第4話 白い幽霊

「何だよ、万丈目?」


「お前、女の前でカッコつけんな!」


 縁司は無言で彼らを睨み付ける。


「生意気なんだよ!」鮫島に肩を小突かれた縁司は叫び、ついに飛びかかる。


 しかし体格差はそう簡単には埋められない。縁司は呆気なく返り討ちにされ、口の中が切れて血の匂いと鉄の味が広がる。そして凧八津が倒れた縁司の短パンを指差す。


「おい! コイツ、女の前で漏らしてるぜ!」


 元々、トイレに行く途中だった縁司は有ろう事か倒された弾みに漏らしてしまった。縁司で憂さを晴らした鮫島と凧八津は笑いながら去って行った。

 後に残されたのは悔しさと恥ずかしさでベソをかく縁司少年とそれを見て立ち尽くす少女だった。  


 そして立上る気力を失った縁司に、少女は近寄り持っていたハンカチで彼の怪我した口を優しく拭いた。二人で保険室に行き、先生に縁司の怪我を見てもらい汚れた服を着替える為、少年と少女は保健室の前で別れた。縁司は少女の後ろ姿を見送りながら淡いときめきを胸の内に感じた。


それから三年後――――。


 中学に上がり各地域の小学校から生徒が集まり、合同運動会で出会った彼女を見つけた。縁司は奇跡に感謝した。 そして同じクラスになり名前が藤沢・さくらだと初めて知った。だが、クラスで地味な眼鏡少年は彼女とろくに話す事も無く、その思いを伝えることが出来ないでいた。一年が過ぎ学年が上がると二年のクラス代えでまた同じ教室になった。縁司は運命だと感じた。


 ある放課後、仲の良い室町、町野の二人と退屈しのぎに学年で一番可愛い女子について話していた。二人が可愛い女子の名前を上げて行く中で縁司は藤沢・さくらの名前を出すと町野は別のクラスの女子と比べて藤沢はいまいちだと言った。自分の好きな女子が馬鹿にされ縁司はついムキになり藤沢の良さを語ると、賢い室町は縁司が藤沢のことが好きなのだと気付き、からかった。

 だが、しばらくして二人の親友は縁司の為に一肌脱いだ。


 それが学校で流行っている占い“ジャックさん”だった。


 藤沢さんは、あの時のことを覚えているかな?

 縁司が見つめる視線に気付いたのか彼女はこちらを向き目が合ってしまった。縁司は気恥しくなり顔を背けた。


 町野が沈んだ空気を変えようとスマートホンを取り出す。


「そういや最近、面白いゲームを見つけたから落としたんだ」


 画面を操作する町野に室町が注意した。


「おい、学校で使うと、また先生に没収されるぞ?」


「学校はWi‐Fiが飛んでるから家に居るより繋がりやすくてさ」


 三人で画面を覗くとノイズのような物が映り、元に戻るとスマートホンは圏外になった。三人は青ざめた顔で見合わせ町野が言う。


「これも……呪い?」


 -・-・ --・- -・-・ --・- -・-・ --・-


 昼下がり。

 次の授業は音楽で生徒は皆三階の音楽室へ移動したが縁司だけは教室に筆箱を忘れたので慌てて取りに戻った。


「あった! 危なかったぁ~」


ふと縁司は誰かに見られている気がする……そう思い辺りを見回したが何も無かったので安心した。


 走ればまだ間に合う。

 階段で三階まで走る途中、生徒指導の教員に注意されたが早歩きでその場をやり過ごし再び音楽室へ急いだ。


 間に合った! ゴールは目前この角を曲がり切れば音楽室だ。

 しかしその手前で足に急ブレーキを掛けた。 目線の先、暗がりの音楽準備室のドアに映る人影が縁司を見ていた。この不気味な存在感は覚えがある。


 ――――白い幽霊!? 


 町野の言葉が浮かぶ。 


 “隣のクラスにいた女子が儀式の最中、手を離したんだって……で今、昏睡状態で病院に入院してるらしい――――多分呪いにかかったんだと思う”

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