第10話 Save Our Sоuls ―我らを救え―(2)
「過去に起きた大規模地震の兆候として上空の電離層に滞在する陽電子が異常に増えた例があります」
「地底の地震と上空の電離層で何の繋がりがあるのですか?」
「専門家は地中に沈殿する陽電子が何等かの刺激を受けて上空に舞い上がり電離層の電子が増えたと見解しています」
安曇は力無く首を横に振り、理解出来ない素振りを見せる。
「だが、それは地中から登る電子の話しだ。ジャマーとの関連性が解らない」
「イルミンスールはかなり昔から地底に生息していました。東京の地下に広範囲の“根“が張り巡らせていたと考えられます」
「電磁波の根……では活断層に影響が?」
博士は頷いて答えると更に続けた。
「悔しいですけど、私の見立ては間違っていたようです。イルミンスールは地表から登る電子に押し出され出現し、たまたまあったスカイツリーに寄生した思われます」
「また地震か…………」
オペレーションルームに通信が入る。
『こちらチーム・イプシロン。江戸川通り、祭りの神輿が通りを通過する為、封鎖中です』
モニターの隅に画面いっぱいに人だかりが映り、その奥で神輿が担がれている様が映し出された。
次に上空から撮影された映像には江戸川通り一帯を寿司詰め状態で塞ぐ人だかりが神輿に合わせて移動している様子だった。
現場職員の通信機から笛の音に合わせ『わっしょい、わっしょい』と威勢の良い江戸っ子達の掛け声を拾う。
安曇はその光景を見て愕然とする。
「この非常事態に神輿を担いでいる場合か?」
鬼課長は冷めた表情で映像の祭りを眺めながら言う。
「ジャマーが見えないので仕方ないでしょう。危機が見えないと言うのはある意味、幸福な事です。むしろ見えていたら都市はパニックを起こした一般人で壊滅します」
再び無線が入った。
『こちら戦車班、言問橋動きません』
『同じく吾妻橋、動きません。定刻を過ぎます』
焦る安曇は思わず苛立ちを口に出し怒鳴る。
「何やってる! 時間が無い、グズは困るんだ!」
室内の苛立ちは本部職員達の間に伝染病のように蔓延していき報告の語気が皆、強くなり、常に怒号が響くようになった。
女性オペレーターが室内に響くように声を発する。
「目標に動き有り! スプリアスが増大して行きます!」
安曇を含めこの場に居る全員がモニターに目を向ける。
イルミンスールは赤い花をゆっくり回転させると花びらから金色に光る粒子をまき散らした。粒子は薄暗い空に漂い墨田区を輝かせる。
本部職員は皆、雪原に起きるダイヤモンドダストを見ているようで目を奪われ戦場のような室内は動きを止め不気味な静寂が流れた。
オペレーターが切迫した声で報告する。
「東京二十三区内の基地局が乗っ取られました!」
モニターに映る東京二十三区のCGモデルが墨田区から始まり次々と赤く色が変わる。
「イルミンスールが放つ電磁波の影響で都市機能が低下して行きます! 計算では午後八時以降から東京各所で停電が起こり全ての交通、医療施設が機能を停止します」
安曇は憤りを感じながら言う。
「電波ジャック、地震、停電……これじゃ、東京都民を人質に取られたのと同じじゃないか」
突然、目の前のモニターが青く切り替わり『Nо signal』と表示された。
今まで見ていた映像が突然途絶えたことで事態が呑み込めない安曇がオペレーターに聞く。
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