第4話 今、そこにある危機

「感染した……服が破れてウィルスに感染した――――」


 すると、その人物は身体を痙攣させ両腕を力無く伸ばし片足を引き摺りながら縁司に向かって来る。

 その姿はまるで映画に出て来るゾンビだ。


「う、う……うあああぁぁぁ―――……」

 ゾンビらしき人物は呻り声を上げ少年の前まで来て顔を寄せる。


 少年はとくに驚く様子も無く冷めた目で話し掛ける。


「本城さん、何してるんですか?」


 マスクを取ると極秘機関ジーメンスの電波監視官こと本城・愛は嬉しそうに言う。


「ゾンビ映画で有りがちなワンシーンの再現。よく私だと解ったわね?」


「頭にエクステを付けてるから解りますよ」


 言われて彼女は手をフードの後ろに回し装着したエクステを触り言う。


「しまった! つい癖で付けちゃった」


 お茶目な本城に縁司は聞きたい事が山ほどあった。


「何で本城さんがいるの? 自衛隊と何の関係があるの? それに放射能は……」


 縁司の質問攻めに対し本城は腕を上げた。

 この前みたくゲンコツが落ちると思い少年は咄嗟に椅子から立ち上がり身構える。


 だが本城は振り上げた手を頭の後ろに回してエクステを外し腕に抱え話し始めた。


「安心して放射能が出た話はデマだから」


 縁司は中学生の頭で慎重に考察した。


 この人、とんでも無い事を軽々しく言ってる!?


「ジーメンスが流した情報で自衛隊科学課は本当に放射能が出たと思っているけど、それはカモフラージュで本当はスプリアス放射を除去しに来たの」


「す……ぷりん?」

 険しい表情をする縁司に彼女は説明する。


「スプリアスは電波を送信した時に出る余波みたいな物なの、平たく言うと電波の残留物かしらね? 別に珍しい物ではないけど放って置くと別の機械に干渉し通信を妨げるわ。だから総務省の職員は定期的にこのスプリアスを取り締まっているのよ」


「なんか電波の警察みたいですね」


「ジャマーが発している怪電波はそのスプリアスで君や私みたいに電波体質の人には霧のように見えるわ。勿論、ジーメンスの防衛兵器、ゲイン砲も出るからジャマーを殲滅した後に処理しないと一般人の生活に支障を来す。だから今日はそのスプリアスを取り除きに来たの」


 縁司はさほど理解していないが、とりあえず感心した。


「実は何ヵ月も前に光ヶ丘で怪電波が探知されて総務省の電波監視官が何度も探索したけど原因は不明。そこでジーメンスは大規模な探索を始めて、やっと解ったわ。光ヶ丘中学校を中心に怪電波が発せられているの。多分、発信元は君」


「僕?」

 縁司は意表を突かれた。


「実は君から強力なスプリアスが出ているの。原因を調べる為、何週間か君を監視していた時にジャマーが襲って来た訳よ」


 なるほど、僕は本城さんにずっと監視されていたのか…………え? じゃぁ、アレも、コレも見られていた!? 動揺する少年に構わず彼女は続ける。


「しかも君のスプリアスは日に日に増している。原因を究明する為、ジーメンスの研究チームで簡単な検査を受けてもらうわ」


 縁司は人の気配を感じ振り向くと背後に黒いスーツを着てサングラスを身に着けた男に驚いた。本城は笑いながら言う。


「大丈夫よ、怪しい光りで記憶を消したりしないから。彼が車で送ってくれるから」


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る