第18話 スイングbye-bye(2)

 リアクターはアイソレをお越し粒子を吹雪のようにまき散らした後、激しく炎上しその巨体から抜け落ちる。

 モニター越しにリアクターが砕け散る様子を見ているとオペレーターがデータを報告する。


「スカイツリー、機能回復。ゲイン砲、撃てます!」


 安曇はこの時を逃さなかった。


「今だ、撃て!」


 スカイツリーの上部に有るゲイン塔が真上に居る目標へ一筋の光線を発射、その光景は光りの剣が異形の怪物を貫いたように見えた。

 

 イルミンスールは断末魔のような鳴き声を上げると炎に包まれ、ゆっくりと消えて行った――――…………。


「目標消滅。東京二十三区に拡散したイルミンスールのスプリアス放射が停滞して行きます。都市機能回復」


 女性オペレーターの報告聞いて本部職員は一斉に安堵声を漏らす。

 今や巨大モニターには月を背景に紫のネオンが光る東京スカイツリーが映っていた。

 食い入るようにモニターを見ていた安曇がようやく目を離すと鬼塚課長が満足そうな笑顔を見せ青年官僚の肩に手を置き労う。


 安曇は緊張の糸が解け今まで見せる事が無かった笑みがこぼれた。安心すると安曇は慌てて通信機に近寄り声を投げる。


「現場の本城君、万丈目君、大丈夫か?」


 通信機からは返答が返って来ず彼や鬼塚課長、些少博士は不安になる。

 すると――――。


『落ちる!? 落ちるよ! 本城さああぁぁぁん!?』


『うるさい! 男でしょ? 我慢しなさい!』


 返答が返り安曇は胸を撫で下ろし課長と博士を見ると同じく安堵していた。

が「落ちる」と言う声を聞いて慌てて現場付近で待機するジーメンス職員を向かわせるよう指示する。


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


 リバーサイド墨田セントラルタワーの遊歩道では、真上から落下したりディスコーンアンテナが見るも無残な姿でひしゃげていた。

 夜中の近隣住民は祭りや地域イベントに夢中で、同建物の騒ぎに気付かない。 


「無理、無理、無理!」


 遥か真下に有る地上を見て半狂乱になりながら叫ぶ縁司に本城が怒鳴った。


「動くな! 落ちる!?」


 屋上の手すりに束で絡みつく髪の毛を追って行くと、通常では考えられない光景が眼下にあった。

 本城はムチになったエクステを片手に巻き付けぶら下り縁司を抱える。

 

 駆けつけた多数の職員が慌てて手摺に巻き付いたエクステを持ち上げ二人を引き上げる。

 引き上げられた少年少女は力なく地べたに取れ込むと街の明かりが次々消える――――。  


 その場の不安を打ち消したのは空に落雷を思わせる轟音と目の前に広がる閃光だった。

 午後八時。

 花火が打ち上がり夜空を照らす花々が咲く、次々打ち上げられる中、七色に輝く大きな花火が東京スカイツリーのてっぺんで花開く。

 縁司は倒れながら花火を横眼で見て親友二人と見物出来なかった事を残念がっていると炎色反応が見せるイリュージョンを眺めながら側に居る本城が呟いた。


「スカイツリーに大きな花を咲かせましょう……悪くないわね」


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


 ミーティングルームのモニターに局長を挟み二人の役員が揃っていた。

 中央に座る局長が安曇を褒めると他の役員たちも称賛する。


『安曇君。良くやった。期待通りの仕事で我々も鼻が高い』


『君なら出来ると信じていたよ!』グズは困ると言った役員だ。


『やはり我々の目に狂いは無かった』新卒でも出来る仕事と言った役員だ。


 局長は高級感のある椅子にもたれながら言う。


『人工衛星の軌道修正を勝手に行ったことは不問にしよう。元々、地球の引力に引き寄せられて落下軌道にあったらしい、JAXAも軌道を補正出来て衛星の寿命が延びたと逆に感謝されたよ。鬼塚課長はクビの皮一枚でつながった――――彼は運がいいのか、そこまで計算しているのか、全く腹の底が読めない男だ……』


 一通り役員が言い終わるのを確認すると安曇は話し始める。


「局長、今回の作戦は私の手腕ではありません。現場の職員による懸命な働きと関連部局による信頼。その結果、組織を一体の講ずることが出来――――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る