第10話 僕と彼女の最初の難事件

 そう言うと彼女はウィンクで縁司に同意させ代わりに彼の懇願こんがんを呑む。 


「しょうがないわね。一緒に行く代わりに私から離れちゃだめよ?」


 ドアをゆっくり開け、隙間から外の様子を覗くと本城は縁司を連れ美術室を出る。縁司は怪電波専門の監視官を名乗る得体の知れない女性と廊下を隠れるように移動していた。


「幸い授業中で廊下を歩く生徒はいないわね。ジーメンスは極秘だから一般人に知られる訳にはいかないのよ」


 少年は自分が置かれた状況を信じてくれる人物にひとまず安心する。

 眼鏡を失い視界がぼやける縁司は本城の白いコートを掴みながら付いて行き、頭の中でこれまでの事を整理した。


 もう、話しがややこし過ぎて解らない。どこまで覚えて置けば良いかな? 

 僕は電波が見えるらしい。ジャマーは電波怪獣。

 本城さんはジャマーを倒して僕を守る人。

 外から来る光線はパラボラビーム砲。

 ジャマーを倒すにはアンテナで心臓を引っこ抜く。

 ジャマーに憑り付かれると僕は死ぬ…………で、大丈夫かな?


 移動中、生活指導の教員が経路を塞いでいた。

 教員は廊下に散らばった蛍光灯の破片を見て驚き何処かへ行ってしまう。その様子を覗き見ていた本城が焦る。


「マズい……騒ぎが大きくなる前に何とかしないと、時間が無いから急ぐわよ」


 三階の理科室に到着した二人は室内に誰も居ない事を確認すると静かにドアを開けて中へ入る。

 縁司がドアの横に有る電灯のスイッチを押そうとした時、「付けるな!」突然の怒鳴り声に全身を強張らせた。


「電灯の明かりは電磁波を発しているのよ。ジャマーが感知して見つけに来るわ」


 縁司は黙って頷きスイッチに伸ばした手を引っ込める。

 昼下がりの太陽光を頼りに、薄暗い室内で二人は床を這うようにして実験台や窓の下アンテナを探し始めた。

 しばらく時間がかかりそうなので縁司はジャマーに付いての疑問を本城に聞く。


「あの……本当にアンテナで倒せるんですか?」


「エレメントやアンテナはただの変換機、重要なのはジャマーの周波と私の脳波が出す周波が共振すればエレメント程ではないけど普通のアンテナでもアイソレ、つまり電磁的分離現象を起こせるわ」


 縁司は感心し、さらに質問する。


「なんでジャマー……だっけ? サメとタコが合体した形なの?」


「ジャマーは元々、不定形の姿だけど摂り付く人の思考や身近な電波や脳波を読み取り、身体を構築する時のモデルにするのよ。多分、近くにいた君の脳波を読みとり形ち創ったんだと思う。何か無い? 影響を受けた映画とか過去のトラウマとか?」


「映画? 最近、鮫の映画を見たけど……」

 

 その時、縁司の脳内に過去記憶が過る。


 サメとタコ、サメ、タコ。鮫、凧……鮫島さめじま凧八津たこやつ――――――――。


 縁司は過去の苦い記憶を思い出し青ざめる。


「心辺りあるみたいね?」

 

 本城の問い掛けに少年は力なく頷く。

 縁司は他にも気になる事が有った。


「やっぱりジャマーが来たのはジャックさんの呪い?」


「あまり関係無いけど、君がここで儀式をした時、集中力が高まって脳波をいつもより多く出していたのよ。大気を漂っていたジャマーはそれに食い付いたんだと思う」


「何かジャマーって…………幽霊みたいだ」


「そうね~、そもそも電波自体が受信しないと、さ迷うだけの幽霊みたいな物だからね」


「でも、電話が鳴った後に変な叫び声が……」


「あぁ、あれ、私の声よ。電波ジャックして電話に声を吹き込んだのよ」


 あっさりと言う本城に縁司は驚愕する。


「近くにジャマーが居たから危ないと思って君を逃がす為に驚かせたの……そこの裏を見て」


 縁司は得体のしれない女に不審感を覚えながらも彼女が言う、そこ、を見た。

 部屋の隅で暗がりに浮かぶ不気味な人体模型。

 縁司は息を呑み渋々裏に手を回す。

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