第15話 タングルド作戦(2)

「……―の!」


 現地の本城が思わず声を発すると縁司は目をつむり力の限りエレメントを引っ張る。ジーメンスの現地職員の足並みが揃うと再び花形ジャマーの巨体が塔の半分まで浮き上がり住宅地から戦車班が放つ無数の光線が標的目掛けて放たれる。

 イルミンスールは悲鳴に似た鳴き声を発し葉のような大きな羽を揺らすと住宅地から無数の根が這い上り触手のように暴れ狂う。本城が確信する。


「後……少しぃ~」


 縁司は目を少し開け目標の様子を見る。天からスカイツリーへ照射された光りの柱に螺旋の輝きが絡み付く。

 螺旋は光りの柱を伝い夜空へ昇って行く。


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「アイソレーションファイバーを伝い目標の触手が衛星に向かって行きます!」


 オペレーターの報告で些少博士が焦る。「いけない……」


 モニターにはすさまじい速度で光りの柱を螺旋状に這う二本の輝く触手が映る。

 触手が大気圏を越え電離層を突破すると、この後起きる惨事を皆、予想出来た。鬼塚課長が強張った声で叫ぶ。


「衛星がやられる!」


 オペレーションルームの職員達はなす術も無く映像を見つめていると二本の輝く触手は針のように先を尖らせファイバーを放つ衛星を貫いた――――それと同時に光りの柱は消え集束していた六本の光る糸も途切れた。


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 リバーサイド墨田セントラルタワー――――しなっていたエレメントが直立すると突然、重みが無くなり先端が縁司の額に勢いよく当たり彼は後方に転げた。

息を切らせた本城は悔しそうに呟く。


「失敗だ……」

 

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 オペレ―ションルームではしばし職員達の落胆する声が聞こえた。

 そこへ追い打ちをかけるように連絡が入る。

 オペレーターが緊張した声で報告する。


「総務省本庁舎から入電、委員会からです……」


 安曇は背筋を自然と伸ばし身構えてからオペレーターに相槌で繋ぐよう指示する。


『安曇! 何をやっている!?』

 

 局長は薄ぐらい部屋でも解るくらい物凄い見幕で怒鳴り付ける。


「……申し訳ありません」


『君がジーメンスへの移動を望んだから希望を叶えたのになんというザマだ!』


 職員達は安曇の移動が推測していた展開と違っており思わず彼に目を向ける。


『全く――――今回の作戦が最悪の結果になった場合、君のキャリアもここまでだ! いいね!?』


 安曇が静かに返事をした後、局長との通信が切れ彼は残念そうに言う。


「僕はここまでの様ですね……」


「安曇班長。まだ作戦は続行可能です……諦めるには早い」


 鬼塚課長の励ましに安曇は顔をうつむかせながら答える。


「やはり専門外の僕が来るべき場所では無かったようです」


 弱音を吐くと、これが最後だと悟り内に秘めた思いを語った。


「丸ノ内の事件で自分の見えない所で自らの安全と引き換えに街の安全を守る人達がいると知った。そんなことも知らずに出世の事ばかり考えている自分が恥ずかしくなった。あの時、全員が事態の対応に当たる中、何も出来ない自分がその場で一体になれず、とても無力だと感じた。だから、もっと現場を知りたい、自分も皆の一員として働きたいと思ったんだ……でも結局、僕は無力だ。上層部の言う事しか聞けない伝書鳩――――」


 安曇はモニターに映る強大な敵を見つめ戦意を失い茫然と立ち尽くす。

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