第2話

 平和とはある日破られるものか或いは私たちは常に凄惨な混乱の中にいてその混乱が破られた時こそが平和という息継ぎの一時なのか。

 前触れはおそらく、その日から70年前とか100年前とかあるいは2000年前から脈々と続く人々の怨嗟だ。

 歴史は途切れないし、現在とは歴史のある一瞬である。  国に3度目の爆弾が落ち、今日で五年経つ。

 平和祈念と書かれた横断幕の下、人は集い折り鶴を飾り忘れませんと誓ったその口で誰かへの悪態をつく。こうして人は歴史を生きてきた。誰かに責められたり責める権利を持つものはいない。かつて誰かが売女に石を投げる人々に言ったように。

 爆弾の落ちた場所は地形もさして変わらず、人がバラックを建てて住んでいる。そこで作られた作物も出回っているが、買わない者もいる。

 爆弾は世界に何度か落とされ、これからも落とされる。そういう風になった。

 わたしはその何度かのうちの一度、自分の国に落ちたそれに遭遇し、その時剥がれた腕の皮膚の痕が残っている。それから顔に大きな痕も。お金があればまあ、顔の皮膚くらいはどうかなると言われたけれど。腕はかなりの範囲皮膚が剥がれ落ちたので、かなりのお金がかかる。お金がなければこのマークは消えない。つまり、軽んじていい存在というしるしが。

 今わたしはバラックに住んでいる。

 爆弾が落ちてから昔テレビで見ていたようなスラム街として復興したわたしの街では、たまに爆弾を落とした国の人が来て女や、時に男を買っていく。買ってもらえればいい方で、わたしたちのようにマークがあるものは面白半分に強姦されることも新しく買った武器の試し撃ちに殺されることもあった。

 友達のエリカは強姦されて身ごもり、恋人と人種が違うだろうなあという子を産んだ。強姦するときは避妊具を付けて欲しい。

 放射能を浴びたから、それを健康な土地に拡散させないために街の周りには国の作った高い壁がある。壁の建設に反対する健康な人なんていなかった。わたしたちは物だから、容れ物に入れられて死ぬのを待たれている。

 私の名前はマリ。マークがついた黄色い肌、黒い髪の毛で身長は163センチ。死を待たれている元気な十七歳だ。

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