第13話 Save Our Sоuls ―我らを救え―(5)
「どうした!?」
入口の職員を押し退け荒々しく男が入って来た。
「国土交通省です! ジーメンスさんはまだ時間かかてるんですか? 内部部局から信号機の復旧はまだかと問い合わせの電話が鳴りっぱなしですよ!」
突然の訪問に皆、驚き入口に注目する。
国交省の役人が詰め寄って来たので鬼塚課長は両手で制止した。
「待って下さい! 今、緊急事態なので室内に入られるのは困ります」
「あんた達がマゴ付いてるから私みたいな裏の調整役が迷惑するんですよ! 内部部局にさもそれらしい理屈付けて納得させるのがどれだけ大変か? この前の丸ノ内にしたって――――」
安曇がなだめる。
「現在、都市機能の回復は午後七時以降を目途に事態の収集に当たっています」
その返答に国交省の役人は納得するが、腹に据え兼ねた物が有るのか安曇を睨み言う。
「安曇さん。あなた、この前の巨大ジャマーの件で局からお叱りを受けたそうですね? 現場を信頼して個々の一存で事態に対応できる体制を作るべきだと意見しプライドが高い上層部の機嫌を損ねて左遷されたって聞きましたよ」
今度は安曇が皆の注目を浴びる。役人は嫌味ったらしく言った。
「裏の調整役なんてするものじゃない。あなたは組織の均衡を保つことが仕事だったのに現場に肩入れして結果、失敗した。私はあなたみたいになるのはゴメンですから」
国交省の役人は吐き捨てるように言うと荒々しく出て行った。
安曇が沈黙していると鬼塚課長が手を叩き職員に作業を続けるよう促した後、彼に気を使う。
「安曇班長、長時間の業務で休憩を取っていないのでは? 珈琲でも飲んで一息入れましょう。まだ先は長いですから」
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安曇は集金箱に百円を投入し珈琲をカップに注ぎ湯気の立つブラックを口に運んだ。
ブラック珈琲の苦みが口に広がり緊張の糸を切った。
リラクゼーションルームでは安曇ただ一人。
彼は湯気が立つカップの中を見つめ物思いに耽る。
入試で遊ばず死ぬほど勉強して名門大学に合格し卒業後、入庁してからは寝る事の許されず働いた。
非効率な業務、生産性の無い計画、無駄だと解っていても上司から指示されたら黙って呑み込み仕事に取り組んだ。
高級官僚に取り入ったのに何故、こんなにも逆風が吹く? こんな事で躓くとは――――――――。
安曇は思わずカップを握り潰す。高温の珈琲が彼の拳を流れた。
しかし彼の心中は火傷が気にならい程、怒りと悔しさで煮えたぎっていた。
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『こちらチーム・ゼータ! 本城と万丈目、準備完了!』
本城からの通信。
午後七時三十分。
本部には配置に付いたエージェント達の報告が次々入る。
モニターは時間を掛けて復旧し画面半分に、なおも花びらを回転させ粒子を撒くイルミンスール。
もう半分には墨田区の状況を再現したCGモデルが回転していた。
中心のスカイツリーに取り憑くイルミンスール。
周辺を囲む六つの高層ビル、その屋上にアルファやベータのギリシャ文字が表示されアイソレ担当チームが配置に付いた事を現していた。
住宅地が有る道路には幾つもの小さい箱がスカイツリーを囲むように配置してありМと標記されデューラス搭載戦車だと解る。
戦車のCGからはレーザーのような線がイルミンスールに向けて伸びておりゲイン砲の軌道調整が済んだ事が解る。
オペレーターから報告を受け安曇は壁のデジタル時計に目をやる。
彼は声を張り指示を出した。
「タングルド作戦――――開始!」
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