第7話 電波注意報(3)

 課長の案に博士とオペレーターが返す。


「緊張感に欠ける名前ですね」

「女の子をイメージします」


 二人の意見を聞くと鬼塚課長は頭を下げ唸る。

 命名会議は難航した。


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 鬼塚課長がミーティングルームから出て来ると手を大きく叩き忙しく作業に当たる職員達の注目を集めた。


「皆、聞いてくれ。目標のコードネームは“イルミンスール”と呼称する」


 それを聞いた縁司が本城に聞いた。


「どういう意味?」


 本城が首を傾げると命名会議に参加した職員と共に出て来た些少博士が答える。


「北欧神話に出て来る世界樹、ユグドラシルと同じ木よ。キリスト教によって異端者が崇める木として崇拝す者は邪教扱いされたの」


 豆知識に感心する少年の横で本城が一言添える。


「文明人からすれば邪神よね」


 彼女の皮肉に博士は寛大に返す。


「皮肉にも、あのジャマーを形作らせたのは文明人ね。ガーデニングイベントの来場者から脳波を読み取ってモデルを構築したんだわ」


 本城は呆れながらぼやいた。


「スカイツリーに大きな花を咲かせましょうとか言うから本当に咲いたじゃない」


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 作戦会議が終わると縁司、本城は複数のジーメンス職員と共に駐車場へ着くと職員はそれぞれ割り当てられたデューラス搭載戦車に乗り込んだ。


 縁司は戦車の前に立つと、それまでの期待感は一気に盛り下がる。


「これが……戦車?」


 少年の目の前にはキズ一つ無い表面が光沢を放つ銀色のワゴン車が有りワゴンの上には金属のムカデが身体を伸ばしたようなアンテナが幾つも備えていた。

本城は職員の機材を運ぶ作業を手伝い終わるとワゴンに手をかざして説明する。


「そうよ! 総務省が誇る“不法無線局探索車”、通称デューラスМ! 今回はこのデューラスМにゲイン砲を設置してジーメンスの超攻撃型ユニットとして生まれ変わった対ジャマー戦車よ!」


 少年は戦車と聞いて軍隊が乗る砲台が回転する戦車やSFに出て来るパラボラ型の砲門を持つ超兵器戦車をイメージしていた。

 一応、ワゴンの上にはパラボラアンテナが付いているので超兵器には違いはないが……想像を遥かに超える地味な車両に少年は脱力するしかなかった。


 本城は両手で腰を掴み息を深く吸うと景気付ける。


「さぁ、ジーメンス、スクランブル! (緊急出動!)」


 彼女が指を鳴らすとワゴンの後部ドアがスライドして開いた。

 特別珍しいことでは無く運転席の職員が後部ドアのスイッチを押しただけだった。

本城が意気揚々と乗り込むのに対し縁司は渋々ワゴンに乗り込む、車内は両脇に大きなコンピュータが置いている為、とても狭い。

 そしてデューラスМは地下駐車場から地上に出て清水門前の通りで左右を確認、安全運転で出発した。


 本城がスマートホンで作戦の詳細を確認する。


「え~と、私達はチーム・ゼータだから北側のリバーサイド墨田セントラルタワー……ちょっと、前線から随分離れているじゃない!?」


 本城が不満を漏らしていると本部から通信が入った。


『移動中の職員へ首都高速六号向島線、七号小松川線。事故発生の為、神田料金所、呉服橋料金所は封鎖されています』

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