2話「仔羊様!?」
卒業式を終えて早々ルッカさんから謎の襲撃から解放された俺は冒険者として何をするかの情報を集める為に街の中心部へと向かった。
お昼過ぎのここら一帯は相変わらず賑わっている。
軽食を扱ってる露店には手軽に食事を済ませたいと考える労働者で溢れている。
また、家を改造してお店にしている所では落ち着いた環境なのか、買い物に出かけた主婦が友達と共にゆったりと食事をしている。
それ以外にも冒険者ご用達である武器防具を扱った店や、冒険に必要な雑貨を扱った店もある。
「やっぱ色々な店があるなぁ~学校に通ってた頃はあの店のホットドッグを良く食べたんだよな~」
今は丁度お昼ご飯の時間、折角だしまたあのホットドッグを食べに行こうか。
と俺がお目当てのお店に向かおうとしたところで、
「やぁ~やぁ、ボークは善愛な仔羊だよ☆」
と、俺の後方から妙な男声が聞こえて来た。
は? 善愛な子羊? なんじゃそりゃ? 深夜に現れる酔っ払いなら兎も角、こんな真昼間からそんな痛々しい事を言ってる人間なんか関わっちゃダメってセンセーが言ってたな、うん、ここは全身全霊を込めてシカトする事にしましょう!
「…………誰だろう?」
っておい! 俺は何をやっている! たった3歩進んだだけで身体が勝手に声の主を見てるじゃないか!
いや、はい、その、協議した結果、その痛々しい人間の面を拝んでやりたくなったと言いますか、その、はい、とても申し訳ない事だと僕も思っています。
勿論、反省なんか致しませんから許して下さい。
「げ、何だよあれ!」
周囲の人間からドン引きされても可笑しくない俺の独り言が当りに木霊してしまう。
クッ……だから全力でシカトしろと言ったのだよ。
これじゃ俺までもが痛々しい人間になってしまったよ。
はい、言い訳させて貰いますよ? 自己弁護する機会は平等に与えられてますから!
俺が好奇心に負け振り返った、それは申し訳ないと思います。
しかし、そこには羊の着ぐるみを着た生物が僕の瞳に映ったのです。
それもですよ?
人間って普通7頭身位じゃないですか? それが、それがですよ? な・ぜ・か、3頭身だったんですよ?
分かります? 胴体と足を合わせても頭2つ分の大きさしかないんですよ?
明らかに男の声、しかも多分おっさんじゃないかなーと思う人間の姿がそれですよ?
それ故に驚きの声を上げた訳なのです、私悪くありませんよね? 同じ状況ならみんな同じ事すると思うんですよ。
「ねぇ~ねぇーそこのおね~さーん☆ ボックと一緒にお茶でもどぉ~だい?」
えーっと、そのよー分からん生物が、何故か道行く女性にナンパをし出してるんですけど……。
あ、振られてる。
あーっはっは、そりゃそんな気持ち悪い姿のおっさんなんて振られて当然でしょ!?
鏡見て身の程わきまえてから出直した方が良いって僕は思いますよー?
って俺が心の中でその生物を馬鹿にしたと思えば、めげずに別の女性に声を掛けて……。
やっぱり振られて気が付けば……。
10連敗!
はっ!? ちょっと待て、なんでこの生物がナンパして玉砕する姿をじーっと眺めていたんだ!?
……いや、あんなアホな面して振られる上にめげずに突貫してる姿が面白くて仕方なかったからですけどー。
「どぁ~いじょうぶッ(クルッ)ボォ~~~クはぜーんあいっなっこぉーひつぅじぃさ(ニパッ)レディーに危害なんか加えないよ☆」
@11戦目。
まぁね、確かに羊と言う生物だけを見れば危害を加えられないと僕も思います、そこには賛同いたします。
けれど、その声の主がすっげー怪しいおっさんだった場合、1000人に聞いて1001人は危害を加えるって判断すると思うんですよね、僕は。
「フッフッフ、ボクはカオス学長みたいな悪魔とチガウんだからねっ☆」
うん? カオス学長って今言ったよな?
いや、まさかこんな変な生物がカオス学長と知り合いな訳ないよなー。
まーカオス学長は結構有名だからなー、きっとテキトーに思いついた有名人の名前を口にしてるだけだよな。
それにしても、カオス学長を悪魔扱いするってひでー話とは思うけど。
さってと、いい加減この生物の観察も飽きてきた事だしホットドッグ買いにいーこーっと。
「おぉや? おやー?」
そう思って俺がこの場を立ち去ろうと瞬間、仔羊様がまるで異世界からの来訪者でも見つけたかの様な声を上げながら何故か回れ右をした。
「え?」
ちょっと待って? 俺何か悪いことしたっけ? いや、その、俺男ですけど? 仔羊様?貴方は11戦全て女性に手を出してましたよね? だから男に興味があるとはとーてー思えねぇんっすけど、まさかそんな、あわわわわ!?
ぎゃああああ、じぃ~っと俺を見つめないでぇぇぇ!? 俺には心に決めた女性が居るんです!
えっと、えっと、うんっと、ダメだ、誰も浮かばねぇ……あ、そうだ、ルッカさん、ルッカさんが居るから仔羊様の気持ちには応える事が出来ないのであります!
いや、待って、待って? ヨソヨソと可愛い足取りでこっちに来ないで頂けませんか!?
「やあやあ、私は善愛な仔羊……」
ぎゃああああ! 俺は男に興味ねぇーーーいや、中の声が可愛い女の子でもぜって逃げる、俺は逃げて平和を勝ち取るんだ!
俺は回れ右をし、全力で目の前の厄災から逃げた。
大丈夫、足の速さには自信があるしこの人混み、何なら『クイック』の魔法を使えば普通の相手なら簡単に振り切れる。
「ち、ちょ!? ま、ど、どういう事だよ!?」
俺は再び周囲から痛い視線を浴びても可笑しくない程の声を上げてしまった。
いや、何で後ろに居たハズの仔羊様が俺の目の前に居るんだよ!
クッ……考えられるとしたら転移魔法を、しかもこんな短距離で使う、こんな下らない事に使うなんて……。
チィィィ!? この生物、物凄い魔術師か何かって事か!?
くそッ、冒険者になって早々俺は大切な何かを失わなければならないのか!?
「デュフフフ~カ~オ~ス~学長が~、きぃみーに冒険者のイロハを教えろって言ってたんだなぁ▽」
は? カオス学長の名前をまた? いや、待て、この生物が俺に冒険者のイロハを教えるって事?
……うわー、正直すっげー嫌なんだけど。
自分の身の安全が確保されたからそれは無いって言いたいと思うけどさー、だってこんな良く分からない仔羊に何か教えられたいと思います?
いやー、思わないと思うんだけどなぁ、俺。
でもなー、物凄い魔術師であるのは事実だしなー。
はぁ、分かったよ、この仔羊様に教えてもらうしか無いんだよなぁ。
「は、はぁ……?」
どーゆうー事? この怪しい生物がカオス学長と繋がりがあるだぁ? じ、冗談は勘弁してくれ!
「溜息だなんてひどいよぉ~、ボォクだってー本当は可愛い女の子を指導したかったんだぞぉ~▽▽」
まぁね、確かに教えて貰う立場の俺が溜息をついたのは悪いと思う。
でも! どーして今にも泣きそうな声出すんだよ!
「あーはいはい、そうっすか、それはすみませんでした」
「フフッ、分かったのならよーーーろしぃ!まずは冒険者ギルドに行くんだなぁぁぁぁッ!」
明らかな棒読みの返事だったんだけど。
だからつってそうやって言われるのもなんかムカつくけどな。
「分かりました、御指南有難う御座います」
「ぬははは! たーーーいした事無いんだなぁ!」
確かに色々と冒険者としての基礎をレクチャーしてもらいはしたが、すっげードヤってるのがなんかムカついてくるのは気のせいなのか?
「ボ~ックは善愛な仔羊なんだなぁぁぁ↑↑」
なんて思っていたら速攻で緑髪の美少女をナンパし出していたのであった。
はぁ、取り合えずは教えて貰った武器防具屋へ行くとしよう。
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