第9話 Save Our Sоuls ―我らを救え―(1)
『言い訳は聞きたくない! そんなことは報告で聞いている』
安曇は黙る。
『現場を信じるな。あくまでも現場をコントロールするのは君や我々のような上層部だ』
別の役員が指でデスクを叩きながら言った。
『安曇君! グズは困るんだよ。グズは!』
さらに他の役員が嘲笑うように言う。
『電波怪獣退治など新卒の官僚でも出来る。まぁ、オリンピックまでには解決してくれよ』
真ん中に座る局長が駄目押しの一言を言う。
『ジーメンスでの失敗は今後のキャリアに響く。解っているね?』
「……はい」彼が返事をすると委員会は唐突に通信を切った。
暗い画面に反射する自分の姿を見て安曇は己を律する。
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午後四時、台東区、精華公園。
渋滞で進まなくなった戦車班と別れ縁司と本城は徒歩で移動していた。
縁司は機材の入ったショルダー鞄を持ち本城はディスコーンアンテナが入っている長いバッグ持って住宅地を進む。
住宅に囲まれた公園では鬼ごっこで遊ぶ元気な下町のチビッ子達が広場で砂埃を巻きながら駆けずり回っていた。
目的地まで三、八キロ。縁司は長い道のりを無駄話しで気を紛らわす。
「本城さん、エクステ変えたの?」
車両から降りる際に本城はこれまでの平たいポニーテールでは無く団子型のエクステを頭に付けていた。
年頃の女子高生は嬉しそうに自慢する。
「可愛いでしょ? 八重子さんが新しいのを作ってくれたのよ! しかも髪の繊維一本一本が形状記憶合金で出来ている秘密道具よ」
本城は元々、容姿に恵まれている為、大抵のヘアースタイルやファッションは物にする。
しかし、よく見れば大きな団子型のエクステはトグロを巻いたような形で縁司にあるモノを連想させる。
――――――――なんだか――――うん――――――――。
「うんこだああぁぁぁ!?」
都会に住む下町のチビッ子達は本城のエクステを指して興奮する。
「ホントだ! あのお姉ちゃん、頭にうんこ乗ってる!」
「うわぁ、頭にうんこ乗っけて臭くないのかな?」
本城から笑顔が消えた。
「うんこ! うんこ! うんこ! うんこ! うんこ! うんこ――――――――」
チビッ子達の大合唱が始まると本城はただ沈黙する。
バツが悪くなった縁司は本城の顔を恐る恐る覗く、彼女の顔は今まで見たこと無い程、氷付いた表情を見せた。
本城は縁司に静かに言った。
「―――――――行くわよ……」
うんこの大合唱に送り出され、その場を去る本城に縁司は黙って付いて行った。
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午後五時。
別の計器でデータを集めていた職員が慌ただしく安曇達に駈け寄り報告した。
「大変です! 上空の電離層で陽電子が異常なまでに増えています」
「すまないが、解りやすく説明してくれ」
困惑する安曇の疑問に些少博士が冷静に解説する。
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