第9話 新たな遺体

 夜明けと共に、新たな遺体が発見された。その知らせを聞き、赤城警部が現場となった民家の玄関前に駆け付ける。

 先に到着していた駐在所に勤務する警察官は、手帳を開きながら赤城警部に報告した。

「殺害されたのは、三浦辰夫さん。第一発見者は朝の散歩中のお爺さんです」

 村長殺人事件の容疑者の1人である三浦が殺されるとは想定外だと赤城警部は思った。それから彼は、現場に横たわる三浦の遺体を観察する。三浦は白い縄を掴んで息絶えていて、後頭部には殴打された痕が残っていた。

 その後、検視官は警部に検視の報告を済ませる。

「死後硬直から死亡したのは4時間前かと思われます。後頭部を殴打された痕があることから撲殺されたものかと」

「つまり、犯人は4時間前の午前1時頃、現場で被害者を撲殺したといった所か?」

「おそらくそうでしょう。それと、遺体の脇の下に白色の繊維が付着しています。鑑識に回した方がいいでしょう」

 これが連続殺人事件だとしたら、村長殺人事件でアリバイのなかった3人の誰かということになる。

 

 その時、三浦辰夫の自宅を捜索していた警察官が、赤城警部に思いもよらない報告をした。

「赤城警部。居間で中川の遺体が発見されました」

 刑事は焦り居間に駆け付ける。そこには白い縄で首を絞められた、中川宏一の遺体が吊るされていた。

 足の踏み場になりそうな椅子が近くに置かれ、遺体の右手は白色の封筒を握っている。

 赤城警部は、中川の遺体を降ろし、検視官を呼ぶ。到着を待つ間、警部は遺体が握っていた白色の封筒を手にした。遺書と書かれている封筒を開けると、1枚の紙が出てくる。

『悪霊に取りつかれた4人を殺した罪を、死んで償う。ごめんなさい。茜ちゃん』

「茜ちゃん?」

 これまで捜査線上に浮かんでいない名前に、赤城警部は首を傾げた。間もなくして、玄関先で三浦の遺体を検視していた検視官が駆け付けた。

 数分程で検視を終わらせ、報告する。

「首を絞められた時にできる柵状痕はありますが、古川線がありません。司法解剖で体内から睡眠薬の成分が検出されない限り、自殺で間違いないかと。死亡推定時刻は死後硬直の状態から、三浦辰夫殺害直後の午前1時頃だと思われます」

「最後の被害者、三浦辰夫を殺害した後で自殺。これが連続殺人犯の書いたシナリオということか」

 そう呟いた後で、赤城警部は部下に指示を出した。

「一応この家で、指紋の採取などの鑑識作業を行ってもらう。念のため周辺での聞き込みも行おう。俺は自殺した可能性の高い中川の自宅に行き、裏付け捜査を行う」

 

 一晩を森の中で黒ずくめの男と過ごした喜田参事官は、森の中で千間刑事部長からの連絡を携帯電話で受けていた。

『合同捜査の手続きに手間取ってな。やっと群馬県警上層部に了承を得ることができた。群馬県警の刑事への情報提供は、お前に任せる』

 仕事が遅いと不満そうに刑事部長の話を聞いていた参事官は、受話器越しに尋ねる。

「そちらの捜査状況はどうなっていますか?」

『篠宮澪に何度も電話していた男がいるという証言を、従業員から聞くことができた。中川と名乗る男だったそうだ。現場から数キロ離れた川辺から篠宮の携帯が見つかって、最後の着信記録には、中川という名前が残されていた。自宅から発見された中川宏一の名刺に記された携帯電話の番号と一致している。

 中川の名刺の番号に電話しても、繋がらないというのが気になることだが、中川宏一が被害者を呼び出し、殺害したというのが』

「分かりました。実はこちらで起きた事件の容疑者に、中川宏一という男がいるんですよ。第3の事件の容疑者の写真を送れば、捜査は進展しそうですね」

『そうだな。群馬県警の鑑識に問い合わせて、中川の指紋を入手すれば、事件は解決したも当然だな』

 喜田は携帯電話を切り、刑事部長に3人の容疑者の顔写真をメールで送った。これで真相に辿り着くことができると期待しながら。

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