第3話 タワーリング・インフェルノ(2)

 午後一時、千代田区役所には図書館が設けられ万丈目・縁司は中学校の宿題を高校生の本城・愛に見てもらっていたが、本城の緊急呼び出しを受け中断。

 区役所の地下に極秘に設置されたジーメンス本部へやって来た。

 

 オペレーションルームに入ると正面の巨大モニターに彼岸花のような赤い花が咲いており、その下に東京スカイツリーが有った。

 柱は無数の蔓のような物が絡み展望台の辺りから笹の木を思わせる六つの羽が三対三で広がっている。

 室内の職員は慌ただしく動き既に戦場のような状態になっていた。


「墨田区一帯にスプリアス発生! 周辺基地局の電波強度が低下」

「東京スカイツリー制御不能。地上デジタル放送が阻害され、ゲイン塔、及び都市備え付けのウルティマヘテロダイン増幅ゲイン砲は撃てません」

「国交省から苦情が来ています!」


 縁司は状況を見てうろたえていた。休日の為、緑のパーカーに紺色のジーパンとラフな格好だ。


「ほほほ、本城さんん、どどど、どうしようううう?」


「落ち着いて、今は何も出来ないわ」


 東京丸ノ内に現れた巨大ジャマーを地球上から追い出した後、縁司はジーメンスの保護下に置かれ自身の電波体質のコントロール方を訓練している。

 それでいて、その優れた能力をジャマー退治に役立てる為、ジーメンスの特別要員としてメンバーに加わった。

 一応、名目は臨時電波監視官補佐と長ったらしい。


 出入り口の自動ドアが開くジーメンスの課長こと鬼塚上席電波監視官は慌ただしく室内へ入って来た。


「おぉ! マンモスフラワーか?」


 本城が剥れた表情で呼び止める。


「鬼塚課長! どこ行っていたんですか?」


「そう突っ掛からんでくれ、私も忙しんだよ……ちょっと人事のことで局長に呼ばれていたんだ」


「え? 課長、遂にリストラです?」


「君、上司にそういうこと言っちゃイカンよ!」


 鬼塚課長はハンカチで額の汗を拭いながら改めてモニターに映る花形ジャマーを見て言う。


「せっかく巨大ジャマーを追い出したのに同規模のジャマーがこんなに早く現れるとは……しかし、これじゃあタワーリング・インフェルノだ」


 モニターを眺める後ろで会話に割り込む人物がいた。


「むしろデイ・オブ・トリフィド(トリフィドの日)ですよ」


 入れ替わり立ち代わりでオペレーションルームに入る職員の中に白衣を着た科学者風の女性が話しを拾う。


 課長は彼女を見て安堵する。


「些少博士! やはりジャマーは見えるだけではいけませんなぁ、専門家の意見が聞きたい」


 落ち着きを払った三十代の女性。

 長い黒髪を後ろへ流し両耳に大きなヘッドホンを付け白いブラウスに黒のパンツを着こなす彼女はキャリアウーマンを思わせる。

 彼女は考察を述べる。


「推測するに墨田区に元々いたジャマーが地下の光ファイバーケーブルに流れる電波を吸収して長い時間をかけて巨大化し、スカイツリーの電波を求めて地表に現れたと考えます」


 縁司は本城のコートを掴み小声で聞いた。


「本城さん、誰?」


「些少・八重子分析官。ジャマーを含めた異常な電磁波の分析、研究、対処を専門にしているわ。手っ取り早くみんな博士って呼んでる」


 縁司はヘッドホンを装着しながらオペレーターの話しを聞く些少博士を見て素朴な意見を言う。


「話し聞こえてるのかな?」


 縁司の小言に反応したのか博士はこちらを向き縁司に近付き喋りかけた。


「よーく聞こえてるわよ、万丈目・縁司君」


 縁司は小言を聞き取った事には驚くがジャマーとの初遭遇で初対面の人物が自分を知っている事に、もう驚く事は無かった。

 些少博士は自分のヘッドホンを指し解説する。

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