第11話 僕と彼女の最初の難事件
「うわぁぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと! 何、何?」
縁司の叫び声に本城も驚く。
「本城さん! クモ、蜘蛛!」
縁司の手に乗る小さな蜘蛛を見て本城は呆れながら言う。
「もう、男の子が蜘蛛ぐらいで驚かないでよ~。お恥ずかしったら、ありゃしない」
窓硝子をぶち破り、転んだ拍子に全力で大車輪をキメた人に言われたくない!
慌てた縁司は本城に助けを求め蜘蛛が乗る手で彼女に近寄る。
「やだ! こっちに来るな!」
本城に駈け寄る前に彼女の足が見えたと思うと目の前が真っ白に染まり気付けば身体は床に倒れていた。どうやら縁司は彼女の回し蹴りをまともに食らいダウンしたようだ。本城は倒れる少年の側に寄る。
「ごめん、大丈夫――――――――あ! 見つけた!」
本城は縁司が握るアンテナを見て喜ぶ。
まとわりつく蜘蛛の糸を払いダウンする少年からアンテナを奪った。縁司は起き上がろうとする。朦朧とする意識の中、本城が身に着けている腕時計が視界に入った。
チェーンに巻かれ天使や十字架の絵が入りハートのチャームを下げた金属の時計。だが短針と長針がやけに早く回転している。
「本城さん? 時計、変ですよ……」
言われた彼女は高速で回転し始めた腕時計を見て焦りの表情を浮かべる。
「マズい――――電波時計が狂ってる……来るわ!」
縁司は立ち上がり本城にしがみ付く。彼女は辺りを見回す。
「電波であるジャマーは光りと同じで硝子をすり抜ける性質が有るの、だから来る時は窓やドアの硝子から……」
その時、彼女は頭上を見た―――――。
天井に靄のように蠢くモノが有る。そして靄から何本もの触手が現れると空間を裂くようにジャマーは姿を現した。想定外の出現に戸惑う電波監視官は動揺する。
「やられた……学校を飛び交うWi‐Fiの電波に溶けこんで姿を消していた」
ジャマーは鳴き声を上げ頭上から襲って来た。
本城は縁司を抱き寄せ後方に跳びかわすとジャマーに向けてスマートホンをかざす。
四方から走る光線がジャマーを襲う。
しかし――――ジャマーは体制を低くして机の影に隠れるようにしゃがんだ光線は目標に当たらず互いに交差し実験台の上をかすめるように通過した。
「死角!?」
ジャマーは複数の触手を踊らせ赤外線のように光る二つの目でこちらを擬視していた。
まるで獲物を捕らえ喜ぶ肉食獣のようだった。
本城の顔色が変わる。
それを見て縁司の恐怖は高まる。
ジャマーは雄叫びを上げ二人に襲いかかった。
彼女は咄嗟に縁司を突き飛ばしジャマーから遠ざける。
本城はジャマーの半透明の身体に飲み込まれると全身を痙攣させ後方に吹き飛んだ。
「ひぃ!」
縁司は恐怖で身体が固まる。
眼鏡が無く視界はぼやけているが電波であるジャマーの姿だけは、はっきり見える。
ジャマーとの距離はおよそ五メートル。
形は違えど少年は過去のトラウマと向き合うことになった。
「ほ、本城さん? 助けてぇ~……」
縁司は倒れた本城に弱々しく助けを求めたが本城は目だけこちらに向けて身体を痙攣させたまま動けないでいる。かすれた声で本城は少年に指示する。
「に……逃げて――――」
しかし縁司の足は震え立上る事すら出来ないでいる。
死ぬ――――今度こそ間違いなく死ぬ。
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