第16話 タングルド作戦(3)
『諦めないで!』
唐突に通信機から本城の声が本部に響き皆驚く。
『まだ終わってない! あのジャマーを見て――――アイツあれだけ攻撃されて引きはがされそうになっても諦めずにまだ張り付いてる。私達が諦めたら街で生きる人達を不幸に落とすわ……この戦いは先に諦めた方が負けなのよ! 負けられない、諦めるわけにはいかない!』
そう言うと本城は一方的に通信を切った。鬼塚課長は子の成長を喜ぶ親のように言う。
「若いですなぁ…………しかし、彼女が好き勝手暴れた後、誰が迷惑するかも考えて欲しいですなぁ」
課長は気を取り直し、職員へ作業に当たるよう指示した後、青年官僚の肩に手を置き言う。
「あなたも若い。我慢せず、お好きなようになさい! 責任だったら私も取ります」
安曇は心強い後押しに弱気になった自分を奮い立たせ凛々しい顔を作る。
それを見た鬼塚課長は満足そうな笑み浮かべ些少博士に聞く。
「ところで博士。失敗した時の為に何か代案があるのでは?」
博士は手の内が読まれたことに少し嬉しそうな顔をして答える。
「えぇ、ただ、この案は課長をクビにする可能性がありますよ?」
鬼塚は何とも複雑な表情で唸る。
些少は続けた。
「今、目標の触手は衛星に纏わり付き引き抜けない状態です。そのまま地上からビーコンを発して地球軌道の外へ飛ばす。そのはずみでジャマーはスカイツリーから引きはがされます」
些少博士が手持ちのタブレットを操作するとモニターに現在の状況を現すCGモデルが現れた。
湾曲した地球表面に沿って走る一本の線から小さな衛星が外側へズレて行く様を見せた。
鬼塚課長が作戦の意図を読み解く。
「なるほど! “スイングバイ”か!?」
普段はくたびれた顔の中年職員が生き生き語った。
「安曇班長。今、戦っているのはあなただけではない。あなたを含めたここに居る本部職員や現場で奮闘する職員――――我々、ジーメンスが一体となって戦っているのです」
鬼塚課長の言葉に心を打たれ安曇は職員達の顔を見回す。
それぞれの瞳は輝きを失わず意志の強さと精力がみなぎっていた。
彼らはまだ諦めてい――――安曇はこの場で自分だけ先に諦めたことに恥ずかしくなった。
「皆、最後の瞬間まで戦う気ですね――――班長の僕が先に諦めるのは失礼だったな」
安曇は目に生気を宿し力強く言う。
「現場のあなた達を信じます」
その言葉を聞いた鬼塚課長は一安心し今後の計画に必要な段取りを提示する。
「JAXA(宇宙航空研究開発機構)には私の方から話しを通しておきます。まぁ、私の頭はね下げる為にあるので、これくらいは……後は国交省に信号機の復旧が予定より伸びる事を伝えないと――――」
「それは僕の方で話しを着けさせて下さい」
率先する安曇に課長は顔を曇らせた。
「は、はぁ……わざわざ出向かなくても電話一本で済む話しですが」
安曇は照れ臭そうに返す。
「恥ずかしながら、今はそれくらいしか出来ません」
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「官僚の人が頭下げたぐらいでね、こっちも解りましたとは簡単に言えないんですよ」
国交省の役人は椅子にもたれ腕を組みふてぶてしく返す。
ジーメンス本部の頭上。
九段第三合同庁舎、十五階。
国交省の所管、関東地方整備局、東京国道事務所。
休日でフロア内は役人と安曇以外誰も居らず照明も必要最低限に使用されている。
安曇は下げた頭を上げようとしない。
むしろ相手が了承するまで下げ続けるつもりだった。
国交省の役人はここぞとばかりに不満を垂れ流す。
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