第4話 タワーリング・インフェルノ(3)
「私は電波を音で聞く障害を持っていて、このヘッドホンは耳に入る電波を除去してくれるのよ。コレが無いと逆に何も聞こえないわ」
何だか不思議な話しだ。些少博士は本城・愛に向き直り笑顔を見せた。
「愛ちゃん。どう? 私が作ったエクステは?」
「いい感じですよ! 使いこなしてます」
本城が嬉しそうに言うと彼女は満足する。
博士は再び縁司に喋りかける。
「噂の少年がどんな子か会ってみたかったわ。君、ウチの部局内では有名人よ」
有名人と言う扱いに少年は照れ臭そうに頭をかいた。
「東京を破壊しかけた張本人らしいわね。電波テロ少年なんて言われてるわ」
「え!?」縁司はタレントやスポーツ選手のような扱いだと勝手に思っていたが真逆の扱いに驚愕する。
室内に警報が鳴りオペレーターが深刻な声で報告する。
「墨田区総合病院、医療設備が一部故障した模様。区全域の医療施設に不具合発生中」
些少博士が声を強張らせて言う。
「ジャマーの電波ジャックが早い、病院の生命維持装置が破壊されれば人命に関わる」
いても立っても居られない本城が駈け出そうとする。
「少しでもジャマーの電磁波を弱めないと。私、現場に急行します!」
その時――――――――。
「電波監視官は現状、対策が解るまで待機。各デューラスの担当オペレーターは他の業務を止めジャマーの観測を優先、何か動きが有れば報告して下さい。分析班は収集したデータを統合し上席監視官に報告。主任クラスはその情報を元に作戦を立案し各ラインに伝達して下さい。全体の作戦会議を行った後、電波監視官を現地に派遣します」
室内に入るなり全体に指示を出す人物に皆、作業の手を止め思わず振り向き注目する。
シワ一つ無いスーツを着こなす長身の男性。
この前、会った時と違いネクタイを外しスーツの前を開け少しだけ楽な服装になっているが背筋は常に伸び堂々としている。
「げ!」本城がその人物を見ると明らかに嫌悪した。
そこに居たのは若手官僚の安曇・佳人主査だった。
「遅くなりました。局長との話しが長引いたので」
安曇主査の詫びに鬼塚課長は恐縮し彼に気を使うと、この場に居る全員に聞こえるように語りかける。
「諸君、局長から人事について話しが有りました。今までは私が課長兼、作戦の指揮を執る班長を務めていましたが今日から配属になる安曇主査が今後の作戦を一任する班長を務めます――――では、班長から何か一言」
安曇は片手で軽く制止しながら言う。
「いえ、挨拶は必要ありません。非常事態なので」
冴えない中年職員は若手エリートの冷淡な言葉に戸惑う。
話しの着地点を見失った彼は、立ち尽くす職員達の顔を見回し手を叩いて作業に戻るようあおった。
モニターにフィルターが掛かり電波が可視化された映像を見つめる安曇班長を本城が注意深く睨み観察するので縁司も同じように真似る。
「……何しに来たのよ?」
本城の視線に気付いたのか安曇はこっちに目を向ける。
本城は慌てて視線を外し、その場を離れたので縁司も付いて行った。
午後二時。
ジーメンスオペレーションルーム、作戦会議。
縁司は本城の側をはなれ モニターは電波が見えない安曇班長の為に視覚化するフィルターがかけられ誰にでもジャマーの様子が見えるようになっている。
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