第16話 電磁怪獣現る。

 女性オペレーターが意見を述べる。


『高層ビルの間ではジャマーが発するスプリアス放射がビル同士に反射をしてシールドの様になっています。衛星から信号を送っても跳ね返されます』


『それなら、場所も広い日比谷公園に誘い込もう』


『この大きさのジャマーだと日比谷公園は小さいので、やはり信号は跳ね返されます』


『他の開けた場所……国会議事堂前なら』


 次は安曇顧問が意見する。


『待って下さい。今、国会本会議が長引いているので危険は避けたい所です。それに……高齢の議員はペースメーカーを付けているので被害が出ます』


 本城も他に良い場所が無いか思考を巡らせる。総通局から丸ノ内に来る間で人が少なく障害物が無い開けた場所――――――――――――皇居。


「課長! 皇居なら場所も広いから行けますよ!」


 マイクに興奮しながら語りかけると鬼塚課長は通信機の向こうで感心する。


『なるほど、作戦の条件に合うな……』


 安曇顧問が慌てて会話に入り込む。


『皇居は駄目だ。生前退位が間近に控えている。もしものことがあったらどうするつもりだ?』


「そんな事、言ってる場合じゃないわ!」


『聖域に踏み込む事に等しい……リスクは犯せない』


「リスクに聖域は無い!」


 現場の職員と官僚の意見は真っ向から対立し事態は進展する気配が無かった。

 本城の言葉を課長が後押しする。


『安曇顧問。一石投じてくれませんか? 責任は私が……部下の職務に責任を持つのが上司の役目ですから』


 顧問はしばらく黙った後、渋々決断を下した。


『……では、作戦を早急に展開して下さい』


 それを聞いた本城は深々と息を吸い全身に回った酸素を吐きだすと強張った身体を解した。


『だが、どうやってジャマーを誘導する?』


 安曇顧問の疑問に鬼塚課長が答える。


『帰巣本能――――狩りに出た動物が自分の巣に帰るようにジャマーも寄生していた宿主に回帰しようとする傾向が有ります。つまり、憑りついていた人間に気付けば自然と付いて行くかと』


それを聞いた本城は側に居るあどけない少年を見つめ笑顔を見せ言った。


「さぁ、縁司。君の出番よ!」


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 光り……光りの雨。

 存在が電磁波で有る彼にはそう見えるに違い無い。

 彼は光りのシャワーを吸収し、とても心地良さそうにしている。

 天から地上から恵みを受けた彼は全身から力がみなぎり何も恐怖を感じず、この世界で無敵だと自負出来た。

 腹がむず痒い……何本もの細い糸が腹に刺さっている。

 煩わしさを感じ身体を傾けると糸はもろく千切れた。

 彼は足元を見下ろし身の回りに存在する、どんな物よりも巨大な自らを神とさえ思った。

 もっと豊かな恵みを求めて神は移動を試みる。

 足を運ぶと再び腹がむず痒くなる。一本の糸が腹に刺さっては消えることを繰り返す。

 彼は糸を振り払おうとするがさっきまでの光る糸とは違う。

 とても暖かい光り……。

 足元を見ると無数の弱々しい光点の中に眩い輝きを見つけた。

 自分が形創られる前に寄生していた住家だ。

 暖かい糸は彼に安心をもたらし再び安らぎを取り戻したい思わせた。

 彼は眩い輝きに狙いを定める。

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