第7話 ポニーテールと主査

「君ねぇ、あまり勝手なことしないでくれる? 部下の失敗は上司の責任なんだから何かあると私が怒こられるからね。この前あった学校の事件、君、途中でマニュアル無視して動いたでしょ? あの後、私が偉い人に怒られたんだから」


 本城が生返事で返すと鬼塚は目を細め「頼むよ?」と約束させ慌ただしく部屋を出た。


 上司が去って行く背中へ彼女は舌を出して反発の意志を見せた。


 縁司が硝子の向こう側を見るとオペレーションルームの自動ドアが開きスーツ姿の男達が物々しい様相で入って来た。五人の男達を鬼塚課長が申し訳なさそうに出迎える。鬼塚に案内されスーツ姿の男達はリラクゼーションルームへ入って来た。


「やっぱり来たか……官僚襲来」

 本城は頭を押え憂鬱な表情を浮かべた後、気を取り直して笑顔を作り挨拶する。


安曇あずみ顧問! わざわざご苦労様で~す」

 彼女は軽く敬礼して茶化した。


 四人の男達を従え先頭にいる安曇と呼ばれた二十代の男は背も髙く背筋を伸ばし、シワの無い紺色のスーツはライトの光りを反射して光沢を放つくらい綺麗だ。中分けのヘアーに凛々しい眉と目、顎は細く整い男から見てもカッコいい。

 隙が無く威圧的な印象を受け縁司は無意識に警戒する。


 安曇は本城を無視して側に居る鬼塚課長に聞く。


「この子ですか?」


「えぇ、まぁ、はい……」

 課長は困ったように返す。


「自衛隊を騙してまで確保するとは……庁舎に入れて危険は無いのですか?」


「現状では安定しているので刺激しなければ危険は無いかと」


「解りました。後は我々で預かります」


 スーツ姿の取り巻きが縁司に近寄り腕を掴んで離さない、縁司は今までに出会ったことの無い威圧的で乱暴な大人達に恐怖し引っ張る力に反発したが大人相手に適うはずが無かった。

 

 それを見た本城は慌てて間に入り遮る。


「ちょっと待って下さい、顧問! この子の保護は私の仕事です」


「この件は君の手を離れた。後はこちらの仕事だ」


「話が違う! ジャマーはジーメンスの所管(ある権限を持って管轄すること)ですよ」


 鬼塚課長が間に入り両手で本城を制止した。


「本城君。この子は極めて類をみない電波体質だ。多分、規格外のジャマーに取り憑かれている。もっと専門の研究機関に預けた方がいい。それに触らぬ神に祟り無しと言うようにあまりお上(かみ)に突っ掛るのは……」


「何よ! 相手がエリートだからって弱腰になって!」


 課長を押し退け本城が顧問に詰め寄ろうとすると取り巻きの一人が立ちはだかった。眼鏡を掛けいかにもインテリを気取った男だ。


「君、態度に気を付けたまえ。安曇顧問は部局内で“主査”だ。局長から特別な権限も与えられている」


 本城は鬼塚課長に聞いた。


「しゅ、主査と課長は、どっちが偉いんですか?」


「ん~……順番で言うと課長の方が偉いけど、私はノンキャリアだから官僚である彼の方がいずれ偉くなるね」


 取り巻き一同がせせら笑うのを止めて顧問は続ける。


「僕は貴方達のように電波が見える訳でもない普通の人間です。でもジャマーと言う存在の脅威は少しは理解しています。早めに手を打たなければ……それに局の研究チームがこの少年を調べたがっている。非常に珍しい事例らしいからね」


「頭を剃って電極仕込んでやるんですか? 蛙の実験じゃあるまいし……」


 彼女は蛙の鳴き真似をした後、鼻で笑った。

 安曇顧問は冷静に考察して返す。


「その言い方だと君もその蛙の実験を受けたくちか?」


 聞いてほしくない話だったのか本城は黙り安曇を静かに睨んだ。

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