第17話 スイングbye-bye(1)

「今日、娘に花火大会へ連れて行く約束をしていたのに休日を返上してまで仕事ですよ」

 

 安曇はひたすら耐える。役人は探るように彼に聞いた。


「でも……あんた達にやってもらわないと東京が壊滅するんでしょ?」


「……はい」


 安曇の答えを聞くと役人は組んだ腕を解き折れる。


「解りました――――娘の代まで日本がないと困るからさ、頼むよ」


「ありがとうございます」


 顕著に感謝する安曇に対し役人は優越感に浸りながら言う。


「まぁ、中央省庁の人に借りを作って損はないからね」


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


 午後七時五〇分。

 東京スカイツリー。


 イルミンスールが何かを感じとり笹の木に似た羽を揺さぶる。

 夜空に昇って行った二本の触手は真っ直ぐ伸びきり痙攣を起こしているように見えた。

 地に張り巡らせた根っこが舞い上がる。 


「縁司! もっと引っ張って!」


「やってるよおおおぉぉぉ――――」


 リバーサイド墨田セントラルタワーの屋上。

 縁司は斜めに広がるエレメントが目に刺さらないよう顔を背けながら本城と一緒にディスコーンアンテナを槍のように掴み力いっぱい引く。

 些少博士から通信が入る。


『衛星がスイングバイを起こす角度を算出して、あなた達のポジションからビーコンで衛星を誘導するのがベストだったのよ……東京二十三区の命運はあなた達にかかっているわ』


 博士の話しを聞く余裕の無い二人はひたすら叫びアンテナを引っ張る。

 イルミンスールの巨体がスカイツリーから引きはがされそうになると再び無数の根っこを暴れさせ抵抗、根っこは周辺の住宅やマンションに触手のように巻きつき引きはがされることを拒むがデューラス搭載戦車が触手に向けゲイン砲を放ち断ち切る。


『衛星に合わせて移動いないとスイングバイが起きないわ!』


 通信機から聞こえるオペレーターの声を聞いた本城が奇策に出る。


「縁司! 飛ぶわよ!」


「はぁ!?」


 縁司は聞き間違えだと思った。

 本城はアンテナと縁司ごと強引に引っ張り屋上の端まで駆け寄ると片手を頭の後ろに回して団子型のエクステを掴む、するとエクステは解けて黒いムチのようになり手摺に勢いよく叩き付けるとムチは手摺に絡みつく。


「待って待って待って! 本城さああぁぁぁん!?」


 縁司を抱えると本城は手摺を越えてアンテナと縁司ごと高層ビルの屋上から飛び降りた――――。


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


 オペレーションルーム。


「衛星! 地球軌道から外れます」


 モニターに映るCGアニメは湾曲した地球表面に沿って走る一本の線から小さな衛星が外側へズレて行く様を見せた。

 その隣の映像に移るスカイツリーの状況に変化が有った。


 イルミンスールの巨体が浮きスカイツリーから離れた――――――――イルミンスールが上空に飛ばされると地中に潜んでいた根っこが全て引きはがされ宙を舞う。

 月に照らされ輝きを増す半透明の電磁生物は巨体を傾ける姿は海面を飛び上がり夜光に当てられたクジラの様だ。


 空かさず五つの高層ビルから十本の光る糸がリアクター目掛けて伸び同時に住宅地からはゲイン砲による無数の光線が飛び交う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る