上げ、その場に蹲った。

 やったか? いや、確か魔物は絶命すると小さな魔石へと変化する、けど奴はまだ魔石になって無いから死んでない。


「止めだ!」


 俺は頭を抑え転がりもがくゴブリンに向けもう一度『ストーン・アロー』を放った。


「うぎゃああああおおおおお!!」


 再び周囲にゴブリンの叫びが響き渡った、かと思うとその肉体から煙の様なモノが噴き上げたかと思うと小さな魔石へと変化した。

 

「やったか?」

「あわわわ……」

 

 そう言いながらルミリナさんをチラ見するが、まだパニック状態のままだ。

 あの魔石を売る事でお金にする事が出来るからすぐにでも回収したいところだけどパニック状態が回復していないルミリナさんの傍を離れるのは良くない。

 

「増援か!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る