第12話 Save Our Sоuls ―我らを救え―(4)
行き交う人々は割り箸のように細い少年に容赦なくぶつかって行き縁司は吹き飛びそうになった。
右へ左へと観光客が流れて行き真っ直ぐ進む事すら出来ない。
おまけに持ち歩く機材が通行人に引っ掛かり強制的にUターンさせられ方角すら解らなくなる。
気付けば道しるべだった本城の団子頭を見失い彼女とはぐれ迷子になった。
「本城さああぁぁぁん!」
縁司は声を張り上げ何度も本城の名を叫ぶが混雑の波に少年の声はさらわれた。
土地勘の無い場所でただ一人残された少年に不安が押し寄せる。
どうしよう!? 僕、迷子?
縁司は広い世界に取り残されたかのように感じた。
このまま自分の存在が人の波に押し流され消え去ってしまうのではないかとすら思える。
本城さん……どこに居るの? お願い、誰か……見つけて――――誰か僕を見つけてよ!
「万丈目!?」
呼び止める声に反応して振り向くとクラスメイトの町野、室町がいた。
縁司は自分が良く知る顔を見ると不安が一気に消え心の底から安堵した。
そんな彼に構う事なく二人の親友は質問攻めにする。
「何やってんだよ!?」
「お前、宿題が終わらないから花火大会に行けないって言ってただろ?」
二人の言う事はもっともだが事情が事情なだけに答え辛い。
「いや、あの、その……」
答えに困っている少年の元へ颯爽と現れたのは「縁司!」純白のコートをなびかせた本城・愛だった。
二人の親友は彼女を見てどよめく。
女神の様に顔が整い澄んでいる瞳は見つめていると吸い込まれそうな錯覚を起こす。
白いブラウスの襟もとにネクタイを模したペンダントを身に着け、はためく赤いフレアスカートは少年達の視線を引き付け、その着こなし、たたずまいに大人の魅力を感じさせる。
安心したのも束の間、町野が縁司の首に腕を巻き付け通りの隅に引き摺ると二人の親友は小声だが興奮しながら地味な眼鏡少年を尋問する。
「万丈目! 誰だ、あの綺麗なお姉さんは?」
「お前、名前で呼ばれてたぞ!?」
町野、室町の質問に戸惑う。
総務省の極秘組織、特別電波監視課ジーメンスのエース。
その女性電波監視官と今、スカイツリーに寄生し東京の街を破滅に導く電波怪獣を退治する為、親友と行く予定だった花火大会を断って勤しんでいた宿題すらも差し置いて二人で奮闘している――――等、言えるはずが無かった。
「そうなんだけど……」
「しかも何で頭に、うんこ乗ってんだよ!?」
「あれは違うよ!」
町野の質問に縁司は唯一、彼女のエクステのみ否定出来た。
縁司は本城に頭を叩かれる。
「馬鹿やってないで行くよ!」
「ま、待って本城さん!」
本城が縁司の手を掴み連れ去ると二人の少年は絶叫する。
人の波に消えて行く男女を眺め二人の男子は思い思いの感想を述べる。
「室町――――俺、恋したかも…………」
「奇遇だなぁ、俺も恋したかも…………」
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午後六時三十分。
オペレーションルームの空気はより一層重くなり職員達の不満は膨らむ一方だった。
職員達は安曇に聞こえないように小声で話す。
「これだから、現場を知らない人間が来るのは嫌なんだよ……こっちの気も知らないで好き勝手言って現場を荒らすんだから」
「大体、上層部の伝書鳩が何でウチに来たんだよ?」
「丸ノ内の件で初動対応が遅いからペナルティで左遷されたって噂だけど?」
入口から職員が慌ただしく入り鬼塚課長を呼ぶ。
「課長! 大変です!」
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