第11話 Save Our Sоuls ―我らを救え―(3)

「どうした!?」


「目標のスプリアスが増大! 東京中の監視システムがダウン……デューラスH(短波監視施設)。デューラスD(遠隔方位測定設備)。デューラスS(宇宙監視施設)。各デューラスからの信号遮断!」


 鬼塚課長が悔しそうに言う。


「やられた――――ジーメンスは目を奪われたも同じだ」


 焦る安曇は声を荒げ室内の職員全員に聞こえるように指示する。


「オペレーターと技術班はモニターを早急に回復させるんだ! 他の職員は作戦予定地域の情報を収集して現場の人間に伝達して誘導しろ!」


 戦場のように目まぐるしい室内に流され、段々と過ぎる時間の感覚が解らなくなる。


「班長!」女性オペレーターの呼びかけに振り向くと彼女は厳しい表情で報告する。


「作戦予定時刻を過ぎます……」


 報告を受け、壁に設置されたデジタル時計に目をやると一六:〇〇と表示される。

 それを見た安曇は計画通り進まない現状に時間すらも憎らしく思え怒鳴った。


「君達の初動が遅いから、こんな結果になったんだ! これだから現場は信用出来ない!」


 安曇の激高を見て職員達に不穏な空気が流れる。 

 鬼塚課長は冷静に青年官僚を諭した。


「安曇班長。まだ作戦は続行可能です……花火大会が始まる午後八時が最終防衛ラインです」


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


「安曇のヤツ……一人で戦っているつもりかしら?」


 万丈目・縁司は本部の通信を聞き、ここぞとばかりに愚痴る本城を見て苛立ちが飛び火しそうで不安だった。


 彼女はスマートホンのナビアプリを使い最短ルートで移動する。


 午後六時。

 江戸川通りを北上して駒形橋西詰に差し掛かると二股の大通りに来た。

 神輿でルートを塞がれ変更せざる得なくなりタイムロスを余儀なくする。

 目的地まで三キロ。

 情緒ある下町の風景を楽しむ観光客を他所に特命を受けた二人の少年少女は早歩きで目的地に向かっていた。

 ひ弱な少年は重い機材を持ち長距離を歩いている為、疲弊していたが目の前を行く女性エージェントは縁司の倍程の機材を持ち歩いているのに足が軽い。

 縁司ははぐれないように付いて行くのがやっとだった。


 しかも、イルミンスールが放った金色の粒子が頭に付くと髪は逆立ち、皮膚に当たると焼けるような感触がして不快な気分になる。


 だが怪電波が広がったことで逆に眼鏡を外してもよく見える。

 通り過ぎる外国人観光客がイルミネーションの始まった東京スカイツリーを撮影する様子は縁司からすれば不思議だった。

 一般人からすればそびえ立つ電波塔だが電磁波が見える縁司と本城からすれば羽を広げた巨大な樹、その頂上には鮮やか花びらが咲き神話の世界と近代文明が不気味なまでに融合している。


 通りでは昭和の名曲、ピンクレディーの『S・O・S』がスプリアスの影響で間延びした歌声を響かせていた。


「縁司、急いで! もう予定時刻を過ぎてるよ!」

 本城にせかされ縁司は歩みを速めた。

 段々と通行人の数が増えて行き歩道を歩き辛くなると目の前に横に広がる瓦屋根が見えて来た。

 

 屋根を支える赤い柱。柱と柱の間は緑色の蛇腹がはめ込まれ、その上には網で閉じられた巨人が収められており巨人像は対になっており、それぞれ風と雷を司る。

 屋根を潜る人々を鬼の様な形相で見定めていた。

 江戸時代からある門の中心には真紅に染まる巨大な提灯がぶら下がり『雷門』と書かれていた。


「本城さん……ここ通るの?」


「ナビの案内だと、ここを抜けるのが最短ルートよ」


 風雷神門こと雷門は浅草のシンボルともいえる山門の為、休日ともなれば観光客が押し寄せ門自体を塞いでいた。

 本城が大海のような人ゴミに飛び込む為、気合いを入れる。


「ガン・ホー! (突撃!)」

 飛び込む本城に縁司は慌てて続く。

 半ば強引に突き進む本城と違い縁司は人の波にさらわれそうになった。

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