第8話 電波注意報(4)

 神田橋料金所に差し掛かり縁司と本城が車両の窓から確認すると赤いコーンと黒、黄色のストライプのバーが置かれ電光掲示版には大きく『事故』と表示されていた。


 縁司の頭に顎を乗せながら本城は言う。

「嘘でしょ!?」


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


 午後三時、オペレーションルーム。


『こちらチーム・アルファ。明治通り渋滞の為、車両動きません。到着予定時刻を大幅に過ぎます』


『チーム・ベータ。同じく渋滞の為、動きません。戦車班と別れ半蔵門線にて目的地へ向かいます』


 オペレーションルームに次々入る無線連絡を聞きデューラス前で作業するオペレーター達は慌ただしくキーボードを弾く。

 安曇は刻々と変化する状況に戸惑う。


「休日なのに何故、ここまで道が混むんだ?」


 鬼塚課長が述べた情報で納得がいった。


「今日は午後八時から墨田区花火大会があるので作戦予定時刻の一時間前には混雑を極めるでしょう」


『チーム・デルタ。中央線錦糸町方面、人身事故の為、沿線見直し、到着予定時刻を過ぎます』


 巨大モニターの隅に墨田区の交通、路線状況が映し出された。

 ルートの各所が赤色で示され高速道路の入口には×印が表示される。

 左には渋滞と遅延の原因が次々挙げられ、それを見た安曇は違和感を覚えた。


「何だ? 目標近くで事故が増えている……」


 違和感に対し些少博士が最もらしい意見を持っていた。


「根拠は有りませんが、イルミンスールが発している電磁波が人体や精神に何等かの影響を及ぼしているかもしれません。ジャマーが発する周波に人間の脳波が共振して目眩や動悸を起こしたり方向感覚が狂う等の異常を起こしているのかも」


「すでに一般人に影響が出ているのか……厄介だな、それなら遠回りになるが首都高速一号から迂回して北上すれば回避出来る」


 安曇の案はオペレーターの一言で崩れる。


「首都高速一号上野線、渋滞により二時間の遅れが生じています」


 鬼塚課長が考察を述べた。


「六号線、七号線の封鎖で首都高の利用者が集中しているのでしょう。こうなると一般道も混み合い通れない」


 安曇がモニターの地図を見ると墨田川を並行する明治通り、国際通り、江戸川通り。

 墨田区方面へ向かう蔵前通り、春日通り。

 川を渡る各橋が赤く塗られ交通渋滞を表示した。


 再び無線が入る。


『チーム・ベータ。中央線の運転見合わせの影響で半蔵門線に遅延が起きています。身動き取れません』


 安曇は苦虫を噛む思いだった。


「まるで僕達の行く手を阻んでいるようだ」


 通信機から本城の声がオペレーションルームに響く。


『こちらチーム・ゼータ! 戦車班と別れて別ルートで目的地に向かいます』


 しかし現場への障害は留まるところを知らない、オペレーターが報告する。


「総務省本庁舎から入電――――。 “委員会”が安曇班長を指名しています」

 

 それを聞いた鬼塚課長が安曇に心配の目を向ける。

 安曇は目が合うと顔を伏せ濁した。


 ミーティングルームの窓をブラインドで閉め外から見えないようにしている。

 壁に設置された液晶モニターが点くと三人の役員が長いデスクに並びふてぶてしく座っていた。

 モニターに映る部屋は逆光で役員の顔が見づらくなっている。

 真ん中に座る局長が苛立った口調で安曇に聞く。


『安曇君。作戦が三〇分も遅れているそうじゃないか? この前、初動が遅いと注意したばかりのはずだ』


「はい、ですが局長。休日が災いして一般人の混雑が計画の妨げに……」


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