第19話 スイングbye-bye(3)
『そんな事はどうでもいい』
安曇は口を噤む。
局長と二人の役員が畳み掛ける。
『重要なのは誰の手柄なのかだ』
『勲章が一つなのに全員の手柄では勲章を分けることも出来ないだろう!』
『君の手柄と言うことは我々の手柄でもあるのだよ』
局長が話しをまとめる。
『では安曇君。この調子でジーメンスを監視してくれ』
映像が切れ画面が暗くなると立ち尽くす安曇が鏡のように映る。
安曇は思った。
現場と上層部の間に温度差があるのは解っていた。だが、ここまで違うとは――――俺は結局、彼らの伝書鳩なのか…………。
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千代田区役所が有る九段第三合同庁舎の地下深く、ジーメンス本部へ縁司と本城は戻って来た。
作戦をやり終え清々しい顔の本城と反対に疲れきった縁司はクタクタだった。二人はリラクゼーションルームで些少博士がおごる珈琲を飲みながら硝子越しにオペレーションルームの様子を見ていた。
ジャマーを倒した後でも本部職員は皆、都市機能回復の為、忙しく作業していた。 鬼塚課長は東京中で起きた停電や医療機器の不具合を誤魔化す情報操作の為、安曇班長に残りの作業を任せ面倒臭そうに出て行った。
安曇は職員達の意見をよく聞き相談し作業の割り当てを決めていた。本城はその様子を感心しながら眺めていた。
珈琲を飲む少年少女の元へ些少博士が来ると、微笑みながら縁司と本城の間に入りタブレットに映る絵を見せた。
「見て、江戸時代に描かれた風刺画よ。この隅に書かれている物、何かの塔に見えない?」
縁司と本城がタブレットを覗き込むとスカイツリー完成間近に話題になった絵だ。海岸から遠くの地平線を見る江戸の人々、視線の先にそびえ立つ塔が有る。
しかし、それは金属を思わせる造りでSFに出て来る未来の塔を連想させる。
江戸の町にふさわしくないオブジェだ。
博士が謎めいた口調で言う。
「江戸時代に私達のように電波が見える人達がいたとしたら」
縁司は些少博士の言わんとする事が掴めた。
本城は半信半疑で返す。
「もしかして、この絵はジャマー?」
「かもしれない」
博士は肩を竦め続ける。
「ジャマーは古代より存在し、この世界でひっそり暮らしていた。でも人間の文明が急速に発展して異常な程、電波が飛び交うようになり彼らを狂わした。丸ノ内に現れた巨大ジャマーやイルミンスールの出現は人間の傲慢さとエゴに対し怒り、堪らず現れて報復に出た。ジャマーを生み出したのは私達人間かもしれない」
些少博士の解説は縁司にジャマーが必ずしも悪い存在ではないと解釈させる。
人間の文明発展は自然界では脅威に違い無い自然を踏み台に資源をむさぼり生活圏を拡大する人間はジャマーと変わらないのでは? そんな事を思わせていた。
些少博士は未来ある二人の少年少女に何と戦い何を倒して人々の生活を守っているのか知ってほしかったのかもしれない。
本城が不安な顔で言葉を漏らす。
「気付かないうちに私達は、どこかで何かを破壊している……ちょっと怖いですね」
G/SieMENS―ジーメンス― 電波怪異事件簿 にのい・しち @ninoi7
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