第8話 奇妙な関係

 森の中での事情聴取が終わり、喜田輝義は街灯のない村を歩く。今の彼は途方に暮れている。本来なら平井村長の家に泊まるつもりだったが、彼は殺されてしまい、宿泊するわけにはいかなくなったのだ。

 刑事に付き添われ、田辺と宮川は旅館に、中川は自宅に戻った。今から旅館に電話して宿を確保しようとしたが、村唯一の宿は送り火祭りの観光客が多く満室状態。

 

 群馬県警の刑事に事情を話し、宿を確保してもらうという最終手段しか残されていないのではないかと思った時、喜田輝義の前に、黒服の男達が現れた。暗闇に同化し、ピンクのネクタイと赤色のネクタイしか見えない状況で、男達は寝袋を担いでいる。

 それから間もなくして、赤色のネクタイの男が喜田に話しかけた。

「アズラエル。こんな所で何をやっているんだ?」

「ちょっとアクシデントがあって、宿泊先がなくなってしまったから、途方に暮れていた所ですよ。ところで、ウリエルはどこにいるのでしょうか?」

「この村の旅館に泊まっている。生憎3人分の部屋しか確保できなかったから、俺達は森の中で野宿だ。三浦の家での掃除も済んだからな。仕事をサボったピンクはともかく、ジャンケンで負けた俺は運が悪かった」

「だから、サボったわけじゃなくて、電話を受けていたんですよっと。殺された篠宮澪について、気になることがあったから、新人ちゃんに調べてもらったんですよっと」

「気になることというのは?」

 喜田からの問いを聞き、ピンクのネクタイの男は疑問点を明かす。

「なぜ三浦辰夫は、数多くの不動産会社から篠宮澪の不動産会社を選んだのか。その答えは、2人に接点があったからなんですよっと。実は彼女は10年前まで、この村で暮らしていたことがあったんですよっと。10年前の心中事件の直後、逃げるように上京したらしいよっと」

「なるほど。それで、今日の午後6時から午後7時までの間、三浦辰夫と会いませんでしたか?」

「午後6時、三浦はウリエルと会っていた。5分くらいで対話が終わって、それ以降のことは分からない。第2の事件で三浦は塚本に会っていたというアリバイがあることが分かったから、容疑者を中川に変更したからな」

 赤いネクタイの男の答えを聞き、喜田は首を再び傾げた。

「中川に動機があるのですか?」

「中川は村外れの研究所の元研究員。一連の事件に研究所に保管された研究記録が関わっているかもしれないな。ところで、第3の事件はどんな奴だったんだ?」

「森の中で平井村長が殺害されました。これまでの事件同様、事件現場には白い縄が残されています。そこで質問ですが、中川宏一という男に会いませんでしたか?」

「ああ。午後7時20分に、村役場の方向に走った所を見たな」

 赤いネクタイの男の証言は、中川のアリバイを証明できる物ではない。即ち、三浦を含めた4人が容疑者という事実に変わりない。

「もう1つだけお聞きします。三浦の家を掃除したと言っていたが、その時三浦は家にいたのか?」

「いいや。留守だった」

 男の証言を聞き、喜田の顔が青く染まる。もしかしたら、第4の事件が起きているかもしれないと彼は思った。

 

 8月16日、午前1時。やや暗い旅館の廊下で田辺彩花は宮川黄介に右手を差し出した。

「あの事件から今日で10年になる。夕陽が沈み始めたら研究所へ行きましょう」

「そうだな」

 2人が握手する様子は、トイレから戻ってきた1人の少女が聞いていた。

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