第8話 僕と彼女の最初の難事件

「あ……あなたは誰? あのモンスターは何? さっきの光線は?」


 興奮気味の少年を彼女は両手で制止する。


「ちょっと、そんなにいっぺんに聞かないでよ。そうねぇ、まずは……」「何で追いかけてくるの? やっぱり呪い? 僕、呪い殺されるの――――」


 突然、縁司えんじの頭上で鈍い音がして周りの景色がブレた。


 少年は痛みで頭を押えうずくまる。

 脳天に来る猛烈な痛みが彼女のゲンコツを食らったのだと教えてくれた。

 彼女は冷たい口調で言う。


「説明するから聞いて」


 コートの襟を囲むファーで見づらいが、白いブラウスに襟の上からネクタイの形をしたペンダントを付けていて、洒落た大人の女性に見える彼女は気を取り直して説明する。


「まずヤツらは君みたいに電波が見える体質の人間を好むわ。君の髪が逆立っているのは静電気と同じで電磁波を感じているせいね」


 電波が見える? いきなり話しに付いて行けない。


「それを退治するのが私の仕事――――」


 彼女は立ち上がり両肘をくの字に曲げて手で腰を掴む、そして縁司を見下ろしながら続けた。


「私は本城・愛! 総務省の出先機関、総合通信局に極秘で作られた特殊電波監視課。通称“ジーメンス”から派遣された怪電波専門の電波監視官よ」


 謎の女、改め本城と名乗った彼女の言うことは突飛過ぎて、それこそ電波としか思えない。縁司は彼女が発する電波を上手く受信できないでいた。

 そんな縁司を置いて本城は話し続けた。


「あなたを襲ったモンスターだけど、西洋では悪魔、日本では幽霊や妖怪。でも私達は“ジャマー”って呼んでいるわ。電磁波の身体を持つ生命体」


 ――――さっぱり解らない。

 彼女の言葉は縁司の右耳から入り脳に留まること無く左耳から流れ出て行った。


「電波怪獣って言う方が解りやすいかな? そして私は、その電波怪獣を取り締まる電波Gメンってわけ、どう? 解った?」


 話の出だしから付いて行けないのに解ったとは酷い話だ。


「あなたからは極超短波が発せられているわ。人間が放つ脳波は一種の電波みたいな物なのよ。最近テレビやパソコンの画面がブレたりスマートホンが突然圏外になったりしなかった?」


 縁司は少し考え心当たりがある事を思い出す。

 室町と町野のスマートホンを覗いた時、画面がブレて圏外になったことを。


「あります……」


「それは、電波に似ている君の脳波が機械に干渉したからなのよ。ジャマーはその脳波を食べる為に襲って来るわ。ヤツらはあらゆるモノに憑り付いて電波を食べて怪電波を発するのよ……いい? テレビ、電話、交通、医療、衛星、インターネット。電波大洪水と言われるぐらい電磁波だらけ、人類は電波無しでは生活出来ない。ただでさえ増えすぎた電波はお互いを邪魔し合うのにそこへ電波怪獣なんて現れたら大混乱」


 彼女は両手を広げながら肩を竦め続ける。


「しかも使用する電波にはホワイトスペースと言うキャパシティーが有ってジャマーの存在はそのキャパを埋めてしまうわ。テレビのアナログ放送が終了したのはそのキャパを確保する為なんだけど……そこで総務省はジャマーを殲滅する為、防衛兵器――――空間電算信号方式を導入したのよ」


 縁司が呆気に取られていると本城は人差し指を立て頬に寄せ答える。


「解りやすく言うと地上デジタル放送ね!」


 縁司は聞き馴染みのある言葉に思わず反応する。


「あの光線は“ウルティマヘテロダイン増幅ゲイン砲”。ジーメンスが配信する秘密のアプリで操作するのよ。ゲインはアンテナの一種なんだけどけど実際は各家庭に備え付けられた衛星放送用のパラボラアンテナや地デジ用のUHFアンテナからジャマーが嫌う高周波を発していて、電磁波だから普通の人には見えないわ。これはスーパーヘテロダイン方式の応用で直進する電波に電磁波をかき消すウェーブをスパイラルさせ振動数が短い短波のストロークを伸ばすことが……」

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