冒険者カイル
うさぎ蕎麦
1章.カイル旅立つ
1話「冒険者としての門出」
この物語はコルト大陸を舞台に繰り広げられる話だ。
その中央部にセザール国と言う国家があり、中央部分にはセザールタウンと言うセザール国の中心となる非常に栄えた街がある。
そのセザールタウンにはセザール学園と呼ばれる学校がある。
今日はそのセザール学校の卒業式の日だ。
「カイル・レヴィン君、我がセザール学園を首席での卒業、おめでとう」
セザール学園の学長室にて、初老の男性が目の前にいる生徒に対し祝福の言葉を述べている。
彼の目の前に他の生徒は居ない、首席での卒業と言う言葉通り彼だけ特別学長自ら対応しているのだろう。
「有難う御座います」
カオス学長に深々とお辞儀をする学生。
短めの髪で爽やかそうなイメージを醸し出している男子生徒としては平均的な身長に学校のお陰で鍛えられやや筋肉質なのが俺、カイル・レヴィンだ。
「君も近年におけるコルト大陸の話は知ってるだろう、セザール国家の国境を越えればそこには魔族が収める国家が統治されているが近年、その魔族が我々セザール国家に対し侵略を仕掛けている、カイル君、君は成績優秀でありながらも国王軍への道で無く、冒険者の道を選んだ事に感謝している」
「いえ、自分は……」
カオス学長の言う通り、全教科トップの成績を収めた俺は当り前の様に国王軍に就く話が持ち出されていた。
しかし、そんな逸材であるがこそ、成績優秀な他の学友みたいに一直線に国王軍に入るのではなく一度冒険者の経験を積んで欲しいと打診されたんだ。
冒険者稼業自体面白そうだと考えた俺は特に悩む事無くカオス学長の打診を受け入れたんだ。
「ふむ、相変わらず謙虚であるな、この国の未来の為にも頑張ってくれたまえ」
「はい、では失礼致します」
俺はカオス学長に一礼すると学長室を後にした俺はそのままセザール学園を後にした。
冒険者として、まずは何しようとこれから始まる新しい世界のことを考えワクワクしていたと思ったら、だ。
「見つけた! カイル! 今日こそ私が勝つんだから!」
セザール学園の外に出た途端、セミショートの赤髪を風にふわりと靡かせながら俺よりも少しばかり背の低い女の子が俺に話掛けて来た。
いや、話掛けたじゃねぇ! これは啖呵切ってるって言うんだよ!
「ちょっと待てルッカ! テメー何雷魔法構築してんだよ!」
「あらあら? レンジャー部門の成績も優秀だったカイル君がまさか奇襲という言葉を知らない訳無いよね♪」
どうやら、ルッカさんは俺が学校の外へ出るのを待ち伏せし、奇襲を仕掛けたみたいだ!
「るせぇ! それ位知ってるわ!」
チッ、俺は火、氷、風、地の4属性しか使えない。
ルッカさんが扱う風と水の合成属性の雷魔法を防ぎたければ風属性でどうにかするしかない!
俺はルッカさんの雷魔法を防ぐべく咄嗟に『ウィンド・バリア』を自分の目の前に展開させた。
「何よ! 毎回毎回防御魔法の発動が早過ぎるのよ! 卑怯じゃない!」
ルッカさんは『ライトニング・ボルト』を俺に向かって放った。
ビリビリビリ! と音を立て一筋の雷が俺を襲う!
「待ち伏せたアンタとどっちが卑怯だよ!」
俺はそれを『ウィンド・バリア』で受け『ライトニング・ボルト』の風属性部分を中和した。
「むっきー! また私の魔法を水にしやがって!」
水と風の合成魔法である雷属性、その風属性部分を中和し水魔法に分解してやった。
なーに、分解だけじゃつまんねぇよな? ハッハッハちょっと面白い事してやんよ。
「ほれ、ウォーターボール、だ」
分解され宙に漂う水を手の平に集め、それを球体に固定させルッカさん目掛けて投げ飛ばした。
「わっ! 馬鹿! 何すんの!」
俺が投げ飛ばしたウォーターボールがルッカさんの頭に当たり破裂し、見事なまでにずぶ濡れにさせてあげた。
「うん? お返し?」
俺はずぶ濡れになったルッカさんの胸部を見ながらニヤニヤした。
「何よっ……バカッ! 変態! 何見てんのよ!」
俺の視線から自分が着ている服が透けて下着が見えている事に気がついたルッカさんは、慌てて左手で胸元を隠し右手に魔力を集中させた。
「っておい! 俺が悪かった! こんなところでそんな魔法使うな!」
ルッカさんの右手に集まってる魔力から推察するにこれは火属性か! バリア系じゃ周りに被害が及ぶ! だったら攻撃魔法で相殺するしかねぇ!
「うるさい! 変態カイルにはこいつがお似合いなんだよ!」
怒り心頭のルッカさんが『ファイア・ボール』を俺目掛けて放った!
「丸焦げなんて御免だね」
俺はそれに対して『アイス・アロー』を放ち魔法を放つ!
お互いの魔法が空中で衝突し……。
氷が炎ぶつかるとどうなるか。
氷が溶けます。
氷が溶けるとどうなるか……。
水になります!
バシャーーーーン!
「うげ!」
『アイス・アロー』と『ファイア・ボール』がぶつかり相殺した結果発生しまたしても水が発生し、今度はそれが俺の頭目掛けて降り注ぐ!
くっそ……卒業式が終わった瞬間ずぶ濡れとかふざけんな……。
「あっはっは、ばーかばーか」
そんな俺の姿を見たルッカさんが相変わらず左手で胸部を押さえながら、右手で指を刺しながら盛大に笑いやがる。
お前もずぶぬれじゃねぇか! このやろー!
「うるせぇ」
と声を荒げたところで俺は冷静さを取り戻してしまう。
そう、ここはセザール学園を出てすぐの場所で人通りもそこそこある訳だ。
ヒートアップしていて気が付かなかったが、その一部始終を多くの通行人に目撃された訳だ。
んで、気が付けば俺とルッカさんの周囲を通行人が囲っていたのだよ。
「う……カ、カイル、いくよ! ほら、冒険者やるんでしょ!?」
「あ、ああ……」
ルッカさんが顔を真っ赤にしながら俺の右手を引っ張り囲いの外へ連れ出した。
そのまま表通りから人目の乏しい裏路地に移動し、濡れた髪と服を乾かす為に『ファイア』を使い焚き火を起こした。
「そういえば、ルッカさん? 国王軍に入るんじゃねぇの?」
今しがた気が付いたが、国王軍に入る事が決まっているルッカさんが俺に構ってる暇なんて無かったはずだ。
なんせルッカさんはウィザード学部で、大概の分野で2位な上にあろう事か近接武器ですら上位に入ってやがる。
そんな優秀な成績なら国王軍に入ってもおかしくない。
「う、うるさい!」
ルッカさんはキッと俺を睨み付けた。
うん? 俺なんか悪い事言ったか?
思い当たる節はないぞ……いや? 待てよ?
「悪い悪い、試験中に腹が痛くなったのか、それは仕方が無……」
「そんな訳無いでしょ!」
ルッカさんが物凄い剣幕で俺に詰め寄り……。
「ちょっとルッカさん痛い! ほっへらがひひちぎれふっへ!」
俺のほっぺを物凄い勢いで抓りやがった。
「うるさい! 可愛い女の子に向かってそんな事言う君が悪い!」
自分で可愛いって言うかフツー!?
と言いたいが、学園内の男子生徒から結構人気あるみたいだから別にそう思っても不自然じゃないわな。
「はぁ……はぁ、成績優秀なルッカさんなら、良い就職口が見付かったのか?」
残当に行けばそうなるよな? 確かに卒業してすぐ仕事をしてくれってのは稀だし、俺と同じ方向に進むのは不自然じゃない。
「違うわよ! 大体成績は君のが上でしょ!」
「いつつつつ……耳元で大声出さないでくれよ、俺が全教科成績トップだろうとルッカさんの成績が優秀な事には変わらねぇじゃんか」
「勝者の余裕ですかぁ? 君は一度も勝てないライバルの気持ち考えた事ないでしょ!」
ライバルってあのなぁ……俺は一度もルッカさんをライバルと思った事ねーぞ、大体毎回ルッカさんが勝手に俺をライバル扱いしてるだけだろうに。
「無いよ」
「ムッカ! どーして君みたいな無頓着で女の子の気持ちを考えられない様な男が、セザール学園所かそれも超えてモテるのよ!」
あーはいはい、またその話ですか?
どうせ、俺が国王軍に行くのが濃厚だから、つまり俺の地位目当てで勝手にチヤホヤしてるだけだろうに。
「んな事言われても知らん、あいつ等が勝手に騒いでるだけだろ」
「ホントにそう言ってる?」
神に誓って嘘なんかじゃない。
地位目当てと分かりきってる女共が何をどう思ってどうしようが興味持つ理由も意味も無いぞ。
「嘘ついてどーすんだよ」
「へーふーんそー?」
なんか知らないがルッカさんの機嫌が良くなってる気がするが、気のせいか?
「何か良い事あったのか?」
と聞いてみてなんだが思い当たる節は全く持ってない。
「べっつにー?」
「そうっすか、じゃ、俺は冒険者ギルドに行くから」
髪も服も十分乾いたからと俺は火の後始末をし立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます