4話「初依頼2」

「あの……カイルさんですか?」


 俺が冒険者ギルドの出口へと向かう途中、背中から女の子の声が聞こえて来た。


「そうだけど?」


 声のする方へ振り返ってみると、そこには先程リンカさんから突っぱねられたプリーストの姿があった。

 

「初めまして、私、ルミリナって言います! カイルさんの事は昔から知ってます!」


 俺を昔から知ってる? セザール学園にルミリナなんて名前の娘居た覚えないし、そもそもプリーストは教育してないから少なくとも同じ学校の人じゃないのに何で?

 

「え? そうなんだ? それは光栄ですね」

「えへへ……カイルさんってすーごく有名なんですよぉ~、私が通っていたセザール教会ではカイルさんの話題が良く出てたんですよ!」


 瞳をきらきらと輝かせながら嬉しそうに語りだすルミリナさん。

 セザール教会に居たって事は、今年からプリーストの冒険者として活動を始めたって事かな?

 それにしても、プリーストは自分一人じゃ何かし辛いのにその上で冒険者の道を歩むのは珍しい気がするなぁ。

 確かに高ランクの冒険者に寄生……ぢゃない、同行する事に成功すればプリーストでも結構稼げるって話は聞く。

 でもなぁ、自衛手段が乏しいから他の仲間がやられた時点で自分の命もまず助からないだろうし中々勇気のいる決断じゃないかなぁ?

 いや、でも、その状況だとそこに居る前衛の人間も死んでる以上後衛の人間がどうこうってのは関係無いか。


「ははは、それは意外な話ですね。 ところで、俺に何かご用件はありました?」

「あ、はい、ごめんなさい、その……私ってプリーストなんですけど、新人ですとそんな大怪我をする依頼も少ないですから一緒に戦ってくれる人が居なくて……でも私はプリーストですから自分一人で魔物を討伐する事は無理って言われちゃいまして……」


 言われてみればそうだね、今回俺が請けたゴブリン討伐だって傷を負ったとしても大した事ないと思うし、ポーションを使えばすぐに治るから仮に俺がFランクで同じ依頼を請けたとしてもわざわざプリーストを連れて行く理由がないんだよなぁ。


「うーん、確かにリンカさんから却下されてたよね」

「はい、そうなんです……そこで、セザール学園で有名なカイルさんに同行して貰えないかな、なんて思ったんです。 その、私にはお金が必要なんです……」


 お金が必要ねぇ? 借金でもしてるのかなぁ? でもこの娘がしているようには見えないとなると、家族の誰か? 例えば自堕落な父親とか兄貴でも良いし、母親の可能性も……。

 いや、こんな可愛い娘なんだ、きっと妹が居て、でも家庭は貧乏だから妹の学費を捻出できなくって、そこでお姉ちゃんが頑張って妹の学費を稼ごうって事なんだろうな。

 よし、そう言う事ならこのカイル・レヴィン、困っているルミリナさんに手を貸してあげようじゃありませんか!


「そういう事なら構いませんけど、俺も依頼を請けるのは初めてだから成功するか分からないし、雑仕事より稼げる保証は無いかな」

「いえいえ! 私の方からお願いしてますから全然問題ありません! 有難う御座います!」


 喜々とした表情を見せながら丁重にお礼を言うルミリナさん。

 うーん、俺が知ってるどっかの誰かさんは人に頼みごとをしてもこんな丁重な態度取った事ねぇんだよなぁ。

 で、女の子ってそれがフツーって思ってたけどそーでもないのかなー?

 ま、いっか、一応リンカさんに確認取っておこう。


「えーっと、リンカさん、さっきの依頼ですけどこの娘と一緒にこなす事に問題はありますか?」


 相変わらずリンカさんの前に冒険者の並びは少なくあっという間に彼女の前に辿り着いた。


「別に問題は無いですけど、新人プリーストなんて足手まとい連れて行ってもカイルさんが損するだけですよ? 守る者も増えて負担は増えるけどでも報酬は半分、ですから」


 いやまぁ、確かにそうなんだけど、幾ら何でもそのプリーストが居る前で其処まできつく言いますかね? しかも本人が聞こえそうな割と大きめの声でさぁ。

 まさか、ルミリナさんが可愛いから叩き潰してやろうとかそんな考えしてる訳ないよな?

 あーあ、ルミリナさんなんか涙目になってるよ。


「それでも構いませんよ」

「ふーん、勿体無いですねー? 冒険者ギルドとしてはカイルさんが請けた依頼にルミリナさんが同行する事に異論はありません、では頑張って下さい」


 それにしても刺々しい言い方だな……。

 リンカさんとルミリナさんの間に何かあったのか勘繰りたくなるけど……まぁ良いや、準備を整える為に雑貨屋に向かうとしようか。


「その……本当にありがとうございます」

「気にしなくて良いよ、俺も一人で洞窟に行くのは心細かったからね」

「そう言って頂けると幸いです」

「ところでルミリナさんはどうして冒険者になったの? お金が必要って言ってもそのまま教会のシスターを続けてもそれなりに稼げると思うんだけど……」

「え? あ、その、えっと、その、ほ、ほら、カイルさんだって冒険者じゃないですか? きっと似た様な理由だと思いますよ?」


 何だか物凄く口籠った言い方だなぁー、やっぱり俺が考えた通りだったりするんだろうな。

 これ以上詮索しても無駄そうだし、真相知った所で俺に関係ある事が増えるかと言ったらそうでもなさそうだし気にしないでおこう。


「うん、そだね、俺の場合は決まった道を進むのって何か面白くないから冒険者やってみようって思ったんだ」

「え? あ、は、はい、私もそうなんですよ!」


 どこか上の空で適当に合わせてるだけっぽいなぁ、何か別の事考えてるみたいだ。

 

「やっぱ普通じゃつまらないよね! そうそう、ルミリナさんが使うヒーリングってどれ位の効果があるの?」

「えっと……あはは……重度な傷までなら何とかなる程度です……肉体から離れてしまった場合の再生までは無理です……」


 何処か申し訳無さそうに言うルミリナさん。

 実は俺もヒーリングが使えたりするんだけど、今ルミリナさんが言った位の効果を発揮する事は出来たりする。

 成る程なぁ、プリーストとしての魔法も新人クラスだった訳ね、何となくリンカさんの対応に納得出来る様な気がしなくもないなぁ。

 いやまぁ、新人冒険者なら魔法が新人レベルは当たり前じゃないか、全成績トップだった俺が凄いだけだよな、たぶん。


「そっかぁ、でも十分凄いんじゃないの?」


 ま、でもここは知らないフリすれば良いよな。


「そ、そうですか……? で、でも、優秀な人ですと、新人の時点で時間は掛かりますけど、ヒーリングで肉体の再生位出来ちゃいますし……あはは、実はそう言った人ですと新人でも他の冒険者から誘われるんですよ」

 

 深いため息をついてがっくりと肩を落とすルミリナさん。

 同じ新人でも優秀な人じゃないと難しいって事はやっぱりプリーストが冒険者をやるのは厳しいみたいだなぁ。

 いや、待てよ? 確か学校に居る時高ランク冒険者のパーティにプリーストは欠かせない存在って話を聞いた事があるぞ。

 けど、新人の時の扱いがあまりにも酷いからプリーストのなり手が減ってるって話も聞いた事があるなぁ。


「そうなんだ、プリーストって大変そうなんだね」

「はい……そうなんです……」


 ま、難しい事考えても意味が無いしさっさと準備を整えて依頼をこなしに行きましょう!


 そうは言ってみても、俺が全成績トップで卒業しても最初に請けれる依頼がコレだから、冒険者って稼業自体厳しいのかもしれないね。

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