第11話 電磁怪獣現る。

「一体何の話しですか?」


「強力な電磁波は地下を貫通して活断層に衝撃を与えます。解りやすく言うと電子レンジのマイクロ波で食材の分子を振動させ加熱するのと同じです。衝撃を受けた断層は活発化し直上で大規模な災害が起きます」


「つまり首都直下型地震が起きると言うことですか?」


「二十一世紀の関東大震災です。東京は地下鉄やトンネルで地盤が空洞化しています。震度八の揺れが来ればあっという間に崩壊するでしょう……おまけにジャマーによる電波障害で通信機器は遮断され警察、消防への緊急連絡が出来ず救助活動は困難を極め、東京は未曾有の危機に直面します」


 安積はスクリーンに目を移し強い口調で意見を述べる。


「なら事態が起きる前に緊急地震速報を一般人の端末に送り先手を打たなければ」

 

 鬼塚課長はその意見に難色を示す。


「難しいですねぇ……緊急速報の電波が各端末へ届く前にジャマーが吸収してしまいますから」


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


「本城さん――――暑い……」


「ジャマーが放射しているマイクロ波にさらされているからだわ」


「いや、走ってるから熱いと思うんですけど……げほっ」


 帰宅ラッシュの都会は真珠のように輝き人通りは雪崩のように社会人でごった返していた。息を切らす縁司と本城は永代通りから大手町を越え丸ノ内ビル周辺に到着した。


そして東京駅中央口に広がるバスターミナルの遥か頭上に浮かぶ不気味な影を視界に捕らえた。


 夜空を貫く勢いの巨体はペンギンに似ているがトカゲのように長い尾尻とヒレから生えた鋭い爪を持ち頭部は剣山のような角が無数に生え広がり、背中には縦一列に並んだ、いくつもの山型に尖った背びれが硝子のように透き通り、付け根から赤い稲妻のような血管が広がっている。

 そしてジャマーの特徴とも言える腹には巨大な赤色の球体。

無数の細い稲妻を放出しているリアクターが有った。

 周辺を取り巻く霧はジャマーが発する怪電波、スプリアス放射だろう。

 この前遭遇した鮫とタコを合わせたジャマーの比じゃない。

 巨大ジャマーは信号や街灯の明かりとは全く違うマグマのように血走った目で辺りを見回した後、咆哮する。

 その鳴き声は硝子を爪で引っ掻くような不快な響きだった。


 その姿を見た縁司は思わず口にする。


「ペンタゴン!?」


「は? ペン太?」


「冠怪獣ペンタゴン! 僕の好きな怪獣映画……何でペンタゴンの姿なの?」


「多分、取り憑いていた縁司の思考を読み取って形創ったんだと思う」


 それにしても異様な光景だ。

 頭上に凶悪な怪獣が居るのに誰も気付かずいつも通り過ごしている。

 怪獣の足元や股の下を平然と歩きトンネルを抜けるようにくぐっている。

 無理もない電磁波の身体を持つジャマーは一般人には見えない、気付かなくて当然だし気付いたら街は大混乱になる。


 くちばしの顎が三つに割れ花びらのよう開く。

 巨大ジャマーが大きく息を吸い始めると口の回りに光りの粒子が吸い寄せられる。


「何アレ?」


「ヤバい…………空気中の電波を吸い寄せてる」


 次第にジャマーの巨体が風船のように膨らみ光線のシャワーが口いっぱいに集まる。

 異変は現象になって現れた。

 周辺で通話をしている人々が携帯電話の不調を口ぐちに言う。

 電波を吸われ受信状態が安定しない街頭テレビは画面が歪み音声がスローに聞こえる。

 街灯も弱々しく光り電光掲示板のLEDは乱れ点滅し不可思議な文字を表示している。


 本城は縁司の手を取りビルの影に走る。

「何か壁に隠れないと!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る