第12話
「肇君には迷惑をかけたね」
と隆三さんは言う。上の空だった。
なにより彼女がこの世からいなくなったということが受け入れられない。
でもそれは紛れもない事実だった――
「香澄から手紙を預かってるんだ」
静かに続ける
「よければ読んでくれないか?」
「分かりました」
「ありがとう、本当に感謝しているよ」
「拝啓 佐竹肇様へ」という文からはじまるそれは、
彼女の真面目さが垣間見えて少し懐かしく感じた。
「肇くんと初めて出会ったのはこの街に下見に来た時だったね。
土地勘のない私に、高校を案内してくれたあなたのことは今でもはっきりと覚えています。
実は、がんであまり先が長くない……と医者に言われていたのです。ずっと言いだせなくてごめんなさい。
だから残りの人生を精いっぱい楽しもうと思い、この街に引っ越すことを決めました。
もちろん肇くんがいたからです。
夏祭りの時、肇くんに告白されて本当に嬉しかった。
でも先が長くないとうすうす分かっていた私は、どうしてもあなたの告白を受けることができませんでした。
肇くんを悲しませたくなかったから。でも、これが最後になると思うので、伝えます。
私、吉田香澄は、佐竹肇くんのことが好きです。
そして、私のことを好きになってくれてありがとう。」
涙が、止まらなかった。顔をぐしゃぐしゃにして泣き続けた。
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