第4話 遭遇

 この一部始終を、気配を消した喜田輝義が見ていた。不審な動きをする三浦の事が気になり尾行したら、あの少女が三浦に封筒を渡す現場に遭遇。

 こんな田舎町で、あの少女に出会ったことに喜田は驚き、声をかけようとした。この村を訪れた目的や三浦との関係を聞くために。

 しかし、簡単に物事は上手くいかない。気配を消したとはいえ、死角がなければ意味がない。故に目撃者の存在は、すぐに気付かれてしまう。

 一瞬の内に、少女が喜田の前に立ち塞がる。そして、スタンガンを取り出し、笑いながら首を傾げる。

「何か見ました?」

「少しだけ話を聞かせてくださいよ。三浦辰夫に何を渡したのでしょうか? ウリエル」

 静かな口調で喜田が尋ね、少女が質問を重ねる。

「あなたは公安警察ですか?」

 緊迫した空気が流れる。それは答えによっては、この場で殺人事件が起きる可能性もありえると、喜田は汗を流す。

「公安ではありませんが、警察です」

 真実である証拠として、喜田は警察手帳を少女に見せる。

「嘘は吐いてないようですね」

 少女がジロジロと警察手帳を見ている間に、喜田参事官は次の一手を考える。このまま自分の正体を明かしても、信じるかどうかは賭けになる。

 何とかできないのかと策を講じる中、事態は最悪な展開に向かい始めた。

 突然、少女の背後から2人組の黒ずくめの男が現れる。黒色のスポーツ刈りに長身の体型。サングラスや身長まで同じ男達で、違いはネクタイの色のみ。右側に立っている男が赤色のネクタイをしていて、左側が青色のネクタイだ。

 この展開はマズイと喜田参事官は思った。彼らはウリエルを守護する暗殺部隊、鴉のメンバー。一人一人が卓越した暗殺術の持ち主。

「目撃者か? 神社の中で張り込んでいる黄色とピンクは何をやっているんだ?」

 赤いネクタイの男が頭を掻きながら、オートマグと呼ばれる拳銃を取り出した。銃口にはサイレンサーを取り付け、頬を緩ませる。

 長身の黒ずくめの男の隣で、ウリエルが尋ねた。

「遺言はありますか? 勇敢な警察官様」

「勇敢な警察官様ですか? 随分敬意を賞してくれますね」

「父の影響でしょうか? 被害者の顔を一生忘れない。というのが父の口癖でした」

 絶体絶命と思えたその時、喜田の背後から別の男が声を出した。

「何をやっているっすか?」

 背後には、前方で立ち塞がる男達と同じ髪型の男が立っていた。黄色いラインがアクセントの黒色ジャージを着た男にイラつく赤いネクタイの男は、喜田を指差す。

「警察官らしい男が、受け渡しを見ていたんだ」

「その男、アズラエルっすよ? 組織のナンバーフォーの顔が気になって、個人的に調べたら、その顔が出て来たっす。一応、写真を隠し撮りして、ザドキエルに確認したら、間違いないって答えたっす」

 黒ずくめの男の仲間らしい男の言葉を信じた赤いネクタイの男は、拳銃をスーツのポケットに仕舞った。その後でウリエルは、肩を落とす。

「それならそうと言ってくださいよ。アズラエル。こんなところで何をしているのですか?」

「事件の捜査です。東京で見つかった遺体の傍に、この村の送り火祭りで使う白い縄が落ちていたのでね。そちらは何をしていたのですか?」

 仲間からの問いかけを聞き、ウリエルは指を3本立てた。

「私達の目的は3つあります。1つ目は、三浦辰夫さんとの接触。資産家でもある彼から資金援助を依頼するために直接会い、取引を行うんです。2つ目は、ファンクラブ限定DVDの撮影です。この群馬県の秘境でロケをしているのですよ。カメラ撮影と音響、及び編集は鴉さんに任せています」

「3つ目は?」

「あなたと一緒で、殺人事件の捜査ですね。私達は先に言った2つの目的を達成するために、この村を訪れたのですが、昼頃になって篠宮澪が殺されたって知らせがあって、私なりに事件の真相に挑もうと思いました。私と彼女の繋がりを警察が調べる前に、犯人の正体を暴く。これが私達の目的です」

「あなたと篠宮澪との関係というのは?」

「篠宮澪は私達に活動資金を流していました。彼女とは殺される直前に会っていましたが、不審な動きはありませんでしたよ。おそらく、私と別れてから犯人に呼び出されたのかと思います」

「なるほど。それで、何か手がかりはありましたか?」

「村外れの研究所でガス爆発により、身元不明男性が殺害された第一の事件。その事件現場には、防火加工のされた金庫室が設置されていて、その中には研究記録が保管されているようです。おそらく、第一の被害者は、研究記録を手に入れようと現場に向かい、犯人の罠によって殺害されたと言ったところでしょうか? そして、篠宮澪は村の再開発に手を貸し、研究所を解体しようとしました。一連の事件が研究所に保管された研究記録で繋がるとしたら、次の標的は三浦辰夫ですね。彼は村の再開発の賛成派のようですし」

 彼女の推理を聞かされた喜田の頭に幾つかの疑問が浮かぶ。

「研究所の研究記録というのは、何でしょう?」

「微生物に関する研究記録のようです。事件現場となった研究所は、馬場大輔という男が管理していて、研究所の隣に建てた洋館に住んでいました。馬場大輔とその妻は、一人娘を残して、10年前の心中事件で亡くなっています」

「心中事件?」

「調べたところによると、馬場大輔は妻を指し殺し、自宅である洋館に火を放って亡くなったそうです」

 少女から新たな情報を入手した喜田は、10年前の心中事件や保管された研究記録が事件の真相に関わっているのではないかと思った。だとすれば、犯人は誰なのか?

 塚本八重子以外にも容疑者がいる可能性も出て来たところで、ウリエルと名乗る少女と黒服の集団は、喜田の元から姿を消した。

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