呼び出しですっ




 おお、カリカリ、サクサクだ、と紗凪はシナモントーストを食べながら、ご満悦だった。


 ロイヤルミルクティーも最高、と思っていると、

「お前、そういえば、夜は来ないな」

と食洗機に皿を入れている哲太に言われた。


「そうですね。

 夕食はさすがにトーストだけというわけにはいかないので。


 仕方が無いので、此処の灯りを眺めながら帰ります」

と紗凪は笑った。


 窓辺に置かれた大正時代のようなアンティークなラジオが八時を告げる。


 残念、時間です、と紗凪は席を立ったが、哲太がレジをやってくれたので、もう少し話せた。


 窓から吹き込む風が顔に当たり、紗凪はそちらを見た。


「此処はいい町ですよね。

 猫がたくさん居るし、先輩も居るし」


「待て。

 俺は猫の後か」

と言われて笑う。


「此処に来ると、珈琲のいい香りと、森林の香りがして。

 一歩外に出ると、海の香りがして、いい町です」


 海の匂いか、と釣り銭を渡しながら、哲太は窓の外で風にそよぐ木々を見て呟く。


 ご馳走さまでした、と出て行こうとすると、

「おい、紗凪」

と呼び止められた。


 一瞬、固まり、動けない。


「紗凪っ!

 今、紗凪って言いましたっ!?」

とレジに駆け戻り、言うと、


「お前の上の名前を知らん」

と哲太は言う。


 ……そんな理由か、と思っていると、

「お前、今日の夜は暇か」

と訊かれた。


「ええっ?

 暇ですっ!


 暇じゃなくても、暇ですっ!」

と力説すると、


「じゃあ、会社が終わったら、この店に来い。

 話がある」

と笑わずに言われた。


 ……どうしよう。

 あんまり、いい話じゃなさそうだ。


「暇じゃないです……」


「お前、今、暇っつったろーっ!」

と叫ぶ哲太の顔を見ながら、


 なんだろう。

 金網越しに見ていた、後輩をしごいていたときの先輩の顔と、今の表情が酷似している気がするのだが、気のせいだろうか……、

と紗凪は怯えた。




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