3話「初依頼1」

  仔羊様から教えられた武器防具屋を目指し歩く事20分。

 セザールタウン中央部から少しだけ外れた所で『武器防具の店タルキン』と言う看板が掲げられた青い屋根の建物があった。

 俺は少しだけ緊張しながら入り口のドアを開けた。

 


「らああああっしゃい! おう! おめぇ新人冒険者か? ウチに来るなんざ見る目があるガキじゃねぇか!」


 武器防具店に入ると、つるっつるな……っと失礼、威勢のいいおじさまが俺を出迎えてくれた。


「はい、新人冒険者です」

「だろうな、で、職業はなんだ?」

「はい、ナイトです」

「ナイトか! ガッハッハ、あんちゃんみたいなイカス男にはお似合いだな!」

「いやーそれほどの事でも無いですよ」

「ガッハッハ、謙虚なボウズだな! よし、そうだな! おめーみたいな新人にはコイツでどうだ!」


 威勢の良いおやっさんが俺に紹介した装備品と言うのは、


 ・アイアンソード(ミドル)

 ・アイアンシールド

 ・アイアンアーマー(ライト)

 ・アイアンヘルム


 まごう事なきTHE鉄装備と、まさに新人ナイトにお勧めの装備一式だった。

 値札に書かれている値段も無難なラインだ。


「良いですね、是非購入したいと思います」


 俺は値札に書かれていた額と同額のお金をおやっさんに渡した後装備品を受け取り、早速身に付ける事にした。


「よっしゃ、ありがとな!」

 

 鉄製の装備一式に身を纏った俺は武器防具屋を後にした。

 はぁ、それにしても店の奥に飾ってあったあの装備品はカッコ良かったなぁ~。

 白くて美しい光沢の装備品で、すっげーのなんのって。

 でもさぁ、こっそり値段を見たらとても俺じゃ届かない様な高価なモノだったんだ。

 おやっさんの話だとAランク冒険者が身に付けるような装備品だって。

 うーん、是非ともあのカッコ装備品を身に付けたい、よし、まずはAランク冒険者になる事を目指して頑張ろう!

 続いて目指すは冒険者ギルドだ。

 おー見えた見えた、仔羊様が言ってた赤い屋根で3階建ての建物だ。

 高さじゃなくって、広さも結構あるなぁ。

 沢山の冒険者が行き来するからこれだけの広さが必要なんだろうな。


「よし、頑張るぞ!」


 冒険者ギルドに辿り着いた俺は気合を入れて入り口のドアを開け、中に入った。

 おー、色々な冒険者が居るぞ!

 うわー、あの装備も中々カッコ良いなー。

 あ、あの人もしかして上位職の人かなぁ?

 おっと、周りの人達に見とれてないで、早速俺も仕事を貰いに行こう!

 うーん、最初はどんな仕事を請けようかなぁ?

 学校で教えて貰った通り最初はゴブリン退治から初めて徐々に強い魔物を討伐する流れで良いかな?

 変に無理して犬死するのも馬鹿馬鹿しいし。

 よし、方針も決まったし早速受付けに行こう!

 

「ですから、幾らなんでも冒険者なりたての人が一人で魔物を討伐しに行ったら死にます」


 受付に付くと、俺より前に並んでいた冒険者が受付嬢から厳しい口調で怒られていた。


「うぅ……だめですか?」

「はい、冒険者ギルドとしても非常に高い確率で命を落としてしまう依頼を斡旋する事は出来かねます」

「その、どうしてもお金が必要なんです……」

「雑仕事がありますから、それで地道に稼いで下さい」


 うーん、見た感じ俺と同じ新人冒険者みたいだ。

 と言う事は今日卒業した人だと思うんだけど、どうもその人の装備品を見る限りプリーストっぽいなぁ。

 少なくともセザール学園の人じゃないし、俺よりも少し背が低くてふわっとしたセミロングで色はピンク色の女の子なんて知ってる中には誰も居ない。

 しかしまぁ、補助魔法や回復魔法は得意だけど武器を扱う事も攻撃魔法も苦手なプリーストが一人で魔物を倒しに行くのは無謀だよね。


「はうぅ……」


 少女はがっくりと肩を落とし項垂れる。

 お金が必要な気持ちは分からないでも死んでしまっては意味が無いと思うし素直に受付のお姉さんの言う通りにした方が良いと思うけど……。

 

「お決まりにならないのでしたらまた改めてお越しください、お次の方どうぞ。」


 なんて思っていたら受付のお姉さんが容赦なく少女を切り捨てた。


「あ、はい」


 受付のお姉さんは水色のポニーテールヘアーで眼鏡を掛けている中々綺麗な女性だ。


「はぁ、また新人さんですか? 装備品を見れば分かりますから」


 綺麗な女性なんだけど、開口一番溜息をつけられる始末。

 ……悪かったな新人で冒険者で!


「はい、そうです」

「ではお名前を伺いますね」

「カイル・レヴィンです」

「カイル・レヴィン君ね、学校は出てますかー?」

「セザール学園を出てます」

「セザール学園のカイル・レヴィン君ね、ハイハイ……」


 それにしてもやる気のない対応だよなぁ、冒険者ギルドの職員ってこんな感じなのかなぁ。

 と隣の受付をチラっとみると残念ながら? 俺と同じ新人冒険者っぽい人相手にもにこやかな笑顔と明るい声で応対している。

 ……隣の受付嬢に鞍替えしてやろうか? と思いたいけど何故か長蛇の列になってやがる。

 で、この受付嬢様に並ぶ冒険者はそんなに居ない、成る程、俺は何も考えずに並びが少ない方が良いやと思ってテキトーに並んだんだけど、こういう裏があった訳ね。

 仕方ない、今日のところは我慢しておこうじゃないか。

 それにしても手元にある書類の捲り方がぶっきらぼうすぎやしないかい? 別に良いけどさぁ。

 ってあれ? お姉さん? 急に眼鏡をクイッと上げましたけど、どうかなされたのですか?


「わっ! す、すごいですねカイルさん!」


 お姉さんは、突然感嘆とした声を上げた。

 で、何故かものすごーい笑顔で、何故か琥珀色の瞳をきらきらと輝かせてるんですが、一体このわずかな時間に何があったんだろう?


「は、はぁ……?」

「全教科トップの成績で卒業なされたんですか! きゃーすごいすごい☆」


 は? 全教科トップだった程度の事でそんなに舞い上がったの? 何で? どうして? この人大丈夫なんですか? ちょっと心配になって来たんですけど。

 俺は再び隣の受付をチラ見した。


「そうですけど、それがどうかしましたか?」

「えへへへ、私、リンカって言うんですよ☆」


 リンカさんは胸元で両手を組むと上目遣いしながらどこかによによしている。


「あーはい、そうっすか」

「これだけの成績でしたら~♪ 最初からEランクで大丈夫ですよ♪」

「良いランク?」


 確かに全成績トップだし、でもおやっさんは上位ランクはAランクつってたよなぁ? ええランクと聞き間違えたか? でもそれだといいランクと区別が付かないぞ?


「えっとですね、冒険者には受けられる仕事の目安として冒険者ランクが付けられるのですよ、一番低いランクがRでこれはルーキーを意味しています。 学校に通っていない方が冒険者になった場合はこのランクから始めてもらう事になります。そしてその次からはFランクとなっており、E、D……と上がって行きSSSランクが最高となっています。これは身の丈に合わない強力な魔物に挑んで無駄に死んでしまう冒険者を減らす為の措置です。ちなみに、SSSランクの冒険者ですとドラゴンとか高位悪魔とかの討伐をお願いする事になっています。逆にRランクの方は街の雑務を行ったりゴブリンよりも小さくて危険度の少ない魔物の討伐に当たって貰っています」


 なんて事だ!? 今しがたリンカさんが言った事は良いランクじゃなくてEランクだったのか!?

 クッ何たる失態!?


「そ、それで俺がEランクから初めても問題ないと言うのは何故ですか?」

「一般的に学校を卒業された方はFから、成績優秀な方はEランクからスタート出来るからです」

「分かりました」

「それでは早速この依頼なんてのは如何でしょう?」


 そう言ってリンカさんが俺に見せた依頼書の内容はと言うと。

 

【南の洞窟に住むゴブリンの駆除】


『最近ゴブリンによる作物被害が多数報告されている。そこで冒険者諸君にはそのゴブリンを討伐して戴きたい。奴等はセザールタウン南方にある洞窟に居住を構えており、そこに直接乗り奴等を駆除して欲しい。


 つまりゴブリンの討伐って初心冒険者が受ける内容にはうってつけなモノだ。

 これがEランクと言うのは洞窟の奥まで行かなければならないからだろう。

 俺は別に方向音痴でもないし、洞窟探索はレンジャーの担当分野だけど俺はレンジャ―関係の成績もトップで卒業してるから何の問題も無い、よし、そうとなったらこの依頼を請けようではないか!

 

「分かりました、この依頼でお願いします」

「やった☆ 有難うございます☆ それでは冒険者カードを渡しますね☆」


 そういうと、リンカさんは手の平に収まる程の大きさをした金属製のカードを手渡した。

 このカードに魔物の討伐情報や達成した依頼の情報データを累積するとのこと。

 また、冒険者としての身分証明書になるそうだ。

 

「あ、はい、有難う……?」

「頑張って下さいね、カイルさぁ~ん☆」


 リンカさんのにこやかな笑顔に違和感を持ちながらも、俺はゴブリン討伐へ向う為冒険者ギルドを後にしようとした。

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