第5話 電波少年、危機一髪!

 呪われる――――そう思った少年は後ず去る。


 その時、蛍光灯が陽光よりも強く光りその場を照らした。

 縁司は眩しさで顔を手で覆う。

 すると鼓膜を突き刺すような悲鳴が聞こえ天井の蛍光灯が一斉に破裂して破片をまき散らした。

 覆っていた手をどけて廊下を見ると砂嵐が視界を塞いだ。

 だが授業中に見た砂嵐とは違う砂嵐には薄っすらと輪郭のような線が見える。

 砂嵐は何かの形を成していたがハッキリとは解らない。

 形は二重、三重にブレれていいて掴みどころが無かった。


 茫然と立ち尽くす縁司に砂嵐はゆっくりと近づいて来る。

 危険を感じた縁司は音楽室を背にして慌てて駈け出した。


 廊下を必死で逃げる縁司の後ろを砂嵐の影が追う。

 目の前に校内を見回る生徒指導の教員が現れたので助けを求めた。


「先生! 助けて!」


「ど、どうした?」


 戸惑う教員に縁司が追って来る影を指すと彼は言った。


「……何も無いじゃないか?」


 縁司は頭が真っ白になった。

 今も砂嵐は縁司の後を付いて来ているのに見えていない?


「先生をからかっているのか? 授業が嫌だから逃げたんだろ?」


 信じてくれない――――縁司は教員が助けにならないと解ると再び走り逃げた。

 忘れ物を取りに来た教室まで来るとドアを開けて身を屈め、ドアを背にして張り付き砂嵐をやり過ごす。背中が焼けるように熱い……走ったから熱いのでは無い。

 ドアから直射日光が射すような熱を感じる。


 ドアの向こうを通ってる――――何故か、そう感じる。


 背中の熱が引いて行くと縁司はドアの窓から様子を覗いてみる。砂嵐が教室を通り過ぎて行くのが見えた。


 縁司は強張った身体をほぐし床に力無く座る。


 何、アレ? やっぱり幽霊? どうしよう……僕、呪い殺されるの?


 縁司が恐怖に震えていると背中が焼けるように熱くなった。

 授業中に転げた時と同じだ――――全身の細胞一つ一つが震えてるような感覚。

 縁司は頭上を見上げた。


 すると――――――――砂嵐が窓をすり抜け教室の中へ入り込もうとしていた。


 少年は叫び声を上げて窓から離れ反対側のドアへ向かって一目散に走り教室から出た。

 無我夢中で廊下を走る縁司はパニックで逃げられる所は何処でもいいと考え階段で下り校庭に出ようとした。しかし二階から一階に下りる階段で慌てて下りた為、足を挫いて転げ落ちてしまった。少年は立ち上がろうとするも足首に激痛が走り立ち上がれない。


 痛い! 足が動かない! 


 捻挫した足を摩りながら階段を見上げると砂嵐がゆっくりと階段を滑り落ちて来る。

縁司は床を這い着く張り足を引きずりながら廊下を進むがとても逃げ切れない。気付けば砂嵐は縁司の直ぐ後ろに迫って来ていた。

 そして、鼓膜を刺すような悲鳴が砂嵐から聞こえると廊下の蛍光灯が強烈な光りを放ち、次々と破裂し硝子の破片が雨のように降って来た。縁司は手で頭を抱えて落ちる破片から身を守る。


 手の甲を見ると硝子で切れて玉になって出た血が皮膚を伝い流れ落ちた。少年は這いつくばりながら必死で逃げようとする。

 だが砂嵐は獲物に辿り着くと上から覆いかぶさって来た。

 砂嵐に呑まれると全身が焼けるように熱くなった。

 息が出来なくなり視界がぼやけ意識がもうろうとする。


 もう駄目……死ぬ……。


 自分の死を悟ると目頭が熱くなり涙が止めどなく流れ落ちた。

 母親の顔が頭に浮かぶ――――平日の朝は起きるのが辛く母親がお起しに来ても寝たふりをして毎日困らせた。次に父親の顔が浮かんだ――――土日の休み父親がどこかに遊びに行こうと言われてもネットの動画が見たくて無視していた。学校では僕の為に占いをやってくれた室町と町野に文句ばかり言った。

 そして、藤沢さん――――好きだったのに一度も気持ちを伝える事が出来なかった。きっと天国に行っても後悔するかも…………。

 お母さん、お父さん、室町、町野――――皆、ごめん。迷惑掛けたり無視したしたからバチが当たったんだ……本当にごめん――――。藤沢さん――――生まれ変わったら今度こそ――――好きだって告白したい…………。


 縁司はまぶたを強く閉じ死が訪れる恐怖を耐えた。

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