第10話 電磁怪獣現る。

「体長は…………三〇〇メートル。横幅が一〇〇メートル――――大きい」


 鬼塚課長が屋上の強風に負けないくらいの声を張り上げた。


「すぐにオペレーションルームへ来るんだ!」


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 総通局、存在しない地下層。

 屋上から降りて来たジーメンス担当顧問こと安曇あずみ佳人かいと主査、本城、縁司、鬼塚課長、他を含めた一同は廊下を早歩きで移動していた。先頭を歩く安曇は側に居る課長に質問する。


「丸ノ内に居るのですか? 何故、そこへ……」


「電磁波を吸収し身体を構築する為、近場でより電波の多い場所を選んだと推測されます。都心で電波の多い場所は必然的に人口密集地になります」


 ジーメンスのオペレーションルームでは全ての職員が慌ただしく作業していた。鬼塚課長が全体に聞こえるよう声を張り上げる。


「諸君! ただちに緊急マニュアルに沿って対応してくれ」


 何も映らないモニターを見て溜息を付く課長に安積が投げ掛ける。


「鬼塚課長。僕達はジャマーが見えないのですが?」


 鬼塚が今気付いたと言わんばかりに手を軽く叩きモニター前の女性オペレーターに指示する。


「君、モニターにフィルターを掛けて視覚化してくれ」


 オペレーターがキーボードを操作するとモニターが切り替わり巨大ジャマーが映る。

 それを見た安曇は驚愕し取り巻き達は驚きの声を上げた。

 安曇はジャマーが自然現象が時おり見せる生物的な振る舞いによる錯覚だと思っていた。

 しかし今、見ているモノは紛れもない生物だ。

 こんな事が世に知られれば社会の常識が根底から覆る。


 鬼塚課長が脱力気味に言う。


「まさに、今、そこにある危機ですよ」


 本城が鬼塚課長に言った。


「課長! 場所も近いから私、現場に行きます!」


 本城は返答が来る前に室内を飛び出した。

 それを見送った課長は頭を撫でながらぼやいた。


「部下の自由を尊重しすぎたせいで自分勝手に育ってしまった…………ん? 少年が居ないようだが」


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上昇するエレベーターの中で縁司は息が詰まる思いだった。それを察してか本城は気を使う。


「危ないからオペルームに居た方がいいわ」


「でも、僕の中から出て来た怪獣だから、やっぱり責任あるし……」


 本城が少年の頭を優しく撫でながら言った。


「中学生が責任とか難しいこと考えなくていいのよ」


 年上の女性に頭を撫でられ少年は気恥ずかしくなった。本城が気を取り直し言った。


「じゃぁ、私達で神話を守りにいくわよ!」




 安曇顧問を含め取り巻き達はオペレーションルームで慌ただしく作業する大勢の職員を見て何も出来ず、ただ途惑うだけだった。

 モニター前の女性オペレーターが強張った声で課長に報告する。


「電磁波振動を感知、都心全体に影響が出ています……気温も上昇。スプリアス放射も規定値を越えています」


「何?」


 鬼塚課長はオペレーターが操作するコンピュータのデータ画面を噛り付くように覗き込んだ。


「規模の予測は出来るか?」


「ジャマーの大きさと電磁波の強さを計算して……予想はマグニチュード七・九」


 会話の流れを掴めない安曇は課長に聞く。

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